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第62話 英雄の力です

そして迎えた3日後・・・奇しくもその日に・・・



「ついにこの時が来たか・・・辺境伯殿・・・」

「よもや邪魔立てはすまいな?侯爵殿・・・」


辺境伯率いるは王国最強の銀の騎士団・・・その数は300騎。

もはや軍勢と呼べる規模だ、以前と比べていささか物々しい。


「本気のお主を阻める者など、この王国にはおらぬよ・・・だが・・・」


侯爵はただ一人・・・その軍勢に向き合っていた。


「お主にも聞こえるだろう?あの喧騒が・・・」


そう言って侯爵は広場の方角を指し示す。

そちらの方角に耳を澄ますと、人々の騒がしい様子が聞こえてきた。


「相変わらず賑やかな街ですな・・・して今日は何の祭りか?」

「あれは・・・マユミ殿だ、今彼女による催しが行われている」

「ほう・・・それは興味深い」

「貴公もまずはあれを見ていかれると良い・・・その騎士団はここに置いてな」

「我ら銀の騎士団を通さぬと言うつもりか!」


侯爵の物言いに騎士団が殺気立つ・・・しかし彼らの主たる辺境拍が彼らを制止する。


「よせ、民の為の催しだ、軍勢で押しかけるは無粋よ・・・レドリック、セルビウス、供をせよ」

「はっ」

「残りの者は別命あるまで待機せよ!」

「「はっ」」


統制のとれた動きで騎士団がその場に駐騎する。



辺境伯は二人の騎士を引き連れ、件の広場に向かった。

すると・・・


「なんだこの人数は・・・」


見渡す限りの人・・・広場には数え切れぬ程の人々が詰めかけていた。


「おや、騎士様も見物ですか?」


彼らに気付いた観客が道を空けようとする。


「我らはここで構わん、馬上の方がよく見えるからな」


そう言って辺境伯は馬を止め、馬上から広場を見渡した。

供の二人の騎士もそれに倣う。


広場を埋め尽くす人々の向こう、兵士達が人垣を作り観客を押し留めているその先に・・・

二人の少女の姿があった。


一人は黒髪、肖像画に描かれた人物と寸分違わぬその姿。


「閣下、あの少女が・・・」

「ああ、おそらく彼女だろう」


・・・彼女こそ異世界の少女マユミに違いない。


「皆さん、今日は私たちの為に集まってくれてありがとうございます!」


マユミのはっきりとした声は、彼らの所までしっかりと届いていた。


(催しと言っていたが・・・)


いったい彼女達は何をやろうというのか・・・


「確保に向かいますか?」

「いや、焦る必要はない・・・今はゆっくり見物させてもらおう」


何の力もない貧弱な小娘と聞いていたが・・・その声を聞いた時、彼は妙に気になったのだ。


『貴公もまずはあれを見ていかれると良い』


侯爵は、そしてあの娘は、何を見せようというのか・・・



そして物語が始まった・・・二人の演技に、次第に彼らは惹き込まれていく・・・



・・・・・・




(あの紋章は、まさか・・・)


マインツは兵士達に混ざって警備に加わっていた。

彼だけではない、トゥーガ達も含め、警備上の要所に傭兵達が配置されていた。

荒事に慣れた傭兵達の方がこの警備の仕事に向いている、という理由だった。


彼ら銀の騎士団の・・・辺境伯の紋章は傭兵達の間でも有名だった。


(こいつは、いよいよ大事になってきた)


幸いな事に彼の配置はミーアに程近い。

もはや何が起こってもおかしくはない・・・彼は油断なく警戒するのだった。



・・・・・・




(あれは辺境伯?!・・・なぜここに・・・)


エレスナーデは広場の奥・・・マユミ達の後方にいた。

広場全体を渡せるこの位置で、各スタッフを統轄していたのだ。

観客達こそマユミ達に夢中だったが、騎乗した銀の騎士達は普通に目立つ存在だ。

そして侯爵令嬢たる彼女は、辺境伯の姿に覚えがあった。


見た所、彼らに動きはない・・・観客として見物しているようだ。

しかし、彼女は胸騒ぎが収まらなかった。

彼女の中で何かが警鐘を鳴らしている・・・このままにしておいてはいけない。

だが、どうすれば良いのかが彼女にはわからなかった。



・・・・・・




(見事なものだ・・・)


辺境伯デュバンナムは思わず感嘆の吐息を漏らしていた。

武人たる彼は、この手の芸事には詳しくはない。

しかし目の前で繰り広げられている、二人の少女達の演技のレベルの高さはわかった。


天分の才か、飽くなき修練を積み重ねた者の領域・・・


例えば、今彼女達がいる場所から彼の位置まで声を正確に聞かせられる声量だ。

これはただ大きな声を出せばいいというわけではない。


大声に頼った伝令は伝達ミスが起こりやすいとして、銀の騎士団では行うものはいない。

どんなに大きな声が出せようとも、聞き間違えは起こるものだからだ。


しかし彼女達の声は・・・特にマユミの声は、聞き取りやすかった。

言葉単位での綺麗な発音、聞く側が耳を澄ます為の間のとり方・・・細やかな配慮が各所に感じられる。


(何が、何の力もない小娘か・・・)


間違いなく英雄の力だ・・・ここまで特異な力というのは想像が及ばなかったが・・・


もちろん彼女の声はただ聞き取りやすいだけではない。

現に今も彼女の声に、多くの人々が心を揺さぶられているではないか・・・


・・・そこまで考えが至ったところで彼に衝撃が走る。

そう・・・彼女の『力』は、まるで・・・


そう思った時にはもう・・・彼は馬を降りて、その足で歩き出していた。



物語は終焉を迎えようとしていた。

二人の歌姫の歌声が広場に響く・・・その中を・・・


真っ直ぐに進んでいく・・・その足取りを阻む者はいない。


「閣下に道を空けよ!」


供の騎士二人が主の為に道を切り開いていた。

警護の兵士達も彼らの・・・辺境伯の紋章を前に動揺して何も出来ないでいる。



「ミーアちゃん!」


・・・マインツが動き出すのは早かった。

辺境伯の目的は異世界の少女にあると判断した彼は、ミーアの前に立ち塞がる。

相手が名うての騎士だろうと、一歩も譲るつもりはない。


しかし、辺境伯はそちらには向かわなかった・・・

彼は真っ直ぐに・・・マユミの元へと向かっていたのだ。



「マユミ!」


・・・エレスナーデが動き出すのは遅かった。

辺境伯の目的がマユミであるとは薄々感じていたのに、彼女はなかなか動けずにいた。

・・・相手は侯爵家より格上の辺境伯。

さらに百戦錬磨の武人が放つ気迫のようなものに彼女は気圧されてしまっていたのだ。



(あれ・・・何かあったのかな?)


騎士風の人物達が自分の所に向かってくる。

しかしマユミは彼らの目的が自分であることに気付かなかった。

観客達が問題を起こして自分の仲裁が必要になっている・・・思い浮かぶのはそんな事態だ。


マユミは彼らの口から状況の説明が出てくるのを待っていた。


そして・・・


マユミの目の前で辺境伯デュバンナムが跪く・・・広場に集まった大勢の人々が、その光景を目撃した。


「『王者の力』を持つ異世界の英雄よ・・・」


「え・・・」


「我が剣を捧げます・・・貴女様こそ、我らの主に相応しい」




こうして歴史は動き出す・・・名実共に新たな英雄の誕生だった。

喜べ少女、君の願いはようやく叶う・・・

第4話の時点で真弓さんが願った事がこれで全部叶います。


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