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ログイン ~リアルのオンラインゲームは待ったナシ~  作者: ロングブック
第一章 バイト戦士と私の王子様
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ページ33 眼で殺す

「くくくっ。それで君は正座させられてこってり絞られているのかい?」


「ちょっと青井さん。他人事みたいに言わないで下さいよ!」


 オレは更衣室の中で着替えの終わった3人の少女達の前で正座をしていた。


 ただ、そこが女子更衣室であるが故に……。


「みんなと別れた後、シャワーを浴びて更衣室で着替えてたら、いきなり古賀に変化(へんげ)したドッペルゲンガーが襲い掛かって来たんですよ!」


 ドッペルゲンガーは基本的に初めて己が見た人間に変化し、その人間を襲う習性がある。


「それで心配になって、慌てて無事を確認しに来ただけなのに……」


「それはわかるけど、別に入って来なくても外から呼び出せばよくない?」


 青井さんに泣き付くオレを横から古賀が一蹴する。


「あっ……」


 突き刺さる冷たい視線。


 数時間前に目の前でダークエルフに殴られたこともあって、オレは必要以上に動揺していて、そこまで考えが至らなかった。


 緊急事態だったんだよ……。


「ご、ごめん……」


 おかしい。


 助けに来て、助け出したはずなのに、何故オレが謝る羽目に……。


 どうしてこうなった。


「あ、あったーっ。青井さーん、これ魔石じゃないですか?」


「うん? どれどれ」


 もうとっくに許してくれた左雨さんは、先ほどから探していた魔石を見つけて青井さんを呼んだ。


 そして部屋の隅ではノエルがブツブツ言いながら震えていた。


「モンスターを倒したユウトを響子は一撃で倒してたの。響子を怒らせると怖いの……」


 カオスであった──。



 ドッペルゲンガー事態はそれほど強くはないモンスターなのである。


 流動体の為、物理攻撃は効かないという点を除けば比較的弱い部類だ。


 魔法などによる炎や氷などの外部からの温度変化が弱点で、プレイヤーだった者なら誰でも知っているゲーム知識である。


 オレは古賀の叫び声で目を覚まし、咄嗟にすぐ近くにあった消火器をドッペルゲンガーに向けて放った。


 初めは注意をこちらに向ける為だったけど、途中で思い出した。



 後半ほとんど行ってなかった、中学で合った避難訓練。


『消火器には窒息効果と冷却効果がある。取り扱いには充分注意して、くれぐれもふざけて扱うことの無いように注意するんだぞ』


 そう、消防隊の人が言っていた。


 どの程度の冷却効果があるのかは知らないが、これ幸いにと消火器の中身をすべてぶちまけてやった。


 そうして得た戦利品は手元には残らなくとも、しっかり眼に焼き付けた。


 納得は行かないが、悔いはない!


 古賀もそこまで本気で怒っていたわけじゃないようで、なんだかんだ言いながら許してくれた。


「良い? 一つだけ何でも言うことを聞くこと!」


 無条件に約束させられたのである。


 ねぇ、これって許してなくね?


 いったいオレは何をさせられるの……。


 そんな感じでやっと落ち着いたオレ達を、憎らしくも青井さんが笑いながら、今後について話すから校長室までついて来てくれと誘導した。


 ただ、古賀についてはゼロのメンバーではないので体育館で待機だ。


 モンスターの脅威を肌で感じたせいか、古賀は何も言わずに頷いて別れた。



 校長室の前で待機していた菊池さんがこちらに気付き敬礼をし、青井さんが答礼で返し、オレ達は会釈した。


 コンコン。


「……どうぞ」


 青井さんが中に入り、オレ達もそれに続く。


「──失礼します」


 おどおどと足を進めたオレ達を迎えてくれたのは二人の女性だった。


 大きな校長机の前に並べられた、これまた高級そうな応接セット、その片方に腰かけたお婆さんと傍に控える若い女性。


「早かったですね」


「ええ、おかげさまで」


 その声の主には聞き覚えがあった。


「あれ、お婆さん……?」


「ふふっ、またお会いできましたね」


 オレの疑問に茶目っ気たっぷりに微笑むお婆さん。


「影山くん知ってる人?」


「クンクン、この匂いは……、朝の女の匂いと同じなのっ」


 血の気がスッと引いていくのを感じた。


 すぐにノエルの肩を両手でガシッと掴み声を上げた。


「ちょノエルッ。ちゃんと説明しただろ?」


 朝の女って、失礼過ぎるわ!


「甘いの! 男はみんなそう言うのっ」


 ノエルがオレを指さして宣言した。


 どこの昼ドラだよ。


 こいつ、オレに対してだけ信頼度低過ぎないか……。


「ふふふ、どうやら要らぬ誤解を招いてしまったようですね」


 お婆さんが楽しそうに微笑む。


 左雨さんは話についていけずオロオロし、青井さんに至ってはマスクと腹を抱えて終始笑いを堪えていた。


「ゴホン。……一先ず、こちらへお掛け下さい」


 そして、見るに見かねてもう一人の女性が席を勧めた。


 お婆さんと一緒に中にいた女性は、キリッとした眼鏡と顔立ちに地味目のスーツ姿の30代前半ぐらいの女性だった。


 この人がお婆さんの言っていた早く結婚して欲しい娘さんかな……。


「何か?」


 席についてじろじろ見ていたオレに殺気の籠った言葉が飛ぶ。


「いっ、いえ。何でもっ」


 怖い怖い。


 マジで怖い。


 眼で殺されるかと思った。


 誰か早くもらってあげてっ!


 それを笑顔で見守るお婆さん。


 これ、絶対見えてるよね?!

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