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ログイン ~リアルのオンラインゲームは待ったナシ~  作者: ロングブック
第一章 バイト戦士と私の王子様
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ページ2 可愛いは残したい

 誰かの話声が聞こえた。


『……だ』


『…………、……まで……だよ……。みん……てん……』


 その声には聞き覚えがあった。


 もう、戻る事のできないあの憧憬──。


 早く起きなきゃ。あいつ等に笑われてしまう。


 …………。


 ……。




 ここは……。


 天国だろうか。


 ──暖かい。そして柔らかい!


 ふかふかの──ベット。


 天使がオレの左手を握ってくれていた。


 ──あ、違った。


 天使のような寝顔で、ベットの横からオレの左手を握った──左雨さんだった。


 いや、これは天使だ。


 なにこれ柔らかいっ。


 そして可愛い!


 やっぱりここは天国だな、うん。


 オレは死んだんだ。


 間違いない!


 くっ、手汗が──。


「うぅ……」


 天使のお目覚めのようだ。


「おはよう、左雨さん」


「ぁ……、影山くん気が付いたんだ。よかったぁ」


 前髪に若干寝癖を付けたまま、左雨さんは握っていた手を振りほどいて恥ずかしそうに「えへへ」と照れ笑いを浮かべた。


 ──あぁ、やっぱり天使だ。


 年齢イコール彼女居ない歴のオレが──目が覚めたら、クラスの女子に手を握られていたら、天使と勘違いしてもしかたないだろう!


 しばらくこの左手は洗えないな。


「看護婦さん、呼んでくるね」


「うん、ありがとう」


 笑顔で左雨さんを見送った。


 ええ子やぁ~。


 自然と視線は追いかけ、ふと周囲の様子が目についた。


 あれ、ここ……どこ?


 決して記憶喪失──などではない。


 おおよそ片面20以上はある白いベットが向かい合わせに並べられた長方形型の大部屋は、所々にパイプのような鉄骨が剥き出しに見え、まるで巨大なテントのような作りの建物。


 と──そこに寝かされている人々。


 その多くが腕や足、身体に包帯が巻かれベットに横たわっている。


 人によって違いはあれど、みんな見るからにケガをしていた。


 いったい、何が……。


「彼氏さんようやく目が覚めたのね」


「か、彼氏じゃありませんから!」


「だから言ったじゃない、大丈夫だって」


「うぅ~」


 カーテンなど仕切りがないせいか、楽し気な会話が聞こえて来た。


 ぐふっ、だ、誰か照れ隠しと言ってくれ!


 頬を膨らませて否定する左雨さんを「はいはい」と聞き流す看護婦さん。


 そんなに全力で否定しないで。


 ケガ人を再起不能にする気だ……。


「自分の名前と年齢を言える?」


「え、あ、はい、影山優人15才です」


 年上の女性って、話しかけられると緊張するよね。


 思春期の男の子はだいたいみんなそう──だと思う。


 うん、みんな仲間だよ。


「意識ははっきりしてるし、問題なさそうね」


 簡単な診断をした後、看護婦さんはテキパキと点滴などを外してくれた。


 そして、最後に──。


「君ねぇ……」


 溜息混じりに、前かがみに顔を覗き込まれた。


 ベッドに座るオレに対し、前かがみ──。


 瞬間──オレの眼が限界ギリギリまで見開かれる。


 看護婦さんの襟口から覗く豊満な丘とそれを包む布──。


 驚愕するその戦闘力に息を呑んだ。


 ──しかも何かいい匂いもする。


 って、思春期真っ盛りの高校男児にこの距離はダメだろ。


 必死に自分を奮い立たせ、視線を反らした先には左雨さんがムスッとしていた。


 ──え、オレ頑張ったんだよ?!


 そんなオレを気にも留めず、看護婦さんは捲し立てる。


「腕を15センチも切った上、止血もしないで走り回るって、死にたいの?!」


「あ……」


 言われてようやく右腕に視線を落とすと、肘上から手首までギブスでガチガチに固定され、麻酔のせいか感覚はあまり無くほとんど動かせなかった。


 ──ただ、ぱっくり開いた切り口が脳裏を過り、スッと血の気が引いていくのを感じた。


 人間、血がなくなると本当に死ぬんだな……。


 死んでないけど。


「でも、彼女さんをよく守ったわね」


 やさしく頭を撫でる看護婦さん。


 あの時は、やらなきゃオレがやられていた。


 そんな気がする──。


 事実、15センチも切られたわけだし……。


 まぁそんなに切っていたとは正直思わなかった。


 走っている時も痛みはあまり感じなかったんだよなぁ。


 確かテレビで言っていたけど、人は興奮するとアドレナミンを分泌して限界を超えたパフォーマンスを発揮するらしい。


 あの着ぐるみ強姦野郎達と戦って興奮していたのか。


 生まれて初めて女の子の手を握って興奮していたのか。


 ────前者だと思いたい。


「彼女さんね、手術が終わってもずっとあなたの傍から離れようとしなくって大変だったのよ」


「だって、……だって全然目を覚まさないんだもん」


 そう言い──左雨さんがそっぽを向く。


 頬が少し紅色(あか)く見えるのは気のせいだろうか……。


 やだ、何これ、可愛い。


 しゃ、写真……!


 スマホスマホ、あれ、オレのスマホどこっ?!


 スマホないし……。


 はぁ……、どっと疲れた。


 何か腹も減ったなぁ。


 壁に取り付けられた掛時計に目をやると20時を少し超えていた。


「あれから2時間も経ったんだ……」


 確かバイトの先に向かう途中で……って!


 やっべ、バイト始まってる!


「ううん、影山くんがケガをしたのは昨日だよ」

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