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終幕のエンドレスナイト   作者: あらいぐまっするどっきんぐ


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なんか意外で可愛いな

 3


『本日未明、一番町の住宅地にて通り魔事件が発生。犯人は今だ捕まっておらず、逃走中。斬りつけられた男性の命に別状はなく、男性の話によれば犯人は黒い甲冑の様な物を身にまとっていたとの事』

 続きまして、とアナウンサーはアライグマの赤ちゃんの話題を読み進める。それと同時にナイトレイ家の黒電話がけたたましく鳴りだした。

 昂我達はニュースに見入っていたが、電話の音に気が付いて夕陽がパタパタと小走りに廊下へ出ていく。

「凛那さん、浅蔵様からお電話です」

 ニュースの内容についてだろう。昂我は口に出すまでもなく凛那を見ると彼女は頷き、凛那はすぐさま廊下へ向かった。

 こんな時、携帯電話を持っていたら連絡も早く取れて楽だろうが、昂我と凛那は携帯電話を所持していなかった。浅蔵は持っているようだが、二人の生活には今のところ必要という程でもない。今後の事を考えると所持していても良い気はするが――どうにも機械全般に対して昂我は苦手意識を持っていた。

「昂我君、これから私達も出ましょう。兄さんが現場に集まろうとの事です」

「ニュースの現場か?」

「はい、場所は閑静な住宅地です。兄さんはもう現場にいるそうで、警察の実況見分は終わったようです」

「分かった、すぐ行こう――凛那達は学校はどうするんだ?」

 昂我は浅蔵や凛那の協力を得て、学校にはインフルエンザ、両親には良い感じに内容を伝えている。しかし育ちの良い二人は三学期の冬、まだ少し登校日数は残っている。

「私は午前授業だけでしたし、事件の事もあって、そのままお休みとなりました」

「さすがお嬢様学校、浅蔵は――心配するまでもないか」

 浅蔵は学校でも優秀そうだから、休む場合もうまくやっているのだろう。

 しかし学校が休みならば――ふと気になったことを凛那に投げかけた。

「何故、朝からセーラー服なんだ?」

 朝、昂我がリビングに降りて来た時には凛那は優雅に椅子に座って、朝一番の紅茶を夕陽から頂いていた。思い返せばその時は既にセーラー服で髪もしっかりと整えられ、ご丁寧に蒼い雪の結晶の髪留めまで装着済みだった。

 昂我は(短期ながら)居候にも拘らず、早くもパーカーとジャージ姿である。自宅でも普段からジャージ姿で生活しているので違和感はなかったが、この差は何なんだ。

 明日から少し気をつけるべきだろうか。

「そ、それは――」

 戸惑う凛那の姿を見て食器を片づけていた夕陽が、キッチンから顔を出して含み笑いする。

「いつもは髪の毛もはねっはねで、ボーっとした顔で寝巻のままいらっしゃいますが――どうしてでしょうね?」

「そうなんだ? 普段からしっかりしてるいイメージだけど、なんか意外で可愛いな」

 頭の中ではパジャマにカーディガンを羽織り、髪の毛も外やら内やらに跳ね、目が開いてない凛那の姿が映し出される。

「か、かわい――!」

 凛那が言葉を発した気がするが、自分で押しとどめた様で昂我の耳にはしっかりと届かない。

「そうなんですよ、この前なんて寝ぼけて紅茶に食パン浸してましたからね。ふふふ。その後に間を開けて、『美味しくない……?』っていう姿には、ほんっっっっっとに、もう!」

