ページ11 永遠のような20分間
たくさんの白いベット。
数時間前まで自分が寝かされていた場所。
そこには二人の少女が横たわっていた。
どうしてこんな事になってしまったのか。
答えを知るはずの少女達は眠り続けている。
自分の愚かさを思い知らされた──。
もっと早く気付いていれば、状況は変わっていた。
「今度は逆になっちゃったわね」
遣る瀬無い表情で看護婦さんが話しかけて来た。
──逆、か。
確かにベッドで寝ているのと横に座っている立場は逆かもしれない。
でも、その原因はまったく違うモノ。
前回はオレが止血もしないで愚かにも走り回った結果だ。
そして今回は、ノエルの姿を見たにも関わらず現実逃避して考えることを辞めたオレの失態だろう。
もっと早くに自分の力を認識していれば間違いなく結果は違った。
オレは自分の愚かさを茶化すように答えた。
「美人の看護婦さんが看病してくれるなら、何度でも来たいですね」
それを見て看護婦さんは溜息をついて、近づいて来た。
近づいて……。
って、うわっ。
近い近いっ。
顔と顔の距離、数センチ。
なんだかこれ前にも合ったような。
「あのねぇ、そりゃケガや病気をすれば看護はするけど、人間元気が一番なの。若いうちは病院なんか来るもんじゃないのよ」
ペシッ。
「いてっ」
看護婦さんのでこピンが決まる。
ノエルの方に視線を送った看護婦さんが「それに」と言葉を続ける。
「こっちの子。運んでくれた自衛隊の報告によると、モンスターに殴られて数十メートル吹っ飛んでかなりの重症だったって聞いたけど、ケガ一つしてないじゃない。まったくどういうことなのよ」
そうなのだ。
確かにあの時オレも聞いた。
骨が何本も折れるような鈍い音。
それは絶体絶命の一撃。
死に至る程の一撃。
……の、はずだった。
仮に手当てが間に合ったとしても、こんな無傷なはずはない。
どうなっているのか、聞きたいのはオレの方だ。
百歩譲って、ノエルは異世界人なのだ。
この世界の常識では図れない何かがそれを拒んだ可能性もある。
何らかの理由で回復したのかもしれない。
だが、わからないことはそれだけではない。
ノエルの隣のベットで未だ意識が戻らない左雨さん。
あの時、オレは左雨さんの声を聴いた。
ノエルに駆け寄って、……そして何かが起きたんだ。
ノエルから左雨さんに視線を移したオレを、彼女を心配する彼氏とでも思ったのだろうか、微笑ましそうに看護婦さんが説明してくれた。
「彼女さんの方は、精神的にショックを受けて気を失っただけだろうって言ってたわよ。よかったわね」
「はあ……」
何とも言えない返事になってしまった。
本当にそうだろうか?
当然ながら左雨さんにも外傷もなく、その結果から医者はそう結論付けたのだろう。
けれど、オレには違う理由のような気がしてならなかった。
まぁ無事ならそれでいい。
二人が起きてからゆっくり事情を聞けば済む。
ここでオレがぐだぐだ考えたって何もわからないのだ。
はぁー。
それにしてもこの看護婦さん、ワザとだろうか。
彼女の中でオレ達はずっとカップル扱いなのだ。
オレが眠っている間に左雨さんと何があったの?!
うーん、誤解は解くべきか……。
悩みながら再び左雨さんの寝顔を見た時、オレの中で悪魔が囁いた。
うん、このままでいっか。
別に嘘は吐いていない。
向こうが勝手に勘違いしているだけである。
オレはこの天使の寝顔を守るだけだッ!
そんなことを考えていると看護婦さんはすぐに別の患者さんに呼ばれて行ってしまった。
本当に忙しいらしい。
巨大ゴリラを倒してから2時間が経った。
戦いの後、オレはすぐにその場を離れ、二人が運ばれたという看護用シェルター内の緊急治療室に駆け込んだ。
──だが、ここで大きな問題が起きた。
二人とも女性であること。
命に別状はないと告げられ、即座に追い出されてしまった。
廊下で待つこと20分ちょい。
くっ……。
たった20分が永遠であるかのようにとても長く感じた──。
ようやく治療室から運び出された二人は、「意識を失っているだけ」と伝えられたのだ。
そんなわけあるか! と、担当医に掴み掛りそうになった。
まるで狐につままれたような感じで、そんなわけがあったのだった。
ここはひとつ、あの時とは逆の立場のオレが左雨さんの手を握ってあげるべきだろう……。
彼氏なら当然の行為だろう!
うん、大丈夫だ。
多少手汗が酷くとも寝ている今ならば……。
「う、うぅ……」
……はっ!
高速移動で椅子に座り直すオレ。
「もうお腹いっぱいなの……スゥ……」
寝言かよ!
「ったく、人の気も知らないで」