ページ3 少年は大志(厨二病)を抱く
昨日の夕方頃から騒ぎは起こっていたそうだ。
突然、至るところで見たこともないモンスターが暴れ出した。
人が集まる駅などは地獄絵図だったらしい。
多くの人々は逃げ惑い、自衛隊による避難誘導、そして戦闘と。
その被害は甚大なものとなっていた。
そんな中、オレは運が良かったそうだ。
気を失った後、たまたま通りかかった自衛隊に助けられ病院に運ばれた。
手術は夜中まで続き、その間も重症の患者や避難してきた人で病院は溢れ返り、自衛隊の協力により病院の駐車場にシェルターが建てられて多少落ち着きを取り戻したそうだ。
オレは朝方になってようやく集中治療室からこのシェルターに移されて来たらしく、騒ぎの様子を目の当たりにすることもなく、いつまでも眠っていたらしい。
オレが戦った着ぐるみの強姦達……。
アレってもしかして、着ぐるみじゃなくて本物だったの?!
ていうか、本物って何んだよ? どこかの組織のバイオテロとか?
話を聞きながらオレの頭はキャパを超えた出来事にパンク寸前だった。
「あ、あと、手術中に影山くんのお母さんから電話があったよ……」
くそ、考えただけでゾッとする話だ。
周りにあるベッドに寝ている人達を見ればわかる。
ただの事故や事件の比じゃないことぐらい。
きっととんでもないレベルで何かが起こったんだ。
ここに居る人達はある程度治療が終わった者達だ。
つまりここに居るだけじゃなく、もっとたくさんの人がこの病院に運ばれているのだろう。
いったいどれだけの人が……。
そして、起こったことの重大さを考えるあまり左雨さんの言葉があまり耳に入って来ていなかった。というか、これ以上の情報は脳が拒絶していた。
「そっか」
はぁ~、わからない事を考えても仕方ないな。
きっと自衛隊とかが何とかしてくれるよね。
「こっちは大丈夫だから心配しないでって言ってたよ」
被害に遭った人たちには悪いけど、途中からオレは考えるのを辞めた。
だって、何の力もないただ逃げるだけの一介の高校生にできることなんてない。
そんな暗い事をいつまでもたらたら考えているより、もっと夢や希望のある事を考えたい。
うーん、モンスターがいるって事は、ゲームみたいに魔法とかもないのかな。
もしあるならオレも使ってみたいなー。
そんな現実逃避だった。
「そっか」
手から火や水を出したり、風を使い空を飛ぶ。
心躍る冒険がオレを待っている。
「あと、その、影山くんのこと、頼まれちゃった」
考えただけでワクワクするね!
しばらく学校は休みになるだろうし、暇つぶしに何か探してみるのもいいかも。
「そっか」
モンスター以外にも話が通じる人とか居ないのかな。
もし居たら魔法を教えてもらおう。
ふふふ、夢が広がるなぁ。
「……うん」
ん?
なんか左雨さんの顔がさっきから赤いけど大丈夫かな。
オレを病院まで運んでくれて、その後もずっと付きっきりで看病してくれたから疲れているんだろう。
感謝してもしきれないな。
もし魔法を覚えられたら教えてあげよう。
さすがに丸一日何も食べてないとお腹もすく。
「若いんだからいっぱい食べて自分の血は自分で作りなさい」
と、少し休んだ後に看護婦さんに追い出された。
シェルターの外で炊き出しをもらえるらしい。
きっと輸血用の血も、そしてベッドも足りてないのだろう。
仕方ない。
急に走ったり動いたりしないようにという注意を受けてのそのそとシェルターを後にした。
シェルターの出入り口に設置してある天幕をくぐり抜けると、そこには写真などでしか見たことのない戦後直後の日本を彷彿されるような多くの人々の姿があった。
「こりゃあ凄い……」
その光景にオレは思わず息を呑む。
晴れ渡る夜空の下、松明がそこかしこで焚かれ、どこを見ても人人人。
何かのお祭りみたい。
その光景にオレは不謹慎にも軽い高揚感を覚えた。
今までの人生でもこれだけ多くの人が一カ所に集まるなんてことは何かのライブやお祭りでしか見たことがなく、必然的に気持ちが高ぶるのは仕方がないだろう。ただ、その理由が最悪であったことを覗けばの話である。
学校の校庭ほど広くない駐車場。
そこにはざっと見積もっても300人以上の避難民が肩を寄せ合っていた。
「駅の方で大きなモンスターが暴れていたみたいなの」
左雨さんがぽつりと呟いた。
ほとんどの人が駅から逃げるように避難して来たのかもしれない。
もし、あのままバイト先に向かっていたら、きっと巻き込まれていただろう。
店長達、大丈夫かな……。
あ、ちなみにスマホは左雨さんが持っていてくれた。
オレは涙を流して受け取ったとも!
すでに圏外でバイト先にも、親にも連絡することは適わなかった。
オレが眠っている間にここら一帯が停電になり、それ以降は電話どころか電気すら付かなかったらしい。
モンスターによってどこかの施設が破壊されたのだろう。
被害が少ないことを祈るのみである。
現在この病院は自家発電による電力供給が行われている。
それも必要最低限の場所だけだ。
「左雨さん、遅くなったけど本当にありがとう。あの時はオレも正直死んだと思ったし、左雨さんは命の恩人だよ」
そう言うと左雨さんは少し俯いてしまった。
「……ううん、私の方こそ助けてくれてありがとう。私ね、影山くんが倒れちゃった時、頭真っ白になっちゃってどうしていいかわかんなくって……。たまたま通りかかった自衛隊さん達に助けてもらっただけだから……」
そうかもしれないけれど……。
オレは左手に目をやり、瞼を軽く閉じた。
うん、手の温もりはまだ覚えている。
オレは知っているよ。
「ずっと傍に居てくれたって看護婦さんも言ってたし、それにさ、目を覚ました時に知っている人が居てくれて凄く安心したんだ。本当にありがとう」
「……うん」
左雨さんはまた俯いてしまった。
頬を紅くして。