「ゆ、夕陽さん!」

「寝ぼけ方も凄いのか……これは凛那に対して考え方を少し改めねばならない」

「でも、これもそれも昂我様がいらっしゃるから。そんな姿を見せない為に、毎朝五時に起きて、しっかりと身だしなみを整える涙ぐましい努力を……」

 エプロンドレスの袖を持ちあげて、えぐえぐとワザとらしい泣き真似をする。

「あ、そうだったんだ。悪いことしたなあ。俺の事なんて気にしなくても良いのに」

 にへらと笑って、凛那を見ると知らぬ間に耳は真っ赤で、頬は林檎が熟したようだ。

「顔赤いな。外は寒いし、暖かい格好で行こう」

 現場では浅蔵が待っている筈だ。窓の外を見ると今日は曇天、北風が体温を奪うだろう。考えただけでも身体の芯から冷えそうなので、昂我はすぐに着替えに向かった。

 凛那もすぐに動くのかと思ったら、その場に立ち止まったままである。

「早起きしすぎて眠いのか? 寝不足は良くないぞっ。てへ」

 てへの後に☆マークが飛び出るように可愛らしく言って見たが、何の反応もない。

 しかし微かに凛那の口元は動いている。

「……絶対に早く起きる……今後も早く起きる……もう、寝ないから……!」

 呪詛の様に口ずさんでいた。



その後すぐに家を発ち、ナイトレイ家から三キロ地点、現場は住宅地の一角。

 周囲の民家に人の気配が無いのは今日が平日だからだろう。

 この辺りは碁盤の目の様に区画が分かれており、道路も真っ直ぐで見通しが良い。街灯が等間隔で並び、夜はきっとぼんやりと灯っているのだろう。

「遅かったな」

 白いコートに身を包んだ浅蔵が到着と同時にそう言い放った。

「ああ、凛那の寝ぼけの話題で少し遅れ――」

「あ、あの、その、現場はどんな状況、なのですか!」

 会話を遮る様に凛那が昂我と浅蔵の間に割って入る。

「あ、ああ、状況なんだが――」

 凛那の慌て様に珍しさを感じているのか、不思議な顔をするも特に追及はせず、浅蔵は路上にしゃがみ込む。

「血痕の後はしっかりと拭き取られているが、成分は若干残っている」

 手の甲が僅かばかり光を帯びる。昂我には確認できないがダイヤモンド・サーチャーが発動しているのだろう。

「血液型はAマイナス。警察は斬りつけの事実はともかく、甲冑の件は酔っ払いの見間違えとするらしい」

 ダイヤモンド・サーチャーの《全知の視界》では、酔っぱらっている事実を確認できないがな、と付け足した。

「その判断も仕方ない。何せ『黒い甲冑を身にまとった人物に斬られた』だ。飲んでなくとも酔っ払いの戯言と思いたくなる」

 直接黒騎士を見たことがなければ酔っ払いか過労か、見間違えと受け取られても仕方はない。

「拭き取りきれていない血がダイヤモンド・サーチャーで幾つか確認できる。かなりの散らばり方から鋭利ではない……もっと乱暴な道具で斬られた印象だな。こんな感じで大振りに」

 浅蔵が立ち上がって、左から右に手を動かす。

「なおこの近くで折れた標識が発見されたそうだ。先ほどの推測からそれが凶器だろう。それで大事なのはここからだが」

 浅蔵は声のトーンを落とす。

「浅蔵家は四桜市の関係各所と繋がりがある。勿論警察ともだ。そのうちの情報の一つだが、他にも同様の通り魔事件が二件あったと先ほど連絡が入った」

「一日、しかも昨日の夜だけで二件? これも含めると三件か」

「ああ。しかも全ての事件が深夜三時台と時刻が近い割に現場の距離が随分離れていてね。紅葉区や石霧区まで広がっている。そちらでは標識以外にも周囲の外壁などが破壊されている。被害者はどちらも夜遊びをしていた緑木高の男子学生さ」

「うちの学生か……確かに夜遊びしてるような連中もいるからなあ……難儀なこった」

「こちらは切り付けられることは無かったようだが、ショックのせいか放心状態らしくてね。うちの病院に入院中さ」

 やれやれといった風に浅蔵は首を振る。


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