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領主の館のすぐ近くにある騎士会館でそれは行われる。騎士会と呼ばれるそれは主に騎士同士の領分の確認に使われていた。騎士は総じて強力な力を持つ者だ。大抵は元ならず者で問題の解決は喧嘩を厭わない。もしもそんな騎士同士が争えば騎士も周りもただでは済まない。しかし領主は貴重な戦力を失いたくはないので騎士会を開き派閥を作らせる。そうすることで理性ある代表者が仲介してある程度の争いはおさまるという仕組みだった。加えて騎士会は戦争の分担も話し合われる。迷宮を有するここキャスカムは隣接する領だけに限らずあらゆる勢力の羨望の的だ。宝や騎士の稀有な力を求めて多くの戦いが際限なく起こる。それを誰が収めに行くかを決めるのだ。
今回の騎士会はサザムとハルの顔合わせが主だった。騎士は少ない時だと年に一人もでないこともあるのだという。現れても領を出て行くことや、やむを得ず迷宮入りしただけで騎士にならない者もいる。現在キャスカム所属の迷宮騎士はサザム含め百三名。その内今回騎士会に集まったのは三十七名。騎士会召集には強制力はないために、騎士が半分以上集まることは稀である。それでも三割以上集まるというのはそうない。
騎士会館に入ると、外でさえ感じていた力をより一層強く感じる。溺れるような力の奔流に逆らうように進むと人の集まる一室に入った。その人が百は入りそうな部屋の椅子に座り込み、サザムは全身の力を抜いた。そうでもしなければ胃の中身を全て出してしまいそうだったからだ。目を閉じ力を抜いて力に身を任せてやっと一つ息をつけるようになる。
「辛そうだね」
突然声をかけられ驚いて目を開いた。見ると目の前には細目で薄く笑う騎士の力を感じない細身の男がいた。いや、感じないのではない。驚くほどに小さいのだ。サザムにはそれが力を隠しているように感じた。
サザムは身を正して大丈夫だと応える。すると男は笑顔で励ますように肩を叩いた。
「僕もはじめは大変だったよ。キミも似たような力なんだね」
頑張れ、と一方的に言って男はどこかに行ってしまった。サザムは重要な事を聞いた気がしたが、考えることも億劫になってまた目を閉じた。
次にサザムが起きたのはもう日が暮れようかという時だった。周りにはもうほとんど人はおらず、ハルに起こされるまで寝ていたのだ。話を聞く限りハルはしっかりと派閥を選んだようだったが、当たり前だがずっと寝ていたサザムには声はかからなかった。サザムはどうしたものかと思ったが、また面倒になって考えるのを止めた。