下(参)「先輩と瞬」
大輔先輩の告白に騙され、悲しみが消えない紅。
泣いた。たくさん。
なんであんな人、好きになったの?
なんで簡単に告白を受け入れたの?
なんでー、
「紅?」
はっと我に返って、正面にある、なじみのある顔を見た。
「瞬・・・?」
瞬は心配そうに私を見る。
私は顔を両手で隠した。
こんな、真っ赤な顔、瞬に見られたくない。
昇降口を後ろ歩きで出て、涙をこらえていたけど、
やっぱり、涙は溢れてエンエンと泣いた。・・・誰もいないことをいいことに。
瞬なんて人の気持ち、ちっとも考えてくれなかったんだから・・・・、今も。
「どうしたー」
その時。
誰かが私たちを通る気配がした。
「先輩」
瞬が確実のその人に話しかける。
ますます、顔を覆う、両手に力をこめる。
「泉水大輔先輩っ」
さっきよりも強く声をかける。
「なんだ?」
やっぱり、大輔先輩だった・・・。
でも、いつもの甘い声ではなく、私に本性を丸出しにした時の荒々しい声だった。しかも少し口角を上げて冷ややかな笑みを浮かべている。
男子には冷たいんだ・・・。
私、なんでこんな人に騙されたの・・?
嫌になって、私はしゃがみこんだ。
「何の用だ?」
「これ、どういうことですか?」
気になって、両手を覆うのをやめた。
「え・・・?」
瞬は先輩に向かって、突き出した・・・・私のスマホを。
絶対私のスマホだった。スマホカバーにピンクと赤のグラデーション、そして、百均で売っている、キラキラのストーンで施して、私だけのスマホにしたから。
そして、スマホが放つ、ブルーライトを先輩が直撃しているから、私のスマホの何かを見せている。
なんで・・・?
「・・・・・なぜ?こんなことは送っていない・・・友達に送ったつもりだ」
あ。
テレビでメールなどで、宛先を間違える・・・なんてことがあると言っていた気がする。
まあ、私はメールの宛名なんて、大輔先輩だけだから、こんなトラブルも起こらなかったが・・・。
「でも友達に送ったつもりでも、この『あの子』って、紅・・・、竹原紅のことですよね?」
「まさか」
先輩は眉間のしわをもっと深くした。
こんな表情は初めて見た。
「そう言ってますけど、自覚してますか?大輔先輩」
「は?」
「この学校で次々にナンパして、告白させたり、告白したりして、最後にふられさせて泣かせるって・・
それで有名になっていますよ?」
「そんなの・・・・そんなの関係がないじゃないかっ!あんたに言われる筋合いはない、後輩だろ?」
先輩はカッとなって、瞬に食いついた。
一方、瞬は冷静になって、先輩をしっかりととらえていた。
「関係あります・・・そうやって手を出して・・・俺の好きな人に・・だからもうそうやって傷つかせるのやめてください・・」
え・・?
今、なんて言った?今「好きな
「嫌われますよ?」
・・・・瞬は私の考えていたことを遮るように言った。
先輩はかつての私のように目を見開き、丸くした。
嫌われることだけは、嫌みたいだ。
「す、すまん・・」
「謝る相手は、俺じゃないですよ・・ほら、そこに紅がいますよ」
瞬はそう言って私を指さした。
先輩はもっと目を見開かせた。先輩はずっと私の存在に気が付かなっかったのだ。
私はすくっと立ち上がった。
「す、すみませんでしたっ」
先輩は勢いよく私に礼をすると、私が口を開く前にきまり悪そうに速やかに去っていった。
先輩がもう見えなくなると、私は瞬に向き直った。
「ど、どいうこと?」
瞬が一向に話そうとしないので、瞬の腕をつかみながら、近くの欅の木の下に駆け込んだ。
そして放して大げさに「スッーハァー」と、欅の木のにおいを吸い込んだ。
木のにおいはとても落ち着くのだ。
落ち着いて話す必要があった。
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