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第30話 青い海の港町です

船というものは揺れる乗り物である。

まして中世の河川用の小型船舶ともなれば、現代の船舶の比ではない。

そして海を見たことのないマユミが船に乗るのはこれが初めてであった・・・


マユミは船の縁にしがみつきながら、魚に「餌」を与えていた。

そのごく一部を除いて澄みきった川の水・・・その中で、魚達が「餌」に群がるのが見えた。


「お魚さん・・・君たちはこうやって育つんだね・・・」


死んだ魚のような目で魚達の食事を眺めるマユミ・・・もう身体を動かす気力もなくなっていた。

エレスナーデは心配そうにその背中をさすっていた。

マユミと違ってエレスナーデは船に酔った様子はなかった、過去に行った事があると言っていたし、少しは慣れているのだろうか・・・ゲオルグの方も問題なさそうだ。


(やっぱり体力の問題かな・・・このポンコツな身体め・・・)


貧弱な身体を呪いつつ、横たわって空を見上げる・・・綺麗な青空だ。

天気に恵まれたのは幸運だった、これで雨だったら悲惨な事になっていたに違いない。


「ああ、そっちのお嬢ちゃんはずいぶん弱っちまってるみたいだね・・・一旦陸で休むかい?」

「ええ、お願いするわ」


そんなマユミの様子を見かねたのか、船頭の男が気を利かせてきた。

程度の差はあれど船酔いする客は決して珍しくはないらしく、川沿いにはいくつか休憩所があるという。


「もう少しだからね、辛抱しておくれ」


やがて小屋のようなものが見えてくる・・・そこが休憩所のようだ。


「おーい、誰かいるかーい、ちょっと手伝っておくれ」


船頭の男が船を停泊させながら叫ぶと、中から農家風の人が出てくる・・・普段は地元の農民達の休憩所になっているらしかった。


「あれま、船に酔っちまったんだねぇ」

「急に動かしてはならん、気を付けて、ゆっくりと運ぶんじゃ」


数人でマユミを担ぎ出し、藁で作られた簡易寝台へと丁寧に横たえた。


「川辺で採れた薬草のお茶だよ、これをお飲み」

「あ、ありがとうございます・・・」


薬草と聞いて以前食べたほうれんそうの苦みを思い出したが、特に苦みはなくすっきりとした味だった。

お茶を飲んで一息ついたところでマユミのお腹がぐぅっと鳴った、つい先程その中身を魚達に与えてしまったので空腹になっているのだ。


「お腹が空いているのかい、これをお食べ」


そう言うとパンを一切れ差し出してきた・・・どうやら彼らは先程までここで食事をしていたらしい。

どうせ食べてもまたすぐ船で吐くんじゃないかと迷ったが、彼らの好意を受けることにした。

少々硬いパンだったが薬草のお茶とよく合った・・・


「しかしかわいい子だ、うちの息子の嫁に欲しいねぇ」

「あんたんとこの馬鹿息子じゃ釣り合わんじゃろ」

「いや、あれはあれで良い所もあってだな・・・」


ご近所話に盛り上がる彼らを眺めながら、マユミはだんだんと身体が楽になっていくのを感じた。

どうやら船酔いが収まってきたらしい。

自力で立ち上がり、問題ないことを確認したマユミは彼らに礼を言うと休憩所を後にするのだった。


「大丈夫?もう少し休んでもいいのよ?」

「大丈夫、それにそんなに休んでいたらいつまでも港町に着かないよ」


心配するエレスナーデに支えられつつ再び船に乗る・・・船の揺れは相変わらずだった。


「ううぅ・・・船ってこんなに厳しい乗り物だったんだね・・・」


早くも酔い始めてきた事を感じるマユミ・・・このままではさっき食べたパンがお魚の餌になるのは時間の問題だ。


「まぁ大きな船ともなれば違うんですけどね・・・」


船頭はマユミの気を紛らわすためか、以前に港街で聞いた話をする。


「なんでも、立派な船にはそれぞれ専属の魔術師様がいて、魔術で船を安定させるとか」

「へぇ~、魔術でそんなことも出来るんだ」

「そりゃもうスイーーっと進むらしいですわ、船の揺れも心地良いくらいだって話です」

「いいなぁ・・・」


マユミは感心して話を聞いていたが、その隣でエレスナーデは難しい表情をして考えこんでいた。


(魔術で船を・・・もし私にも出来れば・・・)


水の塊を作って船を支える?・・・しかしバランスを間違えれば船が転覆しかねない。

彼女が同時に操作できる数は8つ・・・船のどこを支えればいいかを考え・・・そして・・・


『水よ・・・支えなさい』


彼女が魔術で生み出した8つの水球が船の8カ所へ張り付いた。


「あんた・・・魔術師だったのかい?!」


驚きの声をあげる船頭・・・だが、船はなかなか安定しない。

エレスナーデにとって初めての試みなのだ、手探りで少しずつ調整していくしかない。

しばらく難航したが、次第に船の揺れは収まっていった・・・


「これで、大丈夫かしら・・・」

「すごいよナーデ!ぜんぜん揺れてない」


試行錯誤の結果、8つの水球は水の抵抗を受け流すように形を変えて船を支えていた。

今や揺れはほとんど感じられなかった。


「いや~魔術ってのはたいしたもんだ、これならさっきの遅れも取り戻せそうだよ」


船の安定は船の速度を速める効果を伴った。

これによって当初の予定通り、3日で港町オルトレマーナに到着したのである。


「ナーデ、街が見えてきたよ!」


目の前に見えてきた新たな風景に、マユミが声を上げる。

川の両側に建物が立ち並んでいるのが見えた、その先には大きな外壁・・・やがて船は水門をくぐり、外壁の内側にある船着き場へと停泊した。

川の流れの先に見えるのは海だろうか・・・青い水面が陽光を受けてキラキラと輝いていた。


「さぁ着いたわ、ここが港町オルトレマーナよ」


港町オルトレマーナ

挿絵(By みてみん)


ある程度水や風の魔術が発達している世界では、船に専属の魔術師が着くと思うのです。

船の方も魔術を用いた運用を前提にした改良、進化が行われるんじゃないかと思います。

魔術師=砲台みたいな扱いの作品も多い中、こういう魔術も描いていきたいなとちょっぴり思ってます。

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