-雪原の紅玉姫ー
「終幕のエンドレスナイト -雪原の紅玉姫ー」は2016年の新人賞応募用に制作した作品です。
本業の仕事をしつつ、2015年から合間を見つけては執筆を開始し、結果一時落選いたしました。
反省点を次回に生かせるように洗い出し、現在は次の作品を執筆中です。
普段のモチベーション維持に繋がるかと思い、この度は投稿させていただいた次第です。
もしよろしければ、お目通しいただけると幸いです。
いつか誰かの記憶に留めていただける様な作品に繋げたいと思います。
いつかあの日
人生捨てたもんじゃねえ――か。
何時間私はこうしていただろう。
私の背中には崩れた日本家屋があって、長い時間をかけて先ほどやっと燻っていた煙が自然鎮火した。立ち上がって見渡すとどの家も全焼し、瓦礫しか残っていない。
見上げると雨も降りだしそうだ。
私は濡れないけれど、目の前でずっと棒立ちの男の子は雨に濡れるだろう。
けれど私はこの子に干渉する事は出来ない――ただ見守る事しか。
彼の背中に触れると自身が幽霊のようにするりと通り抜けてしまう。
私は今ここにいる理由を徐々に理解していた。
記憶に次々と見知らぬ記憶が刻まれては消え、忘れ去られていく。それはまるで様々な夢を見ているようで、どれが現実なのか分からない。
これから先の未来を見る事もあれば、違う選択肢の未来もあり、また、誰かの過去を見る事もあった。私そのものは時間や空間を理解してはいない。けれど今の私の状態が、時間や空間を超越している。だから今、私がいない時間と場所で起こっていることも理解できた。
それでも私は何もできない。
ここでも、この先の未来でも、私は手を出せないでいる。それが歯がゆい。
この状況、今までの私ならただ塞ぎ込んで、逃げ道を探していただろう。
けどこの胸の奥にある湧き上がる思いは、いつもの感情と違う。
熱い。今すぐにでも動き出したい。行動を起こしたい。
――もしかしたら。
私は一縷の望みを賭け、騎士鎧を展開する。
左肩が深紅の閃光を放ち、私を取り囲む半透明の紅の鎧が生まれる。
未来で行く手を阻まれている『あなた』にきっと届くはず。
私は男の子に向けて、そっと手を伸ばした。
彼に触れる事は出来ないけれど、私はそっと彼を抱いた。
今は何もできないけれど、きっとこの『想い』が遠い未来のあなたに届きますように。
時間は再び進む。
私が彼の背中に寄り添って座っていたころ、地面が黒く染まりだし、雨が降り出してきた。
丁度そのころ、遠くから歩いてくる人影が見えた。
少年の視界に人影は入っているのに、少年は微動だにせず、雨に打たれたままだ。
貴方はこれから、色々な事を知っていくのだろう。
辛い事や楽しい事、泣きたい事もあるし、怒る時もあるだろう。
それでも歩みを止めずに進んでいく。
遠い未来で、いつか出会うために。
歩んでくる人影を見て、私はほっと胸をなでおろした。
[終幕のエンドレスナイト -雪原の紅玉姫-]
プロローグ
君は何故、この世界に人類の脅威が存在しないか考えたことがあるかい?
西暦二〇十九年。
地球全土に人類が反映している黄金時代。
勿論人間以外の動物や昆虫、魚類、微生物、植物など多種多様な生き物は存在するが、知性を持ち文明を発展させた生き物は人間だった。
誰もが知っている通り、人は進化の過程で火や電気を駆使して文明を発展させ、現在の姿を作り出した。今や人類未踏の地はこの地球上に存在せず、同じように高度な文明を築く種族も存在しないのは当たり前と考えられている。
では何故それが当たり前なのか。
様々な文献や過去の言い伝え、神話、物語には異形の種族が存在しているにも関わらず、だ。
つい三百年ほど前までは大きな種族間での争いが行われていた。
人類対悪魔及び天使、他にもモンスターや異種族との闘い。極東の地では妖怪という存在もいた。彼らは各々がその『次元』の繁栄権を得るために剣を交えてきた。
その争いに勝利をもたらす為に、人類は『騎士』と呼ばれる存在を誕生させた。
騎士は『騎士紋章』から『騎士鎧』を呼び出し、人類の脅威と戦う存在。
その戦いの歴史は大昔からある、どこにでもあるような物語だ。
だからここに記載するつもりはない。
問題はその後だ。
改めて問う。
君は何故、この世界に人類の脅威が存在しないか考えたことがあるかい?
それは前述した内容からも明らかだろう。
では私はこう問おう。
脅威を失った世界で騎士はどう歩んでいくのか、君は知っているかい? と。
――――ナイツオブアウェイク書記マリアベル=BR《多種次元碌:手記》の一説から。