第65話 マユミ帝国のマユミ姫です
神聖マユミ帝国、帝都ヴァレス___
王国時代からそびえ立つ白亜の城の目の前に、一際目を惹く大きな建築物があった。
大帝都劇場。
英雄皇帝マユミの統治下となった事による最大の変化がこの大型の劇場の建設だった。
約5000人の収容が可能なこの大劇場は国王派の降伏後、急ピッチで建造が進められ・・・
今日この日、完成を迎えたのである。
ローマコロッセオを横に引き伸ばしたような楕円形のデザイン。
その底辺部から中央部へと伸びたステージに、マユミとミーアは立っていた。
(すごい・・・)
ステージの正面と左右には階段状に客席が配置されている。
マユミが現代のスタジアムをイメージして伝えたものを建築家達が形にしたのだ。
こんな物が自分達の為に作られる・・・マユミは国家の力の恐ろしさをひしひしと感じていた。
「すごく大きい・・・マユミ、これならお客さんがたくさん入るね」
マユミの傍でミーアがはしゃいでいた。
明日にはここに客を入れて、マユミ達の公演が行われる予定だ。
公演を成功させ、より多くの国民の支持を得る事が、今現在のマユミに求められている役割だ。
「ゲオルグさんの話だと、もう全席埋まってるって話だけど・・・
ここが全部人で埋まるとか、まだ想像つかないや」
「マユミが緊張して間違えないか心配・・・今から練習しよ?」
「だ、大丈夫だよ・・・たぶん」
ミーアはマユミの妹扱いとなっていた。
基本的にマユミと一緒にいる事が多いので、妹とした方が都合が良いようだ。
妖精族の特徴を有する彼女も浮世離れして見えるので、マインツを中心に彼女を異世界人と思う者は増えてきていた。
そのマインツはそのやる気と能力、そしてマユミ達と面識がある事から
今はマユミ直属の配下として、主にミーアの護衛を務めていた。
「俺たちは当日の警備についての最終確認をするぞ」
「くっ・・・なぜ私がこんな仕事を・・・」
セルビウスは不満を零していた。
辺境伯はマユミの護衛として彼を残し、自身は北方諸国の平定に向かったようだ。
北方では例の肖像画によってマユミの噂が過剰に広まり、彼女の統治を望む声が強まっている。
おそらく北方の平定は時間の問題だろう。
しかし彼としては辺境伯と共に戦場に出る事を望んでいただけに、今の仕事には不満そうだった。
『魔王が現れたのが事実ならば、マユミ様を直接狙ってくるかも知れぬ』
(辺境伯はああ仰っていたが・・・)
彼にはマユミがただの無力な小娘にしか見えなかったのだ。
どうにもやる気が湧かず、護衛の仕事もおざなりになっていた。
(これだから貴族の坊やは・・・そんなんじゃそっちがフェイクだとバレるだろうが・・・)
マインツは未だにミーアこそが異世界の英雄だと思い込んでいた。
セルビウスのやる気のなさもマユミはフェイクという彼の持論を裏付けていた。
(まぁいい・・・魔王とやらの襲撃も望むところだ)
何があってもいいように警備体制をしっかり確認するマインツだが・・・
「マインツさん、いつになく気合入ってんな」
「そりゃミーアちゃんの晴れ舞台だからだろう」
「本当にあの人はミーアちゃん派の鑑だな」
・・・陰でそんな風に噂されている事など彼は知る由もなかった。
一方、マユミ派のファンの間では・・・
「これは我らマユミちゃん派も負けていられないな」
「馬鹿野郎、マユミ陛下だろ」
「でもよ、なんか陛下ってのはしっくりこないんだよ」
「わかる、たしかに皇帝陛下なんだけど、イメージ的にはお姫様って感じだし・・・」
「それだ!姫、マユミ姫のがしっくりくる!」
・・・密かに姫と呼ばれ始めるマユミだった。
大陸北東部、魔の地___
「もう我慢できない!」
・・・魔王ミズキは、早くも洞窟暮らしに音を上げていた。
総人口幾千万の人類に対して、魔族達の数は僅か数百。
いくら魔王の力があるとはいえ今は目立たずに、慎重に事を進める必要がある・・・
そう考えて、普段通りの生活を続けるように魔族達に命じたミズキだったが
現代人の彼女にとって、彼らのサバイバル生活は過酷過ぎたようだ。
「ベッドは硬くて身体が痛くなるし・・・」
魔族達は彼女の為に豪華な装飾の彫られたベッドを作ってくれた。
・・・大きな岩から削り出した一品ものだ。
「食料は虫とかゲテモノだらけだし、野菜を見つけたと思ったらクソ苦いし・・・」
この魔の地では不毛の土地だ、作物はろくに育たない、木の実も生らない。
この地で生きる彼らにとって虫は貴重なタンパク源だった。
それでも必死に探してほうれんそうが自生しているのを発見したミズキだったが、その味は・・・
「トイレはその辺の草むらとか言うし、紙はないし・・・」
それでも生理現象はどうしようもない、野外での排泄はとても屈辱的だった・・・
もちろんトイレットペーパーなどあるわけもなかった。
・・・葉っぱを使ったのは初めての体験だ。
「お風呂もないし・・・このままじゃ魔王様が異臭放っちゃうじゃない!」
「ですから、私共が魔術でお体を洗浄しますので、服をお脱ぎに・・・」
「やめなさい変態!なんで水の魔術使えるのが男しかいないのよ!」
服を脱がせようとしたバルエルに、げしげしと蹴りを食らわせる。
彼ら魔族は全体的に火属性が多く、水の魔術を扱える女性はいなかった。
(どうにかしないと・・・このままじゃ身が持たないわ)
やはりまともな生活を手に入れるには、人間の街へ行く必要がありそうだ。
魔王の力で制圧すべきか・・・しかし先代の魔王を倒したという勇者の類が出てくる可能性もある。
残念な事に今の人間社会の情報は皆無だ。
(考えるのよ・・・私は作家、水樹ダイアナ・・・この手の世界ならうまく立ち回れるはず・・・)
考えるのはストーリーだ。
自分がこの世界で生き残れるようなストーリーを構築する。
・・・そして、彼女は一つのプランを思いついたのであった。
「バルエル!これから人間の街を襲撃するわよ、なるべく文明の発達した都市がいいわ」
「おお、ついにミズキ様が人間共に宣戦布告を・・・」
魔王による都市の襲撃計画・・・その標的となったのは・・・
伏線もあらかた消化したので、そろそろ畳む方向で考えてはいます。
長くても100話以内に最終回を迎えたいと思います。
最終回でタイトルをマユミさんに台詞として言わせて終わるのが目標です。