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ログイン ~リアルのオンラインゲームは待ったナシ~  作者: ロングブック
第一章 バイト戦士と私の王子様
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幕間 ページ0 とある男の苦悩

 青井誠である僕には、現在重要任務が課せられている。


 ヘッドセット越しに漏れて来るヘリの騒音が苛立ちを助長させた。


 時刻は午後4時過ぎ。


「くそっ、和歌山、滋賀それに奈良も全滅だ……」


 各地に散る協力者達からの定時連絡は何の成果も得られなかった。


 硬い背凭れに寄りかかり大きな溜息を吐き出した。


 キャップから下される指令はいつも難解だ。


 窓の外に映るどこまでも透き通った青空はまるで先行きの見えない未来を映し出しているかのようだった。



 世界中に出現した謎のモンスター。


 そこに一つのオンラインゲームが浮上した。


 どのモンスターもそのゲームに存在するのだと言う。


 さらに一部のプレイヤーに身体的変化が現れたと報告が上がったのだ。


 その内容とは、軽々と自販機を持ち上げたとか、投げた小石がコンクリートにめり込んだなどと、実しやかに語られた報告に青井自身信じられなかった。


 ──MMORPG。


 大規模多人数同時参加型オンラインRPGの略である。


 不特定多数のプレイヤーが共に遊び、時に争い合う。


 数多くのタイトルが運営されているうちの一つだ。


 それが現実世界に現れた?!


 ありえないだろッ?!


 警察が押収した全プレイヤーの個人アカウント情報。


 そのうち僕の担当する西日本は、3802人。


 その途方もないデータを地域とレベル順に並び替え、高レベルプレイヤーを僕が直接説得し、残りを地域ごとに子飼いの協力者達に割り振った。


 地震や火山噴火などの自然災害と並ぶ世界的大災害と取り決められた。


 しかも、その渦中にあるのは日本で開発された1万人以上がプレイするオンラインゲームである。


 これは夢か?


