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ログイン ~リアルのオンラインゲームは待ったナシ~  作者: ロングブック
第一章 バイト戦士と私の王子様
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ページ21 学校占領 その1

古賀響子視点です。

 ──── 時は少し遡る ────



 私は一年、古賀響子。


 私がこの高校を選んだ理由は今も昔も変わらない。


 当時から仲の良かった愛が無謀にも広島でも1、2を争うこの高校に進学すると言い出したからだ。


 でも、それは学年でも常に上位をキープしていた私に合わせてのことだった。


 そのことがわかった時は愛の気持ちが嬉しくて嬉しくて堪らなかった。


 私達は二人揃って入学できるよう、中学の最後の一年はずっと一緒に勉強をしていたと思う。


 私が苦労して教えた甲斐あって愛も無事入学が決まり、クラスも一緒とわかった時には二人して声を上げて泣き喜んだ──。


 お互いに実家から学校まではそう遠くない。


 それでも何とか一緒に、学生寮に入れるよう親を説得した。


 今までよりもっと一緒に居れるように……。


 結果から言えば、努力の量が大きかった愛は許可され、合格がわかりきっていた私は却下された。


 あの頭の固いおっさんとは二度と口を聞かない。


 というか、入学から一ヶ月経った今でも喧嘩中よ。


 学校が終わってそのまま帰ると家で顔を合わせてしまうのが嫌で、週末に愛の寮に泊まりに行く時以外は、図書室で時間を潰してから帰るのが日課になっている。


 愛はいいって言ってくれたけど、一緒に寮に入る約束をして二人で頑張ったのに、本当に悪いことをした。


「はぁ、そろそろ帰ろうかな」


 窓から外を見ると、先ほどまでグラウンドで部活動をしていた生徒達も居なくなり、空には月が見え始めていた。


 私は受付で本に被りついている図書委員の女子生徒を横目に部屋を後にした。


 毎日、あの静かな空間で時を共にする数少ない同志だ。


 よっぽど本が好きなのね。


 静かで勉強も捗るあの場所は、私も気に入っている。


 夕暮れの校舎はシーンと静まり返っていて、人影もなく少し肌寒く感じた。


 いつも通り階段を下りて一年生の下駄箱へ向う。


 不意に人の気配を感じて立ち止まると、スッと背後から首元へナイフが回された。


「え?」


 足音も物音も何も聞こえなかった。


 立ち止まったのも何の根拠もない違和感みたいなもの。


 こ、これ本物……。


 視界に見えるナイフは柄の部分がなく、傷なども多くかなり使い込まれているように見えた。


「動くな」


 低い男の声。


 その一言で私の呼吸ごと身体はぴたりと凍り付いた。


「我々はこの城の主をすでに捕獲した。素直に降伏すれば手荒な真似はしない」


 意味がわからない。


 我々? 城の主?!


 少なくともここには私とこいつの二人だけだ。


 他にもいるってこと?!


 突き付けられたナイフによる恐怖で声が出ない。


 どうにかコクリと頷くとナイフが首元から外され、背後へそっと戻っていった。


 そっと振り向くと、そこには若い男が先ほどのナイフを持って立っていた。


 ただし、黒い。


 黒人のように全身の肌が黒く、身長は180を超えているのではないだろうか。


 そして着ている物、身に着けている物、すべてが黒かった。


 まるで夕暮れの闇に溶け込むように……。


 私は見上げるようにその男と目を合わせると。


「そのまま外に出て、あの講堂へ向かえ」


 そう言って廊下の窓から見える体育館を指さした。


 ……どうする。


 この時間じゃ大声を出しても誰も居ないかもしれない。


 そんな不安が脳裏を過る。


 ナイフを握り締めたままこちらを睨む男。


 帰り道の街中じゃあるまいし、強盗や痴漢がわざわざ誰にも見つからずに学校の校舎まで入って来て犯罪を犯すとは考えにくい。


 この男はいったい何者だろう。


 『素直に降伏すれば手荒な真似はしない』


 何にせよ、私にはこの言葉を信じるしかなかった。


 私はコクリと頷いた。



 男は私の少し後ろでナイフを片手について来た。


 刃物を持った男に後ろからついて来られるというのは、想像以上に恐怖ね。


 私は震える手をさすりながら体育館に向かった。


 愛が一緒じゃなくて本当によかった。


 体育館に近づくにつれ、入口には同じように全身真っ黒な格好をした男達が数人居るのがわかり、男の言った『我々』の意味を理解した。


「通信機を出せッ」


 入口に着くなり、一人の男が告げた。


 通信機……?


 そんなの持って……、あ、スマホのこと?


「これですか? ……あっ!」


 鞄からスマホを取り出して見せるとバッと叩くように取り上げられた。


「え、ちょっと返しきゃっ?!」


 ドンッ!


 奪われたスマホに手を伸ばそうとした瞬間、いつの間にか開いていた体育館に突き飛ばされた。


「痛ったぁ」


 体育館の床で膝を擦りむき、顔を歪めて男を睨むと。


「手間を掛けさせるな」


 吐き捨てるように言って、扉を閉められた。


 もうっ! 何なのよっ!


 私のスマホ、返してよ……。


「ちょっとあなた、大丈夫?」


 扉を睨んでいるとポニーテイルの気の強そうな女子生徒が駆け寄って来てくれた。


 このスカーフの色は三年生かな。


「あ、はい、擦りむいただけです」


 差し出された手を掴んで立ち上がり、再び扉を睨んで文句を言う。


「スマホ、取られちゃいました」


「そう……、私達も、みんな取られたのよ」


 そう言って視線を周囲に向ける。


 そこには男女30人ほどの生徒がいくつかのグループに分かれ、腰を下ろしていた──。

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