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第79話 決戦の気運です

「ぼくはー、ずっとーこのもりでー、いきていくんだー」

「ププッ・・・ミズキ・・・もっと・・・真面目にやって」

「これ以上ないくらい真面目にやってるわよ!そんなに笑うことないじゃない」

「ダメ・・・演技できない・・・クスクスクス」


帝国大劇場・・・

そのステージの上には、ミズキの下手過ぎる演技に笑いを堪えるミーアの姿があった。

今二人が演じているのは、ミズキの書いた『ウッズの旅』

台本を書いた本人だからと自信満々で主人公ウッズを演じるミズキだったが・・・

どうやら彼女には才能の欠片もない事が発覚してしまったようだ。


「ミズキはまず、普通に喋れるようになろう?」

「なんでよ!普通に喋れてるでしょ!」

「じゃあここ、読んでみて・・・」

「うっずたちをーのせてー、ぐれいがーかけるー」

「ププッ・・・」

「だから何なのよ!」

「クスクス・・・なんでそうなるのか・・・私も知りたい」

「もうやってられないわ・・・私帰る」


そう言ってミズキが城に戻ろうとしたちょうどその時。


「あ、ミズキちゃんもここにいたんだ」

「マユミ様、あのイケメンは見つかっ・・・わわっ!」


マユミと・・・ヴィーゲルが通路からやって来たのだった。

慌ててミーアの後ろに隠れるミズキ。


「ミズキ、邪魔だから離れて」

「ここ心の準備ってもんがあるのよ、少しくらい我慢しなさい」

「マユミ、この子達は?」

「紹介しますね、この子がミーアちゃん、歌が上手いんですよ」

「ほう・・・」


歌が上手い、と聞いてヴィーゲルの目つきが変わる。

マユミの友人、ただの子供を見る目ではなく、同業者の力量を見極めようとする厳しい目だ。


「マユミ、この人は?」

「この人はヴィーゲル先生、私にいろいろ教えてくれた師匠なんだよ」

「マユミの師匠・・・ミーアです、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼む」


マユミの師匠と聞いて、ミーアも姿勢を正して挨拶をする。

本当の弟子であるマユミよりも弟子らしい態度だった。


「今はここでミーアちゃんと二人で歌ったりしてるんですよ」


ヴィーゲルは劇場内を見渡した・・・広大な空間と無数の客席・・・

先程マユミにくっついてきた野次馬達を見れば、これが全て埋まるだろう事は容易に想像出来る。


(本当に、立派に育ちやがって・・・)


もはや別次元の存在となったマユミに、師匠として嬉しいような悔しいような・・・複雑な気分だ。


「今から練習をするんですけど、見ていって貰えますか?」

「ああ・・・今のお前の実力を見せてもらおうか」

「や、あんまりプレッシャーかけないでくださいよ・・・」


師たるヴィーゲルの前で歌う・・・否が応でも緊張してしまうマユミだ。

ミーアを伴いステージの上へと登ろうとして・・・


ツンツン・・・


何者かに脇をつつかれた・・・と思ったらミズキだった。


「?・・・どうしたのミズキちゃん」

「ちょっと、私の事も紹介しなさいよ」

「ごめんごめん、隠れてたからいいかなって・・・先生、この子はミズキちゃんと言って・・・」

「さささ、作家をしています!ミズキです!台本とかも書いたりします!」


食い気味にミズキが挨拶する・・・何とも言えない必死さが伝わってきた。


「その歳で本を書くのか・・・すごいな」

「!・・・あ、ありがとうございます」


ヴィーゲルは素直に感心していた。

ミーア同様、まだ幼い少女に見えるミズキだが、こうしてマユミと一緒にいるという事は

相応の物を書くのだろう・・・そう思ったのだ。

褒められたミズキは顔を真っ赤にしてうつむいた。


「あ・・・う・・・」


何かを言いたそうだが、うまく言葉が出てこないようだ。


「ミズキ、言いたいことがあるならはっきり言わないと・・・」

「うるさいわね、乙女心は複雑なのよ・・・あ・・・私ったらはしたない」

「・・・マユミ、行こう」

「あ、うん・・・じゃあ先生、見ててくださいね」


ミズキとヴィーゲルをその場に残し、ステージに上がる二人。

演目は『二人の歌姫』だ。

はたして今の自分達の全力を、師匠はどう評価するだろうか・・・

しかし緊張感からか、マユミは歌の所で音を外してしまう。


(あ・・・)


些細なミスだが、見逃してもらえるわけもなく・・・ヴィーゲルの表情が動くのを感じた。


(まずい・・・はやく立て直さなきゃ・・・)


そうやって意識すればする程、音を外していく・・・一つのミスが新たなミスを呼んでいた。


(うう・・・先生が見てるのに・・・こんな・・・)


と、その時・・・弦を弾く音が劇場内に響いた。


(先生?!)


