第6話 バイト天国の二週間
説明回です。
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『なまえ』 :しゅせんど
『ねんれい』 :15さい
『しゅぞく』 :にんげん
『いのち』 :10(HP)
『せいしん』 :10(MP)
『たいりょく』:1(体力)
『じきゅう』 :1(持久力)
『ちから』 :1(攻撃力)
『まもり』 :1(防御力)
『かしこさ』 :1(魔法攻撃力)
『すばやさ』 :1(素早さ)
『せっとく』 :1(説得力)
『こうしょう』:1(交渉力)
『こうかんど』:1(好感度)
『あい』 :1(愛)
『しんこう』 :1(信仰)
『ていこう』 :1(抵抗力)
『みぶん』 :じゆうみん(身分、自由民)
『すきる』 :なし(スキル)
『そのた』 :なし(その他)
『もちもの』 :ぬののふく、はんずぼん、かわのくつ、どくけし(1)、やくそう(1)
『おかね』 :480イェン
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※シュセンドはシステムウィンドウを買っていないため、自由にステータスは見れない。
※ちなみに道具袋と金貨袋が無いため、手で持てる分しかアイテムとお金は持ち歩けない。
◇◇◆◇◇
[8月1日 夕刻 コゼニ村]
千切れそうな程にぶんぶんと腕を振る、ほくほく顔のアイを尻目に道具屋を後にする。収穫は毒消しに薬草。ゲーム序盤の上限である20個まで買うつもりだったがたったの1個ずつ、両ポケットに収まるだけだった。おう、不作不作。
”現実的なアプローチ”ではズボンの腰紐部分に挟んだり、肌着の中の腹の部分に入れる事も出来そうだが、どうしても動きに支障が出そうだ。あとは両手に持って…せいぜい4個だろうか。ただ、戦闘や逃走を考えるとやはり無理な持ち歩きは可能な限り避けたい。
しかし…この世界に転生してからというもの、嬉しいという感情を忘れてしまったようだ。それ程に嬉しい事が起こっていない。憂いばっかりだ。
シュセンドは疲れて来ていた。予想より上を行くマイナスが多かったのである。最初は笑い飛ばせたが、毒のように全身に回り始めている。
”貧民”モードと比べて”大貧民”モードでのマイナスは大きい。簡単にまとめるとこうだ。
1.服装
”貧民”モード 初期アバター ギリギリ防御力あり
”大貧民”モード 全裸 ギリギリ人間
2.チュートリアル報酬
”貧民”モード 1000イェン
”大貧民”モード 500イェン
3.ステータス
”貧民”モード おおよそ3
”大貧民”モード おおよそ1
4.道具持ち運び数
”貧民”モード 20個
”大貧民”モード 2個(ポケットに入るだけ)
5.財布の容量
”貧民”モード 10000イェン
”大貧民”モード なし(ポケットに入るだけ)
もはや死んでる!もう俺のライフはゼロよ!
特に道具持ち運び数が痛すぎる。アイテムは資産であり、戦闘の生命線であり、消耗品でもある。
20個でも少ないのに2個。両ポケット埋まったら終わり。あほうめ。しかしゲームを現実に置き換えたら正しいのかもしれないね。20個も何処に入れるんだか。
こうなってしまえば、解決策は一つだろう。格差を埋める為にはとにかく稼ぐしかないのだ。
とぼとぼと<イノ一番亭>の前まで帰ってくる。今のシュセンドは相当渋いような、いじけたような顔をしているのではないだろうか。イノッチ母さんにそんな顔を見られるのも良い気分では無いのでどこかこそこそと宿屋に帰る…が…普通に受付にいるので避けれなかった。
『あら、お帰りシュセンド!友達は出来たかい?”審査”はどうだった!』
元気の良い声が飛んでくる。が、覇気なく返事をする事しか出来なかった。
「……はい…」
『あら…疲れてるみたいだね。はぁ…記憶が無い子んことは分からないからねぇ…よし、明日からは何も考えなくていいようにコキ使ってあげるからね!んふふふふ!』
どうやら、理由は勘違いしてくれたようだ。説明も出来ないし好都合だろう。
「…はい、ありがとうございます。明日からよろしくお願いします。」
『今日はもうお休み!3階の一番奥の部屋、下のベッドを使うといいよ。先に食事を作っとくからね!荷物を置いたら1階の食堂においで!』
「何から何まで、ありがとうございます…」
質素な部屋のベッドに荷物を置き、間取りは把握しきった宿屋の食堂を目指す。1人前の食事がカウンター席に置いてある。西日の落ちたカウンターに座ると綺麗に整った厨房が見えた。食事は…ご飯と焼き魚らしい。日本的だが、米には雑穀が入っていたし少し酸っぱいような味もした。ゲームの食事でも味はするんだな……
