上 「私の髪、そんなに嫌いか?」
私には長年のコンプレックスがあった・・・。
それは・・・
「はっ!今日もいちごみたいな髪してんなっ!」
「だってそういう髪だもの。」
怒りを必死にこらえながら、私は言った。
私はいちごみたいな赤髪をしている。すごく濃くて黒っぽい赤ではない。明らかに、明るい赤である。
ここは思いっきり、黒髪が普通である、日本である。それなのに一人だけ赤髪なのはさすがに目立つ。
私の家の両親は日本人である。ハーフならもしかしたらありえたかもしれないが、私は立派な日本人である。
どこかの物語を読んでいると、「いいな、こんな髪になりたいな」だとかの声が聞こえる。
でも日本では不可能。
入学式では校長先生に「髪、染めてるんですか?染めるのは校則違反です。すぐに彼女の髪を戻してください」と勘違いをされ、いちいち説得や説明をしなくちゃならないし。
友達には髪を好かれるどころか、「赤い髪した変な子」と認識され、敬遠される。
それに男たちには髪の色をからかわれ。
髪を黒に染めよかなと、思っているが。
校則に反するから不可能で。
この髪と学校生活を送らなきゃならない・・・・そして辛い・・・・。
「もしかしたらあいつ、食べたらいちごの味するかもよ!?」
男子たちが笑っている。
私はその笑い声と、あいつの声を聞きながら明らかに表情を変えて振り向いた。
「なによ、私には紅って名前があるの!」
私はドスドス言いながら去ってった。
きっと男子たち、去った後も笑っているだろう。
あーあ。
なんであいつは振り向いてくれないかな。
あいつー瞬はなんで小学一年生のころからからかってくんのかな。
もう、うんざり。
いくら小学一年生からの友達だとしてもそれは傷つくよ。
小学校の頃は、からかっていてもいっつも助けてくれた。
傘を持ってくるの忘れ、雨が降って困ったとき、自分が濡れるのを覚悟して、貸してくれたり。学校の大木に帽子が引っかかって、取れなくなった時に、お父さんのように肩車の下になって取らせてくれたり。
知らない間に悪口から私を助けてくれたり。
・・・・あいつはまだガキだ。
それは身に染みて分かってるのに。なぜか頭を突っ込んでしまう。
「いちご」って比喩はまだましかもしれない。「さる」とかだったら確実に怒り爆発である。
でもなんか嫌だ。みんなと一緒にしてほしい。
「あれえ、ここにいたんだ。いちご。」
「別に」
声だけで誰かは分かる。
瞬は躊躇なく私の横に居座った。
「へええ、ここいちごのお気に入りだったんだ。」
「紅。」
「なんだよ、冷たいな・・・。」
「・・・・」
冷たいのは、あいつがからかってきたから。
そうだけど。
あいつのことが好きだって、隠してるから・・・。
私は何気なく、体育座りした足をさらに体に近づけた。
この私の通っている光賀中学校は光賀小学校同様に、大木が植えられている。
この木は、「欅」と言うんだという。首をかろうじて伸ばして見ていると、首が痛くなるほど。
そのため、欅の下に座ると、欅の作った日陰が当たって、心地よい。ここは私のお気に入りである。
「・・・それより授業始まるぞ、いちご」
「はあ。」
声ともため息ともいえない音を出した。
瞬はすでに立ち上がっている。
もし、こいつにからかい癖がなけりゃ、完璧なのに。
「なああ!立って!」
無理。
それでも瞬は懸命に私を立たせようとしている。
「授業遅れていいのか!さる」
「はああああ?!」
カッとなって、立ち上がった。私は猿じゃない。
ただただ髪が赤いだけ。これっていじめじゃない?
「私、猿じゃない!」
思い切り、感情をあらわにして言ったのに、瞬は平然と冷静になっている。
「分かってる。」
私はさらに目を大きくして、瞬を睨んだ。
分かってるなら・・・!やっぱりガキだ、こうやって人が怒ってるのを楽しんでる。
「じゃあー、」
「いや、なかなか立ち上がってくれないから」
私が言い終わらないうちに、瞬は割り込んできた。
確かにその点では大成功だ。
しかし私が言いたいのはそういうことじゃない。
「・・・ねえ、瞬は私の髪の色、嫌いなの?」
瞬につかつかと歩み寄ると、瞬は進んだ分だけ、後ろに下がった。
「・・・ちがう」
「本当にそうなの?私の髪の色、気に入らないからこうしてからかってるんでしょ?」
「・・・ちがう」
責め立てるような形になってしまった。
どうせ・・・どうせ・・・私のこと、からかいの対象にしか見えてないんだ。
私の気持ちに気が付けないんだ・・・永遠に。振り向いてくれないんだ・・一生・・。
・・・・・・私の中で何かが壊れた気がした。
「いちごだとか、猿だとかからかってないで、本気で恋をしなさいっっ!!」
「・・・・え?」
「え?!」
私の方が「え?」だ。
なんて・・変なことを・・・!