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ログイン ~リアルのオンラインゲームは待ったナシ~  作者: ロングブック
第一章 バイト戦士と私の王子様
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ページ23 学校占領 その3

まだまだ古賀響子視点です。

「明日になれば他の生徒達も通学してくるし、事件も公けになるだろうから今日を我慢すれば、明日には解放されるはずよ」


 世良先輩の意見に周囲の生徒達が賛同する。


 あれから私達は各グループの主要メンバーを集めて話し合いをした。


 さすがに今日は家に帰れないと全員が悟ったからだ。


 まず、持ち物の中からお菓子などを出し合い、全員で均等分配。


 これは何日もこの状態が続かないことが予想されること。


 持ち物とはいえ、それほど量がないこと。


 後から揉めることのないようにさっさと全員で均等分配が妥当とされた。


 今夜と明日の朝の分を各自で調節して食べるように言い聞かせた。


 そして、幸いなことに水は体育館の中に併設されたトイレで飲める。


 更に倉庫から一人一枚毛布を引っ張り出した。


 それらの指揮を執ったのが世良先輩と意外な人望を見せつけた森先輩だった。


 世良先輩はバスケ部部員を始め、女子生徒からの信頼が厚い。


 それに対して森先輩は、男子生徒に声を掛けて周り、率先して力仕事を買って出てくれたのだ。


 無論、逆らったり嫌がったらその時点で森先輩が怒鳴り声を上げるのは言うまでもない。


 おかげで女子は食べ物集めと分配。


 男子は毛布の配布と、スムーズに行われたのだ。


 たった一日の我慢だと思えば多少毛布が匂うのも目を瞑れる。


 少し強引なところはあるけど、悪い人ではないと私の中での森先輩の評価がマイナスからゼロに戻ったのだった。


 斯くして、22時には体育館のブレーカーも落とされ、全員が不安の中でどうにか眠りについた。


 明日には助けが来ることを信じて……。



 ◇



 翌日、私達は知る由もなかった。


 世界中でモンスターが現れ、大災害が起こっているといった荒唐無稽な話なんて……。


「どうして助けが来ないんだよッ?!」


 怒鳴り声を上げる森先輩。


「そんなのわかんないわよ! 他の生徒だってもうとっくに登校して来ている時間でしょ?! こんなのおかしいわよ!」


 昨日とは違って困惑する世良先輩。


 時刻は午前11時過ぎ。


「ちょっと二人とも落ち着いて下さい。学校が包囲されていても、人質がいるせいで警察が迂闊に手を出せないのかもしれません。もう少し様子をみませんか」


 私が二人の間に割って入って二人を宥めた。


「チッ」


 自分ではそう言ったモノの私もまたそれを信じてはいなかったのだ。


 この体育館に隔離されて以降、犯人グループからは何の説明や要求もない。


 それどころか、外は至って静かなのだ。


 時折見回りが体育館周辺を回る足音のみ。


 警察による拡声器を使った交渉なども一切聞こえては来ない。


 それが返って不気味で、本当に助けなど来るのかと、不安を掻き立てるのだ。


「古賀ちゃん、ありがとね」


「いえ、みんな不安なのは同じですから」


 たった一日だけど、女子達の不満を聞いたり、元気のない子に声を掛けたりしている世良先輩にも疲れの色が見え始めていた。


 このままではまずいわね。


 水分はトイレの水で何とかなる。


 でも、長期戦を考慮していなかった食料の方は致命的ね。


 元々少なかったお菓子類をさっさと分配して、昨夜と今朝でみんなほぼ食べてしまっていた。


 もし、この状況が長く続くのなら、水だけでどれだけ持つだろう。


 せめて、体育館を出て食堂に行ければ食べ物が手に入るのに……。


「古賀さんは凄いね」


「え?」


 座り込んで考え込んでいた私に、隣に座っていた清水先輩が突然話しかけてきた。


「だって、あの二人の会話に割って入るなんて……、私にはできないよ」


「ちょっと清水さん、それどぉゆぅ意味よぉ」


 今度は私を挟んで逆の方から世良先輩が私の身体を抱き守るように覗き込んで反論した。


「ヒィッ……」


 清水先輩はビクッと身体を強張らせて、両手で顔を隠してしまった。


「「あははは」」


 何だか久しぶりに笑った気がする。


「ふふふ、清水さん、怒ってないから大丈夫よ」


 世良先輩にそう言われ、おずおずと指の隙間からこちらを覗く清水先輩。


「ほ、ほんと?」


 ズキューン!


 その瞬間、私と世良先輩に電流が走った。


 二人で無言のまま頷き合い、謎の協定が生まれる。


 何も言わなくともわかるわ世良先輩。


 この子は私達で保護しましょう。



「あのね、古賀さん、これ、良かったら……」


 そう言い、清水先輩は鞄から一冊の本を取り出した。


 これ……。


「グリム童話?」


 世良先輩がぽつりと呟いた。


「うん、よくこの本読んでたから……」


 清水先輩のキラキラした視線に、私は苦笑いを浮かべた。


「亡くなった祖母が、よく読み聞かせてくれてたんです」

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