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壁を抜けると、サザムを迎えたのは夕日と溢れんばかりの歓声。そして迷宮に入る前に見た身なりの良い騎士の呆れたような声だった。
「お前のように服を使ってでも財宝を持ってきたやつは久しぶりにみたよ」
サザムはその予想外に高い声に驚いて顔を見る。騎士は大男であるサザムに匹敵する身の丈ではあったが、長い黒髪の美しい女だった。
女はサザムが驚いた顔を見せても気にする様子もなく腕を引き、馬車に財宝ごと無理やり押し込もうとしていた。これには疲れているとはいえ抗議をしようとしてふと気付く。振りほどこうにも振りほどけない。そうしているうちに女はまるで抵抗を感じる素振りも見せずにサザムを馬車の中に押し込めてしまった。
馬車の中は広いが大部分を財宝が占めた。渋々とサザムは質の良いその馬車に座る。随分と狭くなった馬車にさらに女も乗り込み、御者に馬車を走らせると淡々と告げた。
「迷宮を出られたお前にはキャスカムにおける名誉市民、及び騎士になる権利が与えられる」
ぐらぐらと揺れる馬車の中で、わけも分からない様子のサザムを置いて女の騎士は続けた。
「騎士となることでお前にはさらに権利が与えられる。財産を所有する権利。そして武装する権利だ」
ここまで言われてサザムはやや冷静になり、言った。
「つまり税も納めない、市民でもない俺はこのままでは迷宮から持ってきたものが奪われるんだな」
それを聞いて女は大きく頷いた。それを見たサザムは考えるまでもなく騎士になると女に告げる。スラム暮らしで迷宮入りしたサザムはどうしようもない力の存在をよく知っていた。恐らくだが目の前の女も迷宮に入ったことがあるのだろう。いくら疲れていたといえども力が強くたくさんの財宝を持つサザムを馬車に無理やり押し込むのは並の力ではない。迷宮から人外の力を得たとはいえ、己がこの迷宮都市の人外たちより強くないということは理解していた。
行先も知れない馬車がまたぐらりと揺れた。考えるのも億劫になったサザムはぐったりと馬車に身を任せて外を見る。キャスカム生まれのサザムはスラムの反対、迷宮より向こうの街並みなど見たことはなかった。流れゆく景色には見たこともない大きな建物が整然と並んでいる。迷宮から見てスラム街の反対にある上流階級たちの住む地区に入ったようだった。
振り返れば色々あったものだと満身創痍の状態をふと笑った。そして鹿を食べてから何も食べていないことに気付く。今までにない座り心地の為か、腹から抜けでた血が多かったのか。サザムはぐらり、ぐらりと意識を手放した。