ページ31 学校奪還 その4
訳も分からず、突然知らぬ土地に放り出されて、行く当てもなく彷徨った挙句、部下たちを休める場所も必要だったのだろう。
体のいい場所を見つけて生徒と先生達を拉致して占拠した。
おそらくこんな所だろう。
食料確保などもできず極限状態になれば仕方ないことだってある。
オレはもう一度古賀を一瞥して疑問を口にした。
「なぁ、その害虫って言うのは何なんだ?」
どこか癇に障ったのか、男は急に顔を上げ、こちらを睨み付けながら叫んだ。
「貴様等、人間のことだッ!」
そして心底人間を憎むように語った。
「貴様等人間は、我らの大切な森を我が身可愛さに切り開き、住処を奪い、母なる木を枯らす、世界を滅ぼす害ある生き物でしかない。現にここら一帯にも森と呼べるモノはないだろう。人間など滅びれば良いのだッ」
確かにここら一帯は広島市内、過密地域だ。
少し離れれば森もあるんだけど、それは言わぬが花。
この辺は、街路樹なんかはあっても森と言えるほどの森林はないし、環境破壊、温暖化、核兵器などの様々な理由で人間は地球を蝕む害虫なのかもしれない。
だけど──。
オレは知っている。
こいつらが害虫と呼ぶ人間の飯をうまいと言い、おかわりまで強請る『者』を。
己の命を賭して戦い、多くの人間を守ろうとした『少女』のことを!
人間であるオレの身代わりになって死にかけた『エルフ』のことをッ!
彼女は初めからオレ達のことを害虫などとは呼ばなかった。
そして今はもう大切な友達であり、仲間だ。
きっとこいつ等は、己の殻にずっと引きこもり、人間を軽蔑し、嘲り、罵倒し、言葉通り害虫扱いして来たのだろう。
人間の中でも地球を守る取り組みはたくさんあるし、そういった団体もいくつもある。
オレですら一人暮らしでゴミの分別やら電気の無駄遣いには気を付けてる。
エコ舐めてんじゃねーぞ。
相手のことを何も知ろうともせずに、勝手に決めつけて好き放題していいはずがないのだ。
「そうか、その言葉が聞けて安心したよ」
オレは薄ら笑いを浮かべた。
「なら人間を傷つける、人間にとって害でしかないお前を、オレがどうしようが勝手だよな?」
その瞬間男は取り乱し、尻餅をついて後退りながら喚いた。
「ひっ、くっ、来るなッ! 俺は悪くない! 悪いのはお前達だ!」
──処置なし。
「歯ァ食いしばれ害虫ッ、古賀の味わった痛みはこんなもんじゃねェぞ!」
オレの右ストレートが男の顔面に吸い込まれる。
「がは……っ」
◇
──遠い遠い記憶の奥底。
『100年間眠り続けたお姫様の元に、ようやく王子様は辿り着いたのです』
小さな私に絵本を呼んでくれているお婆ちゃん。
『そして眠り続けるお姫様に嘆き悲しみ、魔女に言われた通り口付けをしました』
小さな私はいつもそのシーンでドキドキして、恥ずかしくなり顔を手で隠した。
『すると、本当にお姫様は目を覚ましたのです』
指と指の間から見える二人はとても幸せそうに笑っていた。
『ねぇおばあちゃん、わたしのところにもおうじさまはきてくれるかなぁ?』
お婆ちゃんはやさしく微笑んで私の頭をそっと撫でた。
『響ちゃんが良い子にしていたらきっと来てくれるよ』
『うんっ』
…………。
……。
◇
意識が朦朧とする中、悲鳴のような大きな声でぼんやりと目を覚ました。
まだ少し頬が疼く。
うっ、影山はどうなったのかしら……。
「…………こんなもんじゃねェぞ!」
え……?
顔を上げた先に見たモノは、あのリーダー格の男を殴り飛ばす、影山の後姿だった。
「ぁ、ぁぁ…………」
胸の奥からとめどなく熱いモノが込み上げて来る。
自然に涙が溢れ出す。
私はこの三日間のことを一生忘れないだろう。
──お婆ちゃん、見つけたよ。
世良「きゃー。古賀ちゃんの恋の行方はっ?!」
清水「次回、古賀恋物語」
古賀「ちょっ。二人とも! そんなのありませんからっ!!」
清水「この続きが気になる方は、是非『評価』と『ブックマーク』をクリックお願いします」