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ログイン ~リアルのオンラインゲームは待ったナシ~  作者: ロングブック
第一章 バイト戦士と私の王子様
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ページ32 ドッペルゲンガー

「本当に驚いたよ。愛が魔法を使うなんて……」


 私はそう言ってシャワーの蛇口を捻った。


「うん、でも連続では使えないから、森先輩の方はもう少し時間を置かないとダメなの……ごめんね」


 仕切りの向こうで申し訳なさそうに愛が俯いた。


 それでも、校長先生に回復魔法とやらを唱えてケガがスッと消えて行く様を見た時は、正直腰が抜けるかと思った。


「大丈夫よ。森先輩の方が若くて体力もあるし、魔法ですぐ直るなら少しぐらい平気よ」


 今は二人共保健室のベッドで眠っている。


 校長先生もあの様子ならすぐに目を覚ますと思う。


 そして、愛のさらに仕切りの向こうで、先ほど紹介されたノエルさんが両手を腰に当てて口を開いた。


「ふふん、愛は凄いの! ノエルも愛に治してもらったのっ」


 ふふ、面白い子。


 なんでこの子がドヤ顔するのかしら。


「あ、ノエル。これが蛇口だよ。これを捻るとお湯が出るの」


 嬉しそうに振り向いた愛が仕切り越しに何やら教えている。


「おおおお、ってこれ、蛇の口じゃないの。わあっ?! 温かいっ! 水じゃなくてお湯なのっ。え、えっ? どぉなってるのおおおっ?!」


「くくくっ」


 思わず笑いが零れてしまう。


 いけないいけない、この子はこっちの世界の人(・・・・・・・・)じゃないのよね。


「もぉ、響子ちゃんも笑ってないで手伝ってよぉ」


 愛が泡塗れになりながらノエルさんの髪を洗い始めた。


「はいはい、それにしても綺麗な髪よねぇ」


「響子もとってもスタイルがいいのぉ~」


 泡が眼に入らないように、目を瞑ったまま愛にされるがまま気持ちよさそうにノエルさんが答えた。


「あら、そう? ふふ、ありがと」



 ヘリが無事到着した後、私達はいっぱい泣いた。


 愛と抱き合って安心したら涙が溢れて来た。


 その後も、体育館で世良先輩と清水先輩と抱き合って……。


 眼も顔もいっぱい腫らせた私達は、自衛隊の偉い人に言われて四日ぶりに部活動用のシャワー室を使わせてもらったのだ。


 何だかというべきかやっぱりというべきか。


 私達の知らないところで大変なことが起こっていたみたい。


 愛に色々話は聞いたけど、気が動転していて、たぶんまだ半分ぐらいしか理解できていないかも……。


 モンスターが現れたとか言われてもいまいちピンと来ないし。


 でも、愛が魔法を使うところを実際に見てしまってからは、幾分か素直に信じられるようになったかな。


「はい。これでよしっ」


 愛が身体を洗ったノエルさんにバスタオルを巻いてあげた。


「ありがとなの」


 帰宅部にほど近い私は知らなかったのだけれど……。


 うちの高校は無駄に金があるようで、部活動が終わった後にいつでもシャワーを浴びれるようにとクリーニングされたタオルが何枚も常備されてあった。


 しかも、更衣室には男女、洗濯機が3台ずつ置かれていて、身体も服も部活動での汚れをすべて落として帰ることができるのだ。


 本当に驚きであるけど、今のこの状況ではそれが非常に有り難い。


 がらがらがら~。


「洗濯終わってるかな~?」


 シャワー室から出た私達は、バスタオル一枚巻いたまま、洗濯機のタイマーを覗き込んだ。


「ん~。あと5分みたい。座って待ってよ」


「はいなの」



 三人で椅子に座って待っているとそいつは突然現れた。


 ガシャン!!


 ダッダッダッダ。


「古賀ッ、無事かッッ?!」


「「えっ?!」」


 ドアを開け、視界除けのロッカーを回り込んで入った来たのは、私達と同じく、下半身だけタオルで隠して血相を変えた影山だった。


「か、影山くん?!」


「このぉ、変態いいっ!!」


 ドンッ!


「ぐはっ?!」


 愛が声を上げ、私は咄嗟にすぐ近くにあった消火器を全身の力を使って影山に投げつけて沈めた。


 一部始終を見ていたノエルさんは驚愕して口が開いたまま固まっていた。


「ちょ。大丈夫? 影山くん?!」


「はぁ、はぁっ……」


 愛が驚いて立ち上がり、私は肩で息をしていた。


 影山は動かない。


 ただの屍のようだ。


 よしッ!


