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迷宮を攻略してから早くも三日が経った。単に騎士になるとはいっても様々あり、サザムは三日を丸々手続きに使った。家は領主の館に近い騎士用に作られたものにすぐ決まったのだが、家名に始まり家紋、使用人、他家への挨拶などあり、早速サザムは騎士になったことを後悔しはじめていた。しかしこれでも当初より減っている事を思い出し、初日に家令ウィスターを雇った己の先見に感謝した。
ウィスターは女騎士と入れ替わりで入ってきた老人のことで、聞けばこれが最後の務めなのだという。歳を感じさせないとはいえ五十を過ぎていたウィスターは昔からの慣例で領主の館を出なければならなくなった。そこでサザムはちょうど良いとばかりに使用人になってくれないかと頼んだ。駄目で元々だったのだが、どうやらウィスターはまだまだ働く意欲に衰えはないらしく、これ幸いとサザムに雇われたのだ。
家令として雇われたウィスターの働きは素晴らしく、明らかでなかった財宝の価値をすぐさま纏めて様々な支払いを済ませていた。それでも使ったのは手が空いていたからと抱えた金塊三つのうち二つで済んだらしく、まだ物置きには山のように積まれたの宝石と金塊一つが残っている。ウィスカー含む使用人十人の一年の賃金と、新たにこしらえた革鎧などの武具、館代に加えて税を収めたのにそれだけ残るというのだから迷宮の宝は凄まじい。
サザムは朝食を済ませると足早に庭を出る。すると同じく館から庭に出てきたハルと出くわした。これがサザムがこの館に決めた理由の一つだった。この館は不思議な構造で、すぐ隣に同じ大きさの館があり、庭に至っては共同といっていい様相になっている。もとは一つの館だったが、領主の館より大きいので二つに分けたという経緯の館があったのだ。ハルは隣の館に住んでいて、体が怠らないようにと朝はサザムと喧嘩に近い鍛錬をするのがこの頃の常だった。
どう、とサザムは庭の地に倒れる。
「まだまだ隙だらけだな」
そう言って笑うハルには余裕が見えた。経験の差はどうしようもなく、また三十で全盛期といっていいハルとまだまだ成長期のサザムとの差は大きい。体は大人のようとはいえ大人ではないのだ。サザムは悔しいという思いとともに、スラムでは遂に感じることのなかった頼もしさをハルに感じていた。
そうして幾度か戦っているうちに、お館様とウィスターの声がかかる。ふと空を見ればもう日は真上まで昇っていて、いよいよ時が来たのかと思うとサザムは顔をしかめた。ハルも同じくため息をして自分の館に戻って行く。始まるのだ。儀式で味わったその片鱗。成り者どもが巣窟、騎士会が。