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第70話 復讐です

「むにゃむにゃ・・・もう食べられない」


緩みきった表情を浮かべながら、魔王ミズキが寝言を漏らす。

ふかふかのベッドの魅力は魔王をもその虜にしていたのだ。


陽は高く上り、気温が上昇してくる・・・時計の針は頂点に差し掛かっていた。

ベッドの上のミズキはふとんを蹴飛ばし、その無防備な姿を晒していた。


彼女の寝相はなかなか悪いようで、その身体はおかしな方向を向いていた。

『宵闇の如き美しさ』と魔族達に讃えられたその黒髪も、酷い寝癖でぼさぼさだ。


コンコン・・・不意にノックの音が響く。


「ん・・・あと五分・・・」


その音に意識が少しだけ戻ったようだが、まだ目覚めには至らない。


コンコン・・・再びノックの音がする。


「うーん、締め切りは守るから・・・もう少しだけ・・・」


彼女の脳裏に担当編集者の顔が浮かんだ。

彼女のWeb小説の出版が決まって以来の付き合いになるが、編集者というのは今だに苦手な存在だ。


「ミズキちゃん、まだ寝てるのかな・・・」


・・・よく通る声がドアの向こうから聞こえた。


「え英雄様!起きています!私は起きていますともっ!」


それまでの彼女が嘘のように、ミズキは勢いよく飛び起きてドアへ駆け寄った。

・・・そう、ここはマユミの住まう居城。

あの後ミズキのPTSDを心配したマユミは、彼女を客人として招いたのだった。


ミズキにとって城の暮らしは快適そのもの。

まさに願ったり叶ったりの状態だったが、この天敵の存在だけは別だ。

いつ正体がバレてしまうのか、あるいは既にバレていて始末される寸前か・・・気が気ではない。


ドアを開け、恭しくマユミを向かい入れるミズキにマユミは笑顔を向けた。


「おはようミズキちゃん、よく眠れたみたいだね」

「おはようございます、良い朝ですね」

「・・・もうお昼、ミズキはねぼすけ」


マユミの後ろからミーアがじと目で睨んでいた。

なぜか彼女は不機嫌そうだ。


「まぁまぁ、ミズキちゃんも育ち盛りだし、眠くもなるよ」


(ふかふかのベッドは気持ちいいよね、その気持ちはよくわかるよ・・・)


ミーアをなだめ、マユミはミズキの着替えの用意を始める。

見たところ彼女の体型はミーアと同じくらいだったのでミーアの服を一着持ってきていた。


「じゃあ着替えさせてあげるから、おとなしくしててね」

「えっ、着替えくらい自分で・・・」


ミズキはそう言いかけたが、用意された服を見て言葉に詰まった。

・・・ドレスの類だ、とても自力で着れるとは思えなかった。


「・・・お、お願いします」


観念してなすがままになるミズキ。


(自分では見えない所に魔王の印みたいなのがないといいけど・・・)


そんな不安に駆られるミズキの背後でマユミが不穏な声を出す。


「あ・・・なにこれ」

「!!」


(マジで?本当に魔王の印が?!)


ミズキは背筋が凍りつくのを感じた。

・・・全身から冷や汗がダラダラと流れる。


「マユミ、その紐はこっち・・・こうするの」

「ああ、そこかー、やっぱり難しいなー」


どうやら服を着せるに悪戦苦闘していただけのようだ。

着替えを申し出てきた割には、別に得意としているわけではないらしい。

ほっとひと息つきながら、ミズキはその疑問を口にする。


「な、なにも英雄様自らこんなことをしてくれなくても・・・」

「その英雄様っていうの、やめてほしいな」


(私は英雄じゃなくて声優だし・・・ってこの子に言ってもしょうがないか)


「え・・・でも・・・じゃあ陛下?」

「それもなしで、できれば名前で・・・マユミって呼んでくれると嬉しいな」

「は、はい・・・マユミ・・・様」


様付けもいらないのだが・・・とりあえず今はそれで満足する事にしたマユミ。

ミーアが手伝ったおかげで着替えはなんとかなったようだ。

続いてマユミは櫛を手に取り、ミズキの髪・・・その寝癖に挑む。


「うわ・・・すごい絡まってる」

「いたた・・・ま、マユミ様、やっぱりこういう事はマユミ様がやらなくても・・・」


力加減がわからないのか、マユミはぐいぐいと櫛を動かす・・・すごく痛かった。


(ひょっとして・・・これは私への拷問?)


あまりの痛さに、そんな疑惑すら脳裏をよぎる。

そんなミズキの気持ちを知ってか知らずか、マユミが返答する。


「ごめん・・・私がやりたくてやってるんだ」


(ま、まさか本当に?!)


「この前の魔王の襲撃で私の友達、ナーデっていうんだけど、ひどい怪我をしちゃってね・・・

 その子がいつも私にこうして着替えさせてくれてたんだ、だからこれはその代わりというか・・・」


そう語りながら、自分の無力さを思い出したマユミの手に力が入る・・・

ぶちっとミズキの髪が何本かちぎれた、痛い。


(ふ、復讐だこれー!)


「こんな事をしてもナーデの怪我が治るわけじゃないけど、何もしないでいられないというか・・・」


彼女の怪我はマユミのせい・・・だから罪滅ぼしのような感覚でミズキの世話をしている。

マユミはそう語るのだが・・・


『復讐は何も生み出さないとわかっていても・・・』みたいなノリだとミズキは認識していた。

ぶるぶると身体が震えだす。


「ご、ごめんなさい・・・どうか・・・命ばかりは・・・」

「あっ、辛い事思い出させちゃったね・・・大丈夫、大丈夫だよ・・・」


自らの不用意な発言でこの少女のトラウマを刺激してしまった。

マユミはそう思って彼女をやさしく抱きしめる。


「ミズキちゃんには私がついてるからね、もう怖い事なんて何もないからね」


(私的には、そのあなたが一番怖いんですけど・・・)


そう思ったが、口に出すことなど出来ない。

・・・とても生きた心地がしないミズキだった。

「すやすや」とか「むにゃむにゃ」とか・・・

睡眠から入るパターンが多いなと気付いた今日この頃。

作者の睡眠が足りてないのかも知れません。

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