 そこに新たな侵入者が現れた。


 ガシャ。


 静かにドアの開く音。


 私達3人は顔を見合わせて身構えた。


 コツコツコツ。


 次の侵入者は静かに入って来て、視線除けのロッカーから顔を出すまでに少し時間がかかった。


 トクントクン。


 ひりつくような焦燥が鼓動の音を高鳴らせる。


 そして現れた。


 私が──。


「……え?」


「響子、ちゃん……?」


 まっすぐ入って来て、床で蹲る影山を見下ろしていたもう一人の私が、私達の声に気付き、身体をこちらへ向ける。


「なっ?!」


 私はその姿に驚愕した。


 セーラー服を来たもう一人の私は、腕から先がなかったのだ。


 いや、先はある。


 ただ、その先は刃の様にすらっと細くなっていて、明らかに人間のソレではなかった。


「ドッペルゲンガーなの!」


「響子ちゃん、逃げてッ!」


 硬直する私をおいて、愛と弓と矢をいつの間にか手にしたノエルさんが私の前に立ち塞がる。


「え、なに?!」


 間髪要れずに放たれた矢は、もう一人の私のお腹に突き刺さって止まり、ポトンっと床に落ちた。


 そして、開かれた穴はゆっくりと綺麗に塞がっていき、何事もなかったように服ごと(・・・)塞がった。


 私一人、頭がついていかなかった。


「ダメっ、ノエル! ドッペルゲンガーには物理攻撃は効かないのッ」


「でも、攻撃魔法は……」


 そして、二人がもう一人の私から視線を一瞬外した、その一瞬だった。


「「きゃあっ?!」」


「ぇ……」


 ドスンッ!


 もう一人の私が両腕を前に突き出したと思ったら、その腕が物凄い速さで伸びていき、愛とノエルさんの腹部を突き飛ばして、そのまま後ろの壁に叩きつけた。


 壁に貼り付けられてぐったりする二人。


 スルスルとゆっくり両腕が縮んでいき、二人は床に倒れて動かなくなる。


「愛ッ?! しっかりしてッ」


 いくら身体を揺さぶっても目を覚まさない。


 私の頭が真っ白になった──。


 そしてようやく私も悟った。


 これがモンスターだ。


 もう一人の私は先ほどと同じように、右手を刃に変え、最後に残った私の方に歩き出す。


 無言のままその顔は馬鹿で無知な私を嘲り笑うように歪んでいる。


「ぁぁ……」


 腰が抜け、眼からは涙が零れていた。


 せっかく助かったと思ったら、私はこんなところで死ぬの?


 あぁ、こんなことなら影山の話ぐらい、聞いてやればよかった。


 裸を見られたぐらいで頭に血が上って、馬鹿みたい。


「嫌……。来ないで……」


 無情にもその足は止まらない。


 お婆ちゃん、せっかく王子様見つけたのに……ごめんね。


 その時はすぐに訪れた。


 振り上げられた私の右腕。


 ──嫌。


 死にたくない。


 誰か助けて。


 助けてよ……。


 そして振り下ろされる。


 影山……、助けて。


 私は目を瞑り、最期に叫んだ。


「影山ッ助けてええええええええええええっ!」


 プシュウウウウウウウウウウウウウウウ。


 突然白い霧がモンスターごと私を包み込んだ。


 目の前にいたはずのモンスターすら、見えなくなるほどの濃い白い霧。


「ゴッホゴッホ……」


 ……何?


 天井の喚起に吸い込まれて徐々に晴れていく視界。


 薄れていく白い霧に交ざって黒い霧も消えていき、コンッというようなガラスか何かが床に落ちる音がした。


 そして、ようやく見えるようになった視界の先には、消火器を抱えホースを構えた影山がいた。


 影山と眼が合う。


 不意に影山が顔を反らした。


 ……?


 ピーッピーッピーッ。


 洗濯機の止まった音が更衣室に鳴り響いた。


「その、……なんだ。何か羽織った方がいいと思うぞ」


「ぇ……?」


 言われて下を見ると、巻き付けて合ったはずの3人分のバスタオルが肌蹴て、床に散乱していた──。

愛「ドッペルゲンガーって、こちらの世界じゃソレを見た者は殺されて、本人とこっそり入れ替わるらしいです。ここに居る響子ちゃんは本当に本物かなぁ?」


響子「あ、影山が居るわ。どうしよう。何を話せば……(赤面)」

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