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部屋を出た二人は急いで追うと、女騎士は白く荘厳な扉の前で待っていた。女は二人が来たのを確認すると、扉に控える兵に何事かを告げる。
到着を確認した兵によって重々しい扉がゆっくりと開かれ、二人は女騎士の後をついていく。その部屋は迷宮の比ではない力に満ちていた。女騎士やハルと同じ、迷宮を出たもの独特の力の気配がサザムの肌をひりつかせる。目線で辺りを見れば如何にもな重装の男から、子供のなりをした女まで様々な者どもが脇に控えていた。サザムは跪くことなどすっかり頭から飛んでいたが、力の重圧に自然と膝を落としていた。白く美しい部屋や装飾など目に止める隙もない。気を抜けば殺さんとばかりのその気配にサザムの視線は泳ぎ、一つの逃げ道を見つける。まっすぐに続く赤い絨毯の先、厳めしい椅子に座る男。紛れもなく領主その人だった。
領主はサザムやハルにも負けない偉丈夫で、長い黒髪の男だった。一見すれば領主というより戦士のような逞しさだが、しかし唯一なにも力も感じない。脇に控える少女の発する気配の方が何倍にも恐ろしかった。
儀式は滞りなく進み、近寄ってきた領主に剣で肩を叩かれる。その急所を晒す行為に常ならば身の危機の一つでも感じるところだが、サザムは例えこの男が唐突に剣で切りかかろうとも効かぬと直感していた。
「騎士が日に二人生まれるなど稀なこと、天の運びと思うべし。互いを義兄弟とし助け合い、我が力にならんと励め」
領主は何事かを言い、あっさりと離れていった。そこに特に感慨はなく、女騎士もあっさりと立ち上がって部屋を出ていく。サザムたちもあわせて退出し、儀式は無事に終わりをみせた。
サザムたちが寝ていた部屋に戻ると、女騎士に短剣を渡される。これが騎士の身の証となるらしい。無骨な鞘から引き抜けば、現れたのは紋の一つもない白銀の刃。鉄ではないのは確かだが、それ以上の事などサザムには皆目検討もつかなかった。さして興味もないのでさっと鞘に戻すと腰に差す。
「騎士は迷宮に入っていない限り領主の召集に応じなければならない。その関係上住む家を今決めてもらう。さらに今ならば雇用の口利きも可能だ」
女騎士はそれだけ言うと、やはりさっさと部屋を出て行った。間もおかずに入ってきたのは一人の老人だ。老人といっても背筋がぴんと伸びており、礼の所作一つとっても美しく上等な服にはしわ一つない。はっきりとしたよく通る老人とは思えぬ声でサザムとハルに様々説明を始めた。