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終幕のエンドレスナイト   作者: あらいぐまっするどっきんぐ


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13/45

「犯人は同じだと考えられているが時刻や場所を考えると、複数犯の犯行との見方も浮上している。標識をへし折る犯人が何人もいても困るがな」

「それはつまり、この通り魔は予想通り、黒騎士って事で間違いないのか」

「僕はそう考えている。黒騎士が夜な夜な人を襲っているとね」

 夜な夜な襲う黒騎士、それは都市伝説やホラー映画の類にしてはいささか陳腐な内容だが、こうやって事件となると呑気に冗談も言っていられない。

「けど疲労回復中は活動しないんじゃなかったのか」

 昂我は昨日の浅蔵達との会話を思い出す。

「所詮推測だ。血を求めることで体力を回復する化物は幾らでもいるしな」

「ということは、黒騎士も体力の回復をするために地味に活動してるってことか……」

「血液には魔術的な要素があり、人外の者には主食としてよく好まれている。その線もゼロではないって程度さ」

「嫌な話だ。吸血鬼ってことか」

「吸血鬼ならこの程度の被害では済まないだろうがな」

 浅蔵は笑いながら、引き続き周囲をダイヤモンド・サーチャーで探っている。

「他にも何か分かるか?」

「ダイヤモンド・サーチャーの《全知の視界》は今の状況分析以外にも、蓄積したデータにより、『起こった過去』と『起こりうる未来』を見せてくれる」

 浅蔵は遠くを見つめながら辺りを見渡す。

 ここで黒騎士が何をしたのか、現場の状況からダイヤモンド・サーチャーの瞳を通して、過去を確認しているのだろう。このとき浅蔵が独り言のように呟いた。

「この視界で成り上がったのか……」

「どうかしたのか?」

「すまない、聞こえたか」

 浅蔵はこちらを見ずに言葉を続ける。

「こうやって《全知の視界》を扱うと分かるが、父親はダイヤモンド・サーチャーを駆使して医療を行っていたんだなと思ったんだ。精密な動作や病気の原因解明、それらを全てこの能力で行って、今の地位を築いた。何百年も眠っていた力を医療で使うのは素晴らしい事だとは思う。……思うが、父親は医療の知識はまるでない人なんだ。だからなんていうか、勉強で医師の立場を勝ち取った人達もいる中で、騎士鎧の力で全てかっさらったと思うとね……複雑な心境さ」

 皮肉たっぷりに浅蔵は吐き捨て、再び地面を触ったり、周囲の壁などを手探りで確認している。前日からどうも父親の話題になると、刺々しい口調になる。

「親父さんが苦手なんだな」

「苦手? 苦手なんてもんじゃないさ。あの男は自分の私利私欲の為なら、ダイヤモンド・サーチャーを失った今でも様々な手段や言葉を使って周囲を巻き込み実行する。しかも最終的に上手く行くからタチが悪い。正論が全てって男さ」

 私利私欲でも周囲を動かすカリスマ性と巧みな話術、能力を持っているのならば、よっぽど優秀な人物なのだろう。

 そう考えた時、ふと疑問が浮かんだ。

「そういやナイツオブアウェイクのメンバーは各々バラバラに生活しているのに、騎士団長って存在意味あるのか?」

 脅威が無くなり皆がバラバラに生活していたとするならば、騎士を率いる必要はないだろう。

「ない。過去の名残だ」

 返事は端的で感情もない。

「それに、大分話してしまったが、これ以上は騎士でない君には話難いさ」

 と、苦笑いをする。

 それもそうか。騎士は本来秘密裏に人類の脅威を退けてきた。昂我は今はこうして騎士二人と行動しているが、ただ黒騎士との戦いに巻き込まれただけで、いつ暴走するかも分からないから傍に置かれている。これ以上騎士の話を聞くのも悪いだろう。

「悪いな。僕は君が口の軽い男と思っているが、それが理由じゃない。ナイツオブアウェイクの話は騎士以外にあまり話せるものではない。一般人には全てが終わったら普通の生活を送ってほしいのさ」

「おいおい、誰が口が軽い男だよ。俺は言っちゃいけない事は何があっても言わない誠意の塊のような男だぜ? これでも信頼と安心を周囲にふりまいてるってお墨付きだ」

「そうですかね?」

 何故か昂我の隣で首をかしげる凛那。

「何故、疑問系なんだ! 眼鏡でもかければいいのか、見た目から入れば疑われないのか!」

「まずはその軽い口調を直さないとな、一言多いって通信簿に書かれたことないか?」

「ないって! さっきだって凛那は寝起きが可愛らしいって話は誰にも言ってないんだぜ、あ」

「赤槻昂我、狙ってるな」

 冗談だと分かっているだろうが、呆れた顔で浅蔵が俺を見る。

 俺の隣にいる凛那に至っては、無言でこっちを睨んでいる。

「あ、いやこれもお約束かなーって……」

「余計なことは言わなくてもいいんです!」

 もう! といって凛那は顔を背けてしまった。

「ほう、あの誰にでも人見知りだった凛那君が、ここまで打ち解けるとは。もう木の後ろにばかり隠れていた幼い頃とは違うようだ。あの頃はずっとついてきて可愛かったものだよ」

 はっはっは、と笑うので昂我も浅蔵と一緒に笑いだす。

「せ、兄さんまで何言ってるんですかー!」

 凛那は頬を染めて、うう、と小さく唸った。

「しかし、先ほどはこれ以上は言えないとは言ったが、今は仕方ない。レプリカを見張る役目の凛那君とは離れられないし、耳に入った分は仕方ない」

 浅蔵の左手の甲の光が消える。ダイヤモンド・サーチャーの展開を解いたのだろう。

「黒騎士の言葉で気に掛かる事があったからあの後、屋敷の書庫で調べたんだ。黒騎士が僕達の騎士紋章を見抜いたのは騎士に恨みがあるから、その程度の知識は持っていると考えられる。しかし会話の中で『零がいない、今』と言っていた。それが僕は気にかかったんだ、その零とは一体何者なのだろう」

 凛那も聞いた事ないのか浅蔵の言葉をオウム返しに口ずさむ。

「零……?」

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