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サザムは川の水を一口だけ飲んでしばらく待った。そうして体に異変が起きなかったので安全だと判断した。周りに危険な動物がいない事を確認すると防具を外す。そして体に溜まった汚れを落とし、水袋に汲むと喉を潤す程度に飲んだ。川には魚もいたので幾つか捕まえる。そうするうちにサザムはやっと己が人並みに戻った気がした。
倒した鹿の肉もサザムは回収した。あの洞窟の時ほどではないが、殺すと体の奥から全身に至るまで僅かに温かくなるのを感じていた。戦闘による高揚と相まって些細な変化だったが、力の気配に鋭敏になったサザムは己の身体能力の上昇を確かに感じる。驚くほどではない。しかし無視できない差だった。鍛錬ではどうしようもない基礎能力の向上。それは相乗効果で<強化>もまた強くなる。危険だが積極的に狙うべきかとサザムは考えた。
考えに考えて決めた。サザムはまだまだ弱いということを日々思い知らされている。かつてとは違い鹿を三頭殺せたがこの森にはその鹿が十以上で群れていることもあるのだ。それ以外にも脅威に感じて戦いを避けたものは多い。そしてぬしはそれら以上に強いのは間違いない。不運が起こり得ないほどの力。幸運に頼るまでもない力。それを手に入れなければならない。次も幸運が訪れるとは限らないのだ。
サザムは印を辿って泉に帰ってきていた。行きは兎の速度に合わせていたので時間がかかったが、泉と川はそう遠い位置ではなかった。泉に戻ったのは動物も危険な水だと分かっているのかほとんど動物がやってこない。反面川は安全な水があるが、その水を求めて様々な動物もやってくる。サザムは当面の拠点とした泉で火を起こし、今日得た魚と鹿を焼いてかぶりついた。