食事を終えると少し泣きそうになりながら、格子窓から空を眺めた。もう日が落ちようかという時間だったらしい。随分長い事考え事をしていたものだ。
食器を厨房に片付け、受付に戻りイノッチ母さんに一言お礼を言おうとすると、こちらに気づいたイノッチ母さんはそんなのいいんだよ、というように軽く手を振り、上の階を指差した。
ゆっくり休めということなのだろう。本当に女神…いや母親みたいだわ。泣きそう。
そのまま階段を登って3階へ上がることにした。そして部屋に入り、木のベッドを見つけると精神的に疲労が来ていたのだろう、いつの間にか夢の世界へと旅立っていた。
転生初日は軽い絶望感の中で眠るしか出来なかった。明日から本気だす。
◇◇◆◇◇
[8月15日 朝刻 6:00 コゼニ村]
それから、バイトが始まった。あっという間の2週間だった。
バイトは”MoA”のゲーム内では所謂チュートリアルミニゲームだったのだが、現実と同じく普通に働く必要が有った。
だが、イノッチ母さんに教わると、すぐに仕事を覚えることが出来た。モーニングコール、受付、洗濯、炊事、掃除、ベッドメイク、食事の配達、買い出しetc…コゼニ村唯一の宿屋であるイノ一番亭はそこそこに繁盛しているようだった。
前世では寝たきりだったのもあってか、イノッチ母さんと働くバイト生活はとても充実しており、シュセンドは初めてのバイトが楽しいと感じていた。その御蔭か、休みなく毎日働き、日給150イェンの給料はキッチリと払われ、13日×150イェンで締めて1950イェンを稼ぐ事が出来た。(イノッチ母さんは『好きな時に働いて好きな時に休みな、働き過ぎて死ぬんじゃないよ』とゲーム通りに声をかけてくれていたがそのまま働いた。)
この物価の安いコゼニ村ではそこそこの大金であるが、使い道はほとんど決まっている。ちなみにこのイェンは金貨袋がない為、シュセンドの半ズボンのポケットに常に納まっている。それと、このお金で相場が5イェンの内に毒消しと薬草を各9個ずつ購入した。相変わらず持ち歩きは2個までしか出来ないが、道具屋と宿屋を何往復もすれば宿屋のベッド付近に毒消しと薬草の山を作る迄にはなった。なお、道具屋のアイに不思議がられたが、何度か買い物に合わせて世間話をする内にだいぶ打ち解けられたので良しとしよう。
[1950イェンをてにいれた]
[どくけし×9をてにいれた]
[やくそう×9をてにいれた]
[▼90イェンをうしなった]
そうそう、400イェンで最低限の身なりも整えるんだった。
道具屋でマントと剣を買う事にしたら、今日は「薬草いらないの?」っと悪意ない笑顔でアイに聞かれたが、軽く流しておいた。皮のマントと銅の剣、それに半ズボンの代わりの皮の長ズボンを試着してみたら、マントが似合わなかったらしくアイが笑っていた。それに全て茶色の装備だ。
[かわのながずぼんをてにいれた](100イェン)
[かわのマントをてにいれた](100イェン)
[どうのつるぎをてにいれた](200イェン)
[▽はんずぼんをはずした](まもり+0)
[△かわのながずぼんをそうびした](まもり+1)
[△どうのつるぎをそうびした](こうげき+1)
[▼400イェンをうしなった]
上記は最低限の装備をしていないと護衛対象の村人としても扱ってくれない為、必須であった。
マントは、薬草と毒消しを包む為に使おうと決めた。重量が結構あるが、まぁ持ち歩きはできるようだしなんとかなるだろう。戦闘は護衛してもらえばいいし。
さて、準備は終わった。バイトをしつつイベントの開始を待とうか。
◇◇◆◇◇
バイトをしているうちに気づいた事が幾つかある。
一つ目、村の中ではダメージを受けない。一度、バイト中派手に階段から転げ落ちたが全く痛みがなかった(イノッチ母さんには相応に心配されたが)
おそらくゲームと同じ設定なのだろう。それだったら襲撃イベントなどで村にモンスターが入り込まない限り、死ぬ事は無くバイトを続けられそうだと思った。
しかし、アレで死んでいたらと思うと肝が冷える。ちなみにコンティニューは死亡時に買える…はずだ。死んだ事無いからわからんけども。初回こそ10イェンだが、二回目は1,000イェン、三回目は100,000イェン…と天文学的に増える。リフ・ジン。セーブとロードの購入も似たようなものではある。
二つ目、『たいりょく』の値の通りにしか体力が無い。バイトの初日は力仕事が多くおよそ1時間でへばってしまった。戦闘なら5分と持たないかもしれない…。(一応、力仕事以外に回してもらい8時間程度働いた)
とは言え、前世は病気で寝たきりでバイトもした事がない。その為、”元々体力が無い”という可能性も有ったが、それは違うと何故か明確に理解出来た、出来てしまった。そういえば、ステータスを調べる前に自分の年齢が15歳だと、”何故か明確に”理解出来てしまった事もあった。つまりはそういうことなのだろう。