 ははは、夢だったらいいな。


 自暴自棄のような現実逃避を無理やり現実に引き戻したのは、ヘリを操縦する部下、篠崎の声だった。


「青井3佐、間もなく鹿児島県霧島市内上空に入ります」


「わかった、あの中学校の運動場がヘリポートだ。許可は取ってある」


 つい先ほど立ち寄った熊本でのことを思い出し顔を歪める。


 西日本で6位の高レベル保持者ということでかなり期待をしていた。


 呼び鈴を鳴らして出て来たのは、58歳の母親だった。事情を話して協力を依頼すると息子を連れて行かないでくれと泣き付かれてしまったのだ。


これにはさすがに僕も堪えた。


 こちらも高レベル保持者ということで簡単には引き下がれず、無理を言って本人と直接交渉を行った。


 出て来たのは28歳無職の男性。


 大学卒業後就職に失敗し、実家で6年も働かずに親に甘やかされ毎日ゲームばかりやっているそうだ。


 普段から家に引き篭もった生活のせいで、戦闘どころか運動すらままならない体格で渋々諦めた──。


 その前の2件も同じような感じで高レベルのプレイヤーになるほど、仕事をしていないなど、社会的地位が低く家からすら出たがらない。


 持て余す時間をゲームにつぎ込んだ結果なのだろうが、誰一人として首を縦に振らない現実に苛立ち始めていた。


 次のプレイヤーは今から向かう学校の現役女子中学生だ。


 西日本で11位の高レベルプレイヤーということも合って期待はできる。


 何としても協力を得なければ、このままでは日本どころか人類が滅ぶ。



「が、学校から下校途中にモンスターに襲われて重傷を負っただと?!」


 その女子生徒は、数名の生徒等と下校中に大型モンスターと遭遇。


 その恐怖から足が竦んでしまい、一人逃げ遅れてしまったそうだ。


 下手にゲームの知識があるが故に、考えが追い付かず、逃げ遅れたのだ。


 そしてこともあろうに、右腕を食いちぎられ病院に運ばれたと、連絡を受けた担任が到着したばかりの僕達に告げたのだ。


 希望の光がまた一つ潰えた。


 期待が大きかった分、反動も大きく、その場で膝から崩れ落ち落胆した。


 小型のモンスターなら自衛隊でも対処出来る。


 だが大型になると銃やミサイルじゃかすり傷すら適わない。


 そんなモンスターに唯一対抗できる可能性のあるゲームプレイヤー。


 現在、東日本では2組のプレイヤーがゼロの協力者となり活動を開始した。


 しかし、それは1万人を超えるプレイヤーの中でたったの2組だけという絶望的数の裏返しだった。


 しかもそれはプレイヤーが密集する関東圏だけであり、それ以外の地域では未だ協力を得られていない。


 沈みゆく夕日を強大な夜の闇が飲み込もうとしていた──。



 その後も鹿児島で折り返して宮崎、大分と空振りに終わり、子飼いの協力者からの定時報告で近畿地方での交渉は全滅が濃厚となった。


 たった半日でほぼすべての近畿地方を探し回ってくれた協力者達の優秀さも然ること乍ら、高レベル者以外の協力者ですら一人も現れないという残酷な現実が浮き彫りとなった。


 現在、次のプレイヤーが居るとされる福岡へ移動する途中の大分県の山間地帯上空。


 タッチパネル操作に疲れて、ヘリから見える遠方の街の明かりに一息ついた。


「ん? レーダーに何か映って……、これは……!」


「青井3佐、上空を飛行する物体がゆっくり近づいて来ます。生体反応があります」


 突然、ヘリを操縦する篠崎と菊池から声が上がった。


 ──空飛ぶ生き物?


 一瞬、鳥か何かかと頭を過ったがすぐに思い止まる。


 そんな小さな生き物がレーダーに引っかかるはずがない。


「モンスターだッ! すぐにヘリを下ろせ。地上でやり過ごすぞ」


「「了解ッ」」


 山間部にあった平原にヘリを不時着させ、念のため部下達と森へ避難した。


 甲高い鳴き声で大空を縦横無尽に飛び回る巨大モンスターの姿。


「でかいな……」


 一人ポツリと呟いて、ふと手元のタブレットでゲームデータを参照する。


 ──合った。


「ワイバーン。種族はドラゴン、レベル70前後。気性が荒く空を飛ぶモノには何にでも襲い掛かり己が強者だということを示す、体内で生成される広範囲ブレスは摂氏3000度を超える」


 一気に血の気が引いていく。


 あのまま飛び続けてブレスでももらえば、一瞬でヘリごと溶けてしまっていた。


 始めて見る人類の脅威に戦慄した。


 馬鹿げてる。


 もちろん、ヘリの上空から地上を這い回るモンスターは目にしていた。


 しかし、今自分達の頭上を飛び回るモンスターはその桁が違う。


 ワイバーンとは言え、ドラゴンなのだ。


 僕はあんな化物と戦う人間を探していたのか……。


 ──無茶だ。


 全長約7メートル前後。コウモリのような大きな翼で今も尚、上空で自分達を探し回るモンスターに肝を冷やしす。


 想像を絶する恐怖がそこにはあった。


 先ほどから笑い続ける膝を両手で抑えつけた。


 誰だって死にたくなんてない。


 何が身体的変化だ。


 どれだけ強くなろうがゲームと現実は違う。


 恐怖もあれば痛みも感じる、死ねばそこで全てが終わるのだ。


 人類のために死ねと言っているようなモノじゃないか。


 そんな当たり前のことを今更ながらに思い知る。


 くそッ!


 やり場のない苛立ちを拳に変え己の太ももにぶつけた。


 ──だが、諦めるわけにはいかない。


 僕が諦めることは多くの命を諦めることと同義。


 苦渋に顔を歪めて己に言い聞かせるように繰り返す。


 探すんだ。


 一人でもいい。


 その一人が多くの命を救ってくれる。


 探すんだ──。



「……行ったか」


 微かな鳴き声を残し、モンスターは夜空の闇に消えた。


「よし、すぐに出発を……待てッ」


 ヘリを挟んだ茂みの向こう。


 暗闇の中で何かが動いたような気がして目を凝らす。


「3尉お下がり下さい」


 篠崎が銃を構え、暗闇からのっそりとその姿を現した。


 イノシシだ。


 それも残念なことに通常の大きさではない。


 デカ過ぎる。


 その大きさは、僕等の身長を優に超えて2メートルと少し。


 横幅も同じぐらいで奥行きがかなりある。


 まるで巨大ラグビーボールだ。


 巨大イノシシは、自分より少し大きいヘリの横腹を睨むようにゆっくり止まった。


「まずい、銃を貸せッ! ヘリから注意を反らすんだ!」


 ここでヘリを失えば移動手段を失う。


 それだけは避けなくてはならない。


 声を潜めて叫んだ僕に、篠崎が銃を渡さず微笑んだ。


「3佐、どうやら私はここまでのようです。3佐の下で働くことが私の誇りでした。あとのことは頼みます」


 一瞬何を言っているのかわからなかった。


 ビシッと敬礼をする部下の姿に嫌でも察しが付いた。


 ちょっと待てッ!