聞き覚えのあるその音色は、ヴィーゲルの楽器によるものだった。

即興で歌に合わせたのだろう、その旋律はマユミを正しい音程へと誘導していく・・・


(すごく歌いやすい・・・これがマユミの師匠・・・)


ミーアもまた、その恩恵を感じていた。

マユミよりも歌が上手い分、なおさらヴィーゲルの技術の高さを感じ取ったようだ。


(よくわからないけど、なんかすごい・・・)


ミズキはただ、三人が織りなす世界に圧倒されていた。

そして、その中に自分が入れない事に悔しさを感じていた。


(な、何よ・・・私だって、私だって・・・)


両手がぎゅっと握りしめられる・・・

自分もまた天才作家なのだと自分に言い聞かせても・・・ただ虚しいだけだった。


やがて、二人は物語を演じ切ってステージを降りてくる。


「実力を見てもらうつもりなのに、なんか助けてもらっちゃって・・・先生、ありがとうございます」

「いや、二人とも見事だった、そんなお前達を見ていたら俺もついな・・・」

「すごい演奏だった、です・・・ありがとうございます」

「もし先生が良かったら、本番でも演奏をお願いできませんか?」

「俺は構わないが・・・良いのか?一介の吟遊詩人がこんな・・・」

「それを言ったら私だって一介の吟遊詩人・・・みたいなものですよ」

「マユミは音を外すから、それ以下かも?」

「ふぇぇ・・・」



「・・・」


興奮冷めやらぬ、といった様子で話し続ける3人に背を向け、ミズキはその場を立ち去った。

・・・今の自分ではあの場にいる資格がない・・・


(書かなきゃ・・・もっとたくさん書かなきゃ)


自室へと戻ったミズキは再びペンを握り、物語を書き始めた。

もう指が痛いとか、そんな事は気にならなかった。


ひたすら駄作の山が積み上がっていくが、気にしない。

彼女は知っている・・・駄作を積み上げた先にこそ、光を放つ良作が生まれるのだと・・・

彼女を売れっ子作家たらしめた『ロリ婚』もまた、最初は誰にも見向きされない駄作だった。

だが書き続けるうちに、その物語は読者を引き付ける光を放ち始めたのだ。



彼女は憑りつかれたように書き続けた。


その間に新たにヴィーゲルを加えたマユミ達の公演が行われ、人々の好評を得ていた。


北方では辺境伯率いる騎士団がさしたる活躍も見せぬまま、多くの国が降伏していったという。


魔王撃退の報が効いたのか、東方でもマユミの庇護下に入る事を望む声が高まっているらしい。


めまぐるしく世界が動いていく中、彼女はひたすらに書き続け・・・

ようやく満足のいく名作・・・とまではいかないものの、佳作とも言うべき作品を書き上げたのだった。


(ふふふ・・・やっぱり私は天才だわ・・・)


書き上がったその作品を手に、彼女は自室を後にする。

早くマユミ達に読んでもらおう・・・これを読めばきっと・・・

マユミ達の姿を求め城内を歩く・・・幸い今マユミ達は城内にいると通りかかった兵士に聞いた。

玉座の間らしい・・・皇帝たるマユミの本来の居場所だ。


なぜだか城内は少々物々しかった・・・いつもよりも兵士が多い気がする。

しかし『マユミ陛下の友人』として認知されているミズキを止める者はなく・・・

玉座に座るマユミを見つけたミズキが駆け寄ろうとした時・・・


「今や北方諸国、東方諸国共に神聖マユミ帝国の傘下となりました・・・

 この大陸は陛下の名の元に統一されたと言って過言ではありません」


軍人だろうか・・・見知らぬ誰かがマユミの前に跪いて報告していた。


戦争の話など自分達には関係ないだろう、マユミ様もご苦労な事だ。

・・・そう思って足を進めるミズキだったが・・・


「陛下、今こそ魔王討伐の時、我ら人類の総力を以って、かの地へ攻め入るのです」


「え・・・」


今・・・この男は何と言ったのだ・・・魔王・・・討伐?

ミズキの手から紙の束が落ちる・・・


「ご決断ください陛下、我ら銀の騎士団の全てはこの時の為に・・・

 あらゆる犠牲を払っても、必ずや魔王を討ち倒して御覧に入れます」


決死の覚悟と主に・・・

その男、バルトゥーン辺境伯デュバンナムは皇帝マユミに献言したのだった。

今こそ、決戦の時だと・・・

いつの間にかマユミ帝国に統一されていた大陸。

このまま人類と魔族の戦いが始まってしまうのでしょうか・・・次回に続きます。

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