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サザムは相も変わらずならず者の列をなす迷宮を見て、一息ついた。取り巻くものはいくつも変わったが、これだけはいつ見ても変わらない。唯一絶対の不可侵域。死と力、そして僅かばかりの夢の場所。迷宮の入り口は変わらず次々人を飲み込んで、出口の前に人はいない。
サザムが列に並ぶと様々な視線を感じた。多くは碌な装備もない者たちの羨望。僅かな数の良い装備をした者の探るような目だった。最初は余裕が無かったのだな、と一人勝手に納得し、その一切を無視してただ進む列に合わせて歩む。そして遂にその時は来た。目の前には壁と赤い紋様、そしてどこか呆れた視線を送っている女の騎士がいた。列はまだ続いていて足を止めて声をかけるわけにもいかず、サザムは最初と同じく逃げるように迷宮に入っていった。
視界が定まった時、広がった光景は前回とは全く違うものだった。洞窟ではなく、視界が広い。見渡す限り木々と草花が生い茂り、木漏れ日が所々地を照らす。第二の迷宮は森だった。洞窟と違い分かれ道はおろか進むべき道もない。それはサザムにとって幸か不幸か、長い戦いになる予感がした。
サザムは顔合わせの騎士会の後二回の騎士会に参加していた。大抵の騎士会は各派閥の代表しか参加しないそうだが、サザムはどの派閥にも参加していないので参加せざるを得なかった。強制ではないとはいえ己より強いものの意に好んで逆らうほどサザムは馬鹿ではない。それに加えて騎士会は数少ない派閥に入る機会でもあった。とはいえやはり場が包む力に飲まれてそんな機会は消えてしまうのが現状だった。
そんななか、サザムでもまともな対応が出来る者が一人いた。顔合わせの時に声をかけてきた細目の男、ヨルンである。
ヨルンは話すのが好きなのか聞いてもいないのに色々な事を教えていった。自分もはじめはサザムと同様大きすぎる先達の騎士たちの力に飲まれてひどかったこと。迷宮を攻略して強くなるうち良くなっていったこと。宝部屋にある本は必ず持って帰ったほうが良いということなど。そのなかの一つにある話があった。迷宮には明確な特徴があり、それを理解すると攻略が楽になるというものだった。
サザムがはじめて入った洞窟の迷宮は極めて単純な特徴だ。幾つかの分岐を選び、進んだ先の危険を乗り越える。するとそれに見合った報酬が手に入るというものだった。例としては大鹿を殺したことで魚のいる安全な水辺が手に入る。それと比べるとこの森の迷宮は複雑といえる。明確な道標はなくぬしの場所を探すのは困難極まり、じわじわと迷宮に入った者を追い詰める。ハルが入ったのはこの特徴を持つ迷宮で、一週間彷徨ったとサザムは聞いていた。ほかの騎士の中には年単位で彷徨った者もいるという。
死なないこと。結局はこの一言に尽きると心に留めた。死ななければ、生きていれば賭けは続くのだ。たとえたった一つの安い命だとしても、賭けられる命は一つのみなのだから。サザムは決意を新たに探索を始めた。