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第42話 フィリア物語です

舞台の上の妖精・・・草花をイメージした緑のドレスを身に纏ったミーアはまさしく森の姫君だった。

アップになった髪型によって尖った耳が見えやすくなっていた・・・なかなかに演出が細かい。


「おお、なんと美しい・・・森には妖精が住むと聞いていたが、貴方がその妖精なのか」

「そう、私は妖精族の姫フィーリア、あなたは人間ね・・・今すぐ森から立ち去りなさい」


姫の美しさの心奪われる王子、しかし姫は毅然とした態度で王子達に森からの退去を促す。

その大人びた美しい声がまた彼女の存在感を増していた。


(やっぱり声に力があるなぁ・・・)


舞台においても声は重要だ・・・マユミ達のいる最前列ともなれば役者の表情まではっきりと見えるが、後ろの席になればなるほど見えにくくなる・・・立ち見の最後列ともなれば顔もなにもわからない。

そこを声が補うのだ・・・ミーアの美しい声はそれだけで美しい姫であることが伝わってくる。


(でも、こっちの人たちは視力が良いみたいだから見えてるかも知れないけど・・・)


その点で現代人の視力そのままのマユミとしては最前列は正解だった。

もしも立ち見だったら声以外よくわからない、なんてことになりかねない。


物語は進む・・・妖精の姫の要請に従い、森を出た王子達はそのせいで敵軍への奇襲に失敗、多くの部下を失い自身もまた重傷を負ってしまう。

そして敵に追われ逃げ続けるうちに森の中に迷い込み・・・そこで再び姫と出会うのだった。


「そうか・・・逃げ続けるうちにまたこの森に・・・くぅっ・・・」

「まぁ、酷い怪我だわ・・・いったい何があったのです」


重傷を負って倒れた王子の姿に責任を感じた姫は王子を森に匿い、その傷が治るまで甲斐甲斐しく世話をした。

・・・そしていつしか二人は恋に落ちるのである。

静かな森の中、二人の幸せな時間が過ぎていく・・・しかし・・・


「馬鹿な・・・我が息子が敗れた・・・だと」

「はっ、殿下率いる部隊は森で妖精族に阻まれた為に敵の背後を突くことが叶わず、敵軍の攻撃を受け壊走・・・殿下の生死も不明とのことであります」

「おのれ・・・なにが森の妖精か!あの森を焼き払え、敵軍もろともうち滅ぼしてくれるわ!」


激怒した国王は大軍を集め、その半数を敵軍に、残りの半数を連れて自ら森への焼き討ちを敢行する。


「ああ・・・森が・・・」

「私が父上を説得して止めさせる、それまでフィーリアは安全な所に隠れているんだ」


そう言って駆けていく王子・・・しかし入れ替わるように現れた兵士達によってフィーリアは捕えられてしまうのだった。


王子の説得もむなしく森は焼け落ち、捕えられたフィーリアは塔に幽閉されてしまう。

彼は父王に彼女の解放を願ったが、それが聞き入れられることはなかった。

彼に許されたのは幽閉されたフィーリアに面会に行くことだけだった。


「すまないフィーリア、私のせいでこんなことに・・・」

「ライルード様・・・どうかご自分を責めないで・・・こうして会いに来てくれるだけでも私は・・・」


二人が逢瀬を繰り返すその間も国王による侵略は続いていた。

国王の軍は負け知らずで多くの国が併合されていったが・・・力によって支配された人々の間では徐々に不満が高まっていった。


戦に明け暮れる暴君を討つべし・・・反国王派とも言うべき派閥が密かに広がっていく・・・そして・・・


「殿下、王を打つ事が出来るのはあなたを置いて他にありませぬ」

「どうか民の為にお立ちください」

「諸君らの気持ちはわかるが、私に父を討つなど・・・」


いかに民を苦しめる暴君と言えど実の父親・・・果たして自分に父殺しが出来るのか・・・迷う彼の耳に囁く者がいた。

王子に募る諸侯に混ざった道化の男が王子に近寄り、耳元で囁くような素振りで語る。


「そういえば・・・王の命で塔に捕らわれている姫君がいると聞きましたが・・・もしも王を討つべく殿下が立たれれば・・・かの姫君も救い出す事が出来るのではありますまいか?」

