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さんすうリズム  作者: あゆみかん熟もも


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222 【 バグ化生物 誕生論 1 [ 回転キューブ ] 】


 現在 提唱されているバグ化生物 誕生の説は、幾つかある。

 俗説にしかすぎないが、紹介しよう。神のような子どもの話。


 少年タイシの住んでいる家は貧乏だった。

 お金がない。だけど親と弟妹が いた。

 いつか災害が起きたら隣近所よりも真っ先に崩壊してしまいそうな屋根の傾いた家に住んでいた。何とか今は持ちこたえている。

 タイシはまだ子どもだった。小さい弟や妹がいるけれど、まだまだ自分一人でも遊びたい。そんな年頃を抱えていた。

 ある日タイシは親に おもちゃ屋へ連れて行ってもらう。

 ラジコン、飛行機、ミニカー、カード、人形、プラモ、テレビゲーム。それらには全くと言っていいほど興味を示さなかった。

 しかしたった一つだけ。タイシの心を揺り動かした物がある。あまり目立たない隅のカウンターで、照明の光も届き当たらず影でひっそりと隠されているように陳列されていた、その物よ。

 それは。


 回転キューブ。ルービックと、建築学者の名を付けられている。


 一般的に浮かぶものだと。立方体が3×3個 集まって合計9個で一面を成し、それが各面に同じ色を向けて揃い、立方体と成る。各列、行で縦と横に回転させる事ができ、一度ぐちゃぐちゃに回転させておいたものを今度は色を揃え戻そうと思案していく。そんな思考遊びであるのだ。

 実際に試してみるとわかる事だが、ただ回転させていくだけでは なかなか色を揃えられそうにはないと思われる。

 コツがいる。そしてパターンを覚えればいいのだと、キュービストは言った。

 試してみるといい。


 タイシの好奇心は、それ一点に向いていた。しかしまだ新発売されて間もないそれは、おもちゃとしてはとても値段が高く。貧乏な身分と知っていたタイシは欲しいと親に言い出す事ができなかった。

 子ども心に親達を気遣っている。長男で、下の弟や妹の事も考える。仕方ないと言えよう。

 いったんは退却したタイシだったが、決して諦めてはいなかった。

 何と、タイシは自分の手で回転キューブを作る。

 材料は紙だ。安く手に入る厚紙だ。壊れやすいし水にも弱いが形になった。ちゃんと回転し、おもちゃとして充分に遊べた。見事である。

 ただ、前述に述べた普通の色並べのキューブではなかった。各面に色を塗るのではなく、タイシは何と数字をかいたのだ。

 色ではなく、数字を並べ戻すキューブ。123456789、123456789、……123456789。一面に9つの数字を順にかいていた。そしてその同じ面が立方体の6面に。

 かき回した後は、元に戻す。

 それだけの楽しみ。

 タイシは、彼は遊ぶのだ。紙なら幾つでも作れるし、人に贈るわけでもない。

 彼はお金をかけずに時間という手間をかけて欲しいものを手に入れた。

 欲しいものとは、形。

 神なら、宇宙か。

 忘れないでほしい。タイシは子どもだったのだ。

 コツをつかめず慣れないうちは、揃えられるわけがない。

 揃えられなければどうするのか。答えは単純だ。元に戻らなければ。


 ポイだ。――放棄する。


 そうやって『生まれ』たものが。



 ……『野獣』である。




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