2
一瞬視界が黒く染まったかと思えば、目の前に現れたのは洞窟らしき場所だった。あたりは薄暗く、先は暗くなにも見えない。後ろを振り返れども壁はなく、やはり暗く穴が続くのみ。足場は不安定ででこぼことしており、サザムの履く底の擦り切れたサンダルでは痛みさえ感じる。とりあえずサザムは唯一の武器である鉄の短剣で壁にそれとわかる印を付けた。壁は脆く容易に傷つけることができる。円を十字で切るこの印は、サザムの縄張りの証でもあった。
サザムは極めてゆっくりと洞窟を進んだ。壁や足場には時に鋭く刃物のようなものが混じり、加えて先の見えない暗さが慎重にさせた。迷宮の広さは様々あり、一日で出られた者もいれば長いもので十年がかりで迷宮から帰った者もいるという。そして共通しているのは最奥にいるというぬしを殺さなければ出られないという事だった。この状況においてサザムは極めて冷静を装った。慣れない足場で怪我をしないようゆっくりと進み、心にはただ今日を生きるという絶対の決意のみだった。
そうして進んでいるうちに、二つに分かれた道を見つけた。一方は変わらず薄暗いが、もう一方はやや明るく、道幅も徐々に広がっているように見えた。ここまで歩んだ道のりの長さも時の経過もわからなかったが、ただ分かれ道があるというだけのその事実はどうしようもなくサザムを安堵させた。
サザムはやや考えたうえで明るい道を選んだ。足場には幾分か慣れてきたものの、暗さだけはどうにもできなかったからだ。明るいから出口があるなどとは考えていないが、持ち運べる光源があるかもしれない。僅かに浮わつく心をどうにか治める。
一歩明るい道へと歩みを進めると、僅かに涼やかな空気がサザムの頬を撫でた。壁に手を添えてみればこれまでにはなかった冷たさと滴る水滴に気が付く。思っていた以上の変化の兆しに再びゆるむ頬をすぐさま戻し、サザムはまた歩みを進めた。