「・・・」


迷った末に王子は決意する・・・愛しい姫の為に父を・・・暴君をこの手で討つと・・・


「フィーリア、助けに来た、ここを出るんだ」

「ですがライルード様・・・あなたはどうなされるおつもりですか?」


王子の気配から何かを感じ取った彼女が尋ねる。


「父を・・・国王を討つ事にした・・・多くの民がそれを望んでいる」

「いけません、父親を自らの手で殺めるなど・・・」

「父は多くの罪を重ねてきた暴君だ・・・それにこのままではフィーリアが・・・」

「やはり私のせい、なのですね・・・」

「それは違・・・」

「お願いです・・・私などの為にあなたが傷つくところをもう見たくないのです」

「すまない、もう決めたんだ・・・私は父を、王を討つ・・・そして貴女を妻に迎えると」

「!」

「私と共に来てくれないか?」

「・・・ですが私は人間では・・・」

「構わない・・・フィーリア、愛してる」

「はい・・・私も愛しています・・・」


王子が彼女を抱き締める・・・そして口付けを交わす二人・・・客席から歓声が上がった。

しかし話はまだ終わらない。

ライルード王子による反乱は多くの支持を集め日増しにその規模を拡大していく。

かつてはその武で名を馳せた国王だったが、次第に追い詰められていくにつれ、その心を狂気に囚われていく・・・


「森の妖精・・・息子を惑わす悪魔よ・・・」


彼の憎しみの対象は自らに刃を向ける息子ではなく、フィーリアへと向かったのだった。


そして迎えた決戦の時、フィーリアは王子の傍らを離れたくないと戦場に付き添っていた。


「我が父よ、もはやこれ以上の犠牲を出す事はない、今この手でその罪を断ち切って見せる」

「良いだろう我が息子よ、この父を超える事が出来るものならば、やって見せるがいい」


フィーリアが見守る中、父と子の一騎打ちが始まった。

殺陣のような技術とは違い、実戦さながらに剣を打ち合わせる二人に観客が息を飲む。

互角の戦いを繰り広げる二人だが、次第に国王の動きが鈍くなり、その剣が弾かれた・・・そして・・・


「父よ、これで終わりだ!」

「くぅ・・・させるかあっ!」


最後の足掻きとばかりに短剣を投げるも、それは王子に当たることなく・・・


「でやあああああっ!」

「ぐああああああ!」


王子が振り下ろした剣によって、暴君は絶命するのだった。


「やったぞフィーリア、これで私達は・・・フィーリア?!」


見ると、フィーリアが胸を押さえてうずくまっている・・・その手元には血のついた短剣。

先程、王が投げた短剣だ・・・彼はその最期にフィーリアを狙って投げたのだった。


駆け寄った王子の腕の中・・・緑のドレスが赤く染まっていく・・・


「ライルード・・・さま・・・」

「ああ・・・フィーリア・・・私は・・・」

「どうか・・・ご自分を責めないで・・・あなたはきっと・・・良き王に・・・」

「なるとも!良き王に・・・だからフィーリア、ずっと傍に・・・」

「大丈夫・・・私はよ・・せい・・・森に・・・帰るだけ・・・森と共にあな・・・を・・・」

「フィーリア?!うわああああああああ!」


力なく崩れ落ちるフィーリア・・・王子はその亡骸を抱きかかえ、ゆっくりと歩いていく・・・

やがて舞台袖へと二人が消えると、道化が現れ物語を締めくくる。


「その後王位に就いたライルード一世は善政を敷いて戦に疲弊した国を立て直した、と伝えられております・・・彼はまさしく良き王となったのです」


ここまでくると観客たちは私語もなく、その話を静かに聞き入っていた。

そんな中、マユミは冷静に彼の技量を値踏みしていた・・・


(この人、良く動けるし、芝居も上手いけど・・・ちょっと声量が足りないかな・・・)


・・・声に対しては少々厳しいマユミだった。

確かに最前列のマユミ達が聞いている分にはちょうどいいが、後ろの方では少し聞き取りにくいかも知れない・・・観客が静かにしている理由もその声を聞き逃したくないからかも知れない。


「・・・妖精の姫フィーリアの亡骸は彼によって手厚く葬られました・・・その地は後に彼女の名前を取ってフィリアと名付けられ、街となり、森の妖精族と友好的な関係を築いて栄えたと言われております」


(フィリア・・・そういえばそんな街もあったわね・・・)


エレスナーデは王国の東の方にそんな名前の街がある事を思い出していた。

この物語はその街の伝承がベースなのだろうか・・・


「以上を持ちまして、フィリア物語・・・これにて終演となります」


そう言って道化が一礼すると、舞台袖から出演者たちが現れ、整列した。

もちろんフィーリア役のミーアもいる・・・彼女は王子役の男性と共に先頭で一礼した。


「「「ありがとうございました!」」」


精一杯役を演じきった彼らに、割れんばかりの拍手が鳴り響く・・・

こうして彼ら椋鳥一座の初日公演は幕を閉じたのであった。



久々にほぼまるっと一話作中作です。

声優とか役者を扱う話だと作中作もいっぱい考えないといけませんね。

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