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ログイン ~リアルのオンラインゲームは待ったナシ~  作者: ロングブック
第一章 バイト戦士と私の王子様
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ページ12 マナダウン

「……こ、ここは」


 ……はっ!


 思わず振り向くと左雨さんが目を覚ましていた。


「あ、影山くん、無事だったんだ……。よかった」


 左雨さんは安心したように笑みを漏らした。


 それはオレのセリフだよ。


 自分の事より、他人の無事を先に喜べるのは美徳と思う。


 そして目が覚めたばかりで悪いと思いつつ。


「ああ、オレは大丈夫。それよりも……」


 オレは隣のベッドに視線を向けた。


 無防備に眠り続ける少女。


 今もフードを被ったままだ。


「モンスターに殴られて大ケガをしているはずなのに、どこにも外傷がないんだ。医者が言うには、『気を失っているだけ』で、すぐに目を覚ますらしい」


「そっか、よかったぁ~」


 若干、オレの時よりも嬉しそうな左雨さんだった。


 く、悔しくなんてないっ。


 そして肩の荷が降りたのか。


「あのね、影山くん」


 そう切り出して、左雨さんは語ってくれた──。


 ノエルのケガはオレが思ってた通り、かなりの重症だったらしい。


 それこそ大型トラックに撥ねられたレベルで。


 すぐに運んでも助かるかわからないと悟った左雨さんは、イチかバチかの賭けに出た。


 奇しくもそれはオレが出した答えと同じモノ。


 自分にできることを精一杯やろうとして、そして執行した。


「響子ちゃんにしか教えてないんだけど……私ね、勉強の息抜きにあるオンラインゲームをやってて、信じられないかもしれないけど、昨日襲われたゴブリン達がそのゲームに出て来るモンスターにそっくりだったの」


 あぁ、知っているさ。


「それにね。ノエルさんが言ってた『シュトラスの森』もそのゲームにはちゃんとあって、そこには『エルフの里』があるの」


 うんうん、何度も行ったよ。


 オレは必死に笑いを我慢して言葉を待った。


「そのゲームのタイトルが……」


「「ソードオブアビス!」」


 二人の声が重なった。


「あれ?」


「あははは」


 オレは吹き出すように笑い、左雨さんは首を傾げた。


 隠す必要もないのですぐに種明かしをした。


「オレも昔やってたんだよ、そのオンラインゲーム」


「うそぉぉーーーーーーーッ?!」


 皮肉なことに左雨さんもまた、オレと同じ結論に辿り着いていた。


 ──そう。オレが戦ったのは『トゥルス マウンテン コング』。


 何故あんな場所に居たかまでは、オレにもわからない。


 本来は山奥に出現する大型モンスターでレベルは23前後。


 ゲームの中では比較的弱い分類に位置する。


 初心者がある程度強くなってから戦う大型モンスターだ。


 ただ、ゲームだった頃と違う部分も確かに存在した。


 一つ目は、咆哮一つで足が竦んでしまうほどの圧倒的な存在感。


 本当にあれがレベル23前後かと疑うほどの本物の恐怖がそこにはあった。


 これはゲームで合った頃の画面越しでは、決して味わうことができなかった物の一つであり、下手をすると生命に関わることだ。


 二つ目は、このビー玉ぐらいの石だ。


 黒い霧となってモンスターが消滅した後。


 この石が転がっていた。


 初めはただの石かと思ったのだけど、ゲームの中でモンスターを倒すと得られる魔石に似ていて、何かに使えるかもしれないと思って、こっそり持って来た。


 ゲームの頃は魔法を使う媒体だったり、魔道具を作る材料だったりした。


 ただそれが現実に手に入ったとして、どのように扱えばいいのか謎である。


 魔道具作れるの?


 誰が? どうやって?


「私ね、ゲーム内ではレベルは低くかったけど回復職(ビショップ)だったの」


 ゲームには、個性を出すためにたくさんの職業が合った。


 ビショップはその一つ。


 仲間の回復をメインとするヒーラーだ。


「それで、ノエルさんが意識を失っちゃった後に、回復魔法を唱えたの」


 そういうことか……。


 きっとその場に居た自衛隊の人達には、何もわからなかっただろう。


 オレだって話を聞くまでは左雨さんが魔法を使えるなんて思わなかったし、ついさっき自分でモンスターを倒していなかったら信じなかっただろう。


 しかし、重傷だったケガは一瞬で治してしまう恐るべき回復力。


 そしてそれが何のコストもなく使えるのだとしたら。


 それ病院要らなくない……?


 いやまぁ、厳密に言えば需要と供給が釣り合わないんだけどね。


「それで傷が塞がっていくのを見てたら、何故か急に私も意識が遠くなっちゃって……」


 自分が気を失った理由までは、わからないらしい……。


「それはマナダウンなの」


「「え?」」


 振り向くとベッドに横になったまま、眼だけ開いているノエルがいた。


 って、起きてたのかよ!


「アイ、さっきはありがとうなの」


 ノエルはゆっくりと身体を起こして、そう言った。


 すぐに動いて大丈夫なのか気になったけど、医者も気を失っているだけだと言っていたし、魔法で即完治したのなら大丈夫なのかもしれない。


 ホントに凄いな、魔法!


 先に使われちゃったなぁ。


「ううん、無我夢中だっただけだよ」


 本当によかったぁと顔を綻ばせる左雨さん。


「それでノエル、マナダウンってなんだよ?」


 オレがゲームを辞めたのは一年以上前のこと。


 知らない新スキルや状態異常が増えてても、何もおかしいことではない。


 ただ、気になるのは今もプレイしている左雨さんも分かっていない様子からもしかしたら、その手のモノではないのかもしれないと思った。


「マナダウンは、別名『マナ欠損症』と言って、体内のマナが枯渇して意識を失う症状なの」


 マナ欠損症?


 マナの枯渇?


 いや、言ってることはわかる。


 ゲームの世界でのマナ、つまりマジックポイント、精神エネルギーのことだ。


 それが無くなると魔法使いは魔法を使えなくなる。


 が、それだけのはず。


 休んで居れば勝手に回復するし、マナ回復薬などもあってそれが理由で気絶することなど有り得なかった。


「たった一回の回復魔法でマナが枯渇って、回復職(ビショップ)がだぞ?」


 レベルにもよるが、基本的に魔法を使う職業はマナの総量が非常に高い。


 何故なら、たった一回の回復魔法で気絶してたら、ゲームが成り立たない。


 そんなクソゲー誰がプレイするのだ。


 オレの疑問に、ノエルは真っ平らで非常に腕の組みやすそうな胸の前で腕を組み、突然笑い出した。


「ふっふっふぅ、やっとわかったの」


 何そのドヤ顔?!


 何か殴ってやりたい……。


 そして大声で宣言した。


「ここは異世界なのっ!」


 ──時が止まった。

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