 そんなのこと許可できない。


「ダメだ! 君にはこれからやってもらうことが山ほどあるんだッ」


 喚く僕を無視するかのように篠崎は後輩である菊池に短く告げた。


「菊池、3佐を頼む」


「……はひっ」


 すでに顔をぐしゃぐしゃにした菊池が涙ながらに敬礼をした。


 篠崎は頷き踵を返して巨大イノシシを見据える。


「化物こっちだッ!! うおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


 ダダダダダダッ!


 篠崎は小銃(ライフル)の引き金を引きながら走り出した。


「篠崎ッやめるんだああああああッ! くそッ、放せッ!」


 菊池が僕を羽交い絞めにし抑え付ける。


「3佐! ダメですッ、篠崎さんの覚悟を無駄にしないで下さいッ!」


「ギャオオオオオオオオオオオオオオッ?!」


 ヘリと相対していた巨大イノシシが篠崎の小銃(ライフル)に反応し、悲鳴を上げて篠崎の方にドスンドスンと動き出しす。


 ──その時だった。


「イヤアアアアアアアアアアァァァァッッ!!」


 突然その場の空気を吹き飛ばすような気合いのこもった叫び声が降り注ぎ、同時に遥か上空から巨大イノシシの眉間の辺りに人影が直撃した。


 ズドオオオオオオオオオオンッ!!


 ──え?!


 舞い降りたその人影は、己の片足を巨大イノシシに直撃する寸前に一気に振り落とし、かかと落としを決めたのだ。


 4本あるイノシシの足は、頭上より押しつぶされ衝撃に耐えかねて膝を折り、一気に身体を地面にめり込ませ、巨大イノシシを中心に大きなクレーターを作り上げた。


 立ち込める砂煙の中、僕と菊池、そして少し離れた場所で篠崎が立ち尽くす。


 一撃で何という破壊力。


 ただのかかと落とし一つで小銃(ライフル)すら歯が立たない巨大イノシシを地面に沈めただと?!


 そして同時に思い至った。


 ──ついに見つけた。


 どうしてこんな山奥に居たのかはわからないが、そんなことは今はどうでもいい。


 我々が探し求めていた者が今、目の前にいる。


 僕はその歓喜に鼓動(むね)の高鳴りを感じた。


 暗闇と砂煙で性別はわからないが、声からして男性。


 しかも若い。


 辛うじてそれだけ理解できた。


 巨大イノシシが息絶え、黒い霧と化して消えて行く中、一瞬こちらを振り向いたその者は、そのまま何も言わずに駆け出してしまった。


「お、おいッ! 待ってくれ!! ……うあっ?!」


 思わず叫び、走り出した僕に今度は篠崎がまるでラグビーのタックルの様に僕を地面に抑えつけた。


「3佐、夜の森は危険ですッ!!」


「放せッ、篠崎ッ。彼に協力を仰ぐんだ!」


 確かに森の中でまた同じようなモンスターと出くわす可能性は非常に高い。


 だがそれがどうしたッ!


 身体に回された両腕を力ずくで振り解く。


 今は僕一人の危険など、どうでもいい。


 彼がゼロの協力者になってくれれば、多くの命が救われるのだ!


「放せッ! 篠崎いいッ!」


「ダメですッ! 礼も聞かずに行ってしまうということは関わりたくないということです。今あなたを失えばこの国は大きな損失を負う。ここは堪えて下さい!!」


 その言葉に愕然となり、力が抜けていった。


 関わり合いになりたくない?!


 うそだろ……?!


 ようやく見つけた人類の希望だぞ?


 また……、またダメなのか。


「くそおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 押し寄せて来る虚無感を地面に叩きつけた。


 拳からは血が滲んでいた……。


 その場に残るのは二人の部下と満天の星空のみ。


 その後、僕らは目的地だった福岡で既に亡骸となっていた別のプレイヤーに泣き崩れ、山口を抜けて広島へ入った。

青井誠「このお話はフィクションですので、

実際の組織、団体とは異なります。くれぐれも注意して下さいね。

でないと、僕が偉い方から叱られてしまうので……。

え?! 前置きが長い?

あぁ、はいはい、評価ね。

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はぁ、キャップの僕に対する評価も上がらないかな……」

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