しかし、ゲーム通りならミニゲーム以外に使わない死にステータスだった『たいりょく』に意味が出来てしまったのは正直なところ理不尽だ。育てるステータスが増えてしまう。うん、いつもの理不尽だ。他のステータスにも意味が出てきたと思うと検証は必要だが……保留。
三つ目、顔。アバター。鏡は高価な世界である為、自分の正確な顔も分からなかったが、勝手に前世の”カネヤン”の顔だと思いこんでいた。
しかし、ある日宿屋の風呂で顔を洗っていると、手桶の水鏡に映る自分の顔は、かつての”カネヤン”の顔とどこか違うと気付いた。元の”カネヤン”の顔よりも優しそうな雰囲気が見受けられ、よくよく眺めていると更に違いに気づく。その瞳はシュセンドの初期アバターである”黄金色の瞳”であった。
そこまで考えて「俺、シュセンドと混じってるわ」と結論が出た。まぁ元の顔より男前になっているようなので不満も無い。それにアバターはステータスには全く影響ありませんから。ある意味どうでも良い。
四つ目、この世界の文化や考え方はほとんど日本だと言うこと。人間の生活や感情のリアルさが、さらに日本を思い出させる。例えば、人型モンスターや知性を持った魔族はあっさり討伐するが、人を殺すのには忌避感があるらしい。さらに、裁判や警察と言うようなゲームではお飾りだったシステムもきちんと機能しているらしい。少しリアル過ぎではあるが、悪魔の作ったゲームの中に転生したのなら納得ではあるか。
五つ目、匂いや味、五感は現実と同じように働く。苦手な納豆が出てきた時に匂いの機能はいらないな、とも思ったものだった。
とまぁ、こんなところだ。この世界に慣れるごとにどんどんと現実としか思えなくなってきているなぁ。
◇◇◆◇◇
[8月15日 夕刻 16:00 コゼニ村]
さて、本日15日といえば、キチユシティへの”護衛イベント”のキーパーソンがやって来る。
一刻も早く会いたいが為に、今はイノッチ母さんに受付を変わってもらい、待ち構えている次第だ。
シュセンドがそわそわしていると、古ぼけたローブを目深に被った若い女性が現れた。見覚えのあるその姿からフードを外すと、二十歳前後の金髪セミロング、キリッとした顔立ちの美人が降臨した。胸当ての鉄?のようなものがローブの隙間からギラリと光る。__おっと、胸じゃなくてその下のペンダントがみたかっただけなんだけど…見えなかった。
その視線に気付かれる前に、シュセンドの方から金髪セミロングに話しかける。
「いらっしゃいませ、お客様。本日はお泊まりですか?」
『…あぁ、よろしく。』
「それでは、こちらの台帳にお名前を頂けますでしょうか?」
『…ユシア』
「…はい…ユシア様ですね。それでは…」
宿屋の説明をしながら、”MoA”で覚えている通りだと心のなかでほくそ笑む。
その女性、ユシア。
ユーシア=ド=ミリオネア。
シュセンドのキチユシティへの護衛であり、後の勇者の片割れである。
<今回の収支>
[おかね]
手持ち480イェン
収入1950イェン
支出490イェン
現在1940イェン
[もちもの]
ぬののふく、かわのくつ、はんずぼん、どくけし(1)、やくそう(1)
→ぬののふく、かわのくつ、かわのながずぼん、どうのつるぎ、(かわのまんと)、どくけし(10)、やくそう(10)
=ちょこっと世界観解説②= モンスター
〜級はその魔物前後の強さの指標です。
例)あのモンスター、ニケル級だ!
アルミン、アルミン級
1円玉の材質、アルミニウムを元に名前がついている雑魚モンスター
1円玉みたいなスライム。倒すと1イェン前後の金を落とす。
ブラス、ブラス級
5円玉の材質、真鍮を元に名前がついている初級モンスター
5円玉みたいなスライム。穴が開いて攻撃を回避することもある。倒すと5イェン前後落とす。
カッパー、カッパー級
10円玉の材質、銅を元に名前がついている中級モンスター
頭の皿が10円玉の色をしたカッパ。ダジャレかよ。倒すと(ry
ニケル、ニケル級
50円、100円の材質、白銅を元に名前がついている上級モンスター
100円玉の色をした人型スライム、モンス◯ー◯ァームのゲルみたいなキャラ。たおす(ry
ケブラ、ケブラ級
500円玉の材質、ニッケル黄銅を元に名前がついている超上級モンスター
500円玉の色をした人型スライムに凶悪な顔がついた。たお(ry
ビル級
紙幣を元に名前がついている伝説級モンスター。そのまんま。
このへんから定型は無い。た(ry
ワド級
札束(wad of bills)を元に名前がついている神話級モンスター。
様々な形を持ってるしつよい。つよすぎ。でも買える。(ry
※まだ上の階級あります。