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第3話 お金はステータス

露出狂疑惑を掛けられたが、何はともあれ”「イノ一番亭」 待遇改善ホワイトバイト大作戦”完遂だ。


心の中でやりきった喜びを噛み締めてみるとイノッチ母さんがまた話しかけてくる。


『さて、あんた…いや、もう他人じゃないんだ。シュセンドと呼ばせてもらうよ。アルバイトで働くとして…そうさね、明日から働いて貰おう。今日は”審査所”に行って、”審査”をしといで。ついでに街を見てくるといいさ。もしかしたら何か記憶が戻るかもしれないしね。そうだ、シュセンドに少し小遣いをやろう。余ったら好きに使えばいいよ!あぁ、”審査”については覚えてるかい?』


[500イェンをてにいれた!]


渡されたのは500イェン硬貨だった。ちっ、1000イェン札じゃないのは”大貧民インフェルノ”モードだからだろうか?

意匠はほとんど日本の500円硬貨だが、この世界の花であろう何かが描かれている。若干品質が悪いのはゲームの中という異世界だからだろうか。とはいえ最初に貰った大切なお金だ、大事にしたい。


「ありがとうございます、イノッチさん。”審査”、それなら…覚えています…」


『そうかい、ならとっとと行っといで。用事が済んだら戻って来るんだよ。』


”審査所”と”審査”。早い話が”ステータス屋”と”ステータスアップ”だ。また、就職出来る”職業ジョブ”も教えてくれる。

プレイヤーの間では通称<ステ屋>だ。


じゃあ、早速向かうとするか…イノッチ母さんに軽くお辞儀をして、宿屋からいそいそと出て行く。

日はまだ中天ぐらいだろうか、扉を開けるとまぶしい明かりが飛び込んできた。先ほどの騒ぎで出来た人だかりは影も形もない。


さて、記憶の上ではすぐ近くに<ステ屋>が有ったと思う。というかMAP上では宿屋のはす向かいだった。


有った。一瞬だった。


◇◇◆◇◇


<ステ屋>の扉はウエスタンバーの様な両開きの扉だ。僕が入る直前にスキンヘッドの屈強な冒険者が横から割り込んで来て、ギッギッと音を立てて飲み込んだ。


その後に続く様に中に入って行くと正面にカウンターが見えた。入って左右には酒場の様に情報交換出来る丸テーブルが幾つか並んだスペースも見える。中を見回してもスキンヘッド以外は人はいないようだ。小さい街なので仕方ないだろう。

カウンターは受付窓口が2つある。右側は赤毛のグラマーな美女。左側は赤毛の…マ◯オに似たヒゲ親父。

あっ、美女の方にスキンヘッドが座った。くそっ。スゴいくそぅ。

まぁいいや、ヒゲ親父のカウンター前の丸椅子に座る。


『よう、少年。”審査”か?』


ヒゲ親父にぶっきらぼうに一言だけ話しかけられる。ゲームの中ではほとんど美女の方に話しかけていたので初対面と言ってもいいレベルにキャラを知らないのだ。


「はい、お願いします。」

『それじゃ10イェンだ……よし、それじゃ490イェンのお返し。それとここにフルネームのサインか拇印ぼいんをついてくれ。』


500イェンを差し出すと490イェン(100イェンと50イェンと10イェンだった、ほとんど日本の硬貨と同じだな。)を返され半ズボンのポケットに入れる。さらに空欄だらけの羊皮紙と黒っぽいインク壺が渡される。そして右下のスペースにフルネームか拇印を付くように促された。空白の項目はゲーム通り、以下のようになっていた。


◇◇◆◇◇


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『なまえ』  :

『ねんれい』 :

『しゅぞく』 :


『いのち』  :(HP)

『せいしん』 :(MP)

『たいりょく』:(体力)

『じきゅう』 :(持久力)

『ちから』  :(攻撃力)

『まもり』  :(防御力)

『かしこさ』 :(魔法攻撃力)

『すばやさ』 :(素早さ)

『せっとく』 :(説得力)

『こうしょう』:(交渉力)

『こうかんど』:(好感度)

『あい』   :(愛)

『しんこう』 :(信仰)

『ていこう』 :(抵抗力)


『みぶん』  :

『すきる』  :

『そのた』  :


               (拇印orフルネームサインスペース)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


若干”システムウィンドウ”より情報は少ないが”仕様”だろう。

早速、インク壺からひんやりとする黒っぽいインクを親指につけ、拇印を付くと__羊皮紙が赤く光った。そして空欄がみるみるうちに埋まっていく。あ、そういえば全部日本語表記なんだなぁ。


そして…


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『なまえ』  :しゅせんど

『ねんれい』 :15さい

『しゅぞく』 :にんげん


『いのち』  :10(HP)

『せいしん』 :10(MP)

『たいりょく』:1(体力)

『じきゅう』 :1(持久力)

『ちから』  :1(攻撃力)

『まもり』  :1(防御力)

『かしこさ』 :1(魔法攻撃力)

『すばやさ』 :1(素早さ)

『せっとく』 :1(説得力)

『こうしょう』:1(交渉力)

『こうかんど』:1(好感度)

『あい』   :1(愛)

『しんこう』 :1(信仰)

『ていこう』 :1(抵抗力)


『みぶん』  :じゆうみん

『すきる』  :なし

『そのた』  :なし


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


理不尽。

いや、もうね。理不尽!

予想はしてはいた、いたけども。。。ステ理不尽!

理不尽オブ理不尽。


マイナスに目を向ければ『せっとく』、『こうしょう』と言う最重要パラメータが1。

それに次ぐ重要パラの『いのち』『せいしん』も10しかない。というかあとは1、1、1しかねぇ!


プラスは一点のみ。”貧民ヘル”モードで平然と付けられていた『そのた』の『ぜいきん』の『たいのう』という名の呪いが無いのは素直に嬉しい。おっと、一応、鉱山とかでの奴隷アルバイトスタートで無かったのもプラス…ではあるか。

『たいのう』が無いのは悪魔からの3ヶ月の税金免除の効果だろうか?


ため息が出るぞ。


◇◇◆◇◇


『おぅ、ちょっと見せてくれや!能力からお前に合う職業を…………ってお前、ものすごい虚弱体質だな!初めて見たぞこんな能力!アルミンにも勝てないんじゃねぇか!?』


ヒゲ親父が羊皮紙をシュセンドからひったくり大声になる。不思議+怪訝けげん驚嘆きょうたんをちょうどよくブレンドした顔で羊皮紙を眺めつつ目を丸くした。急に大きな声を聞いて右側で何やら話しこんでいた美女とスキンヘッドがピクッと反応した。

あと”アルミン”は所謂スライム的存在だ。表面張力で丸くなった水銀ぽいやつ。ちなみに1円玉の素材、アルミニウムから名前を取っているらしい。”バカみてぇな名前だ”と思ったやつ、巨人に喰われるといい。


ヒゲ親父がさらに独り言の様に言葉を続ける___『これじゃあどこで働けば……冒険者は絶対に無理だし…鉱山にしても『ちから』『たいりょく』が足りん………事務?うちみたいな?頭脳労働も『かしこさ』がまるで足りんぞ…にしてもまるで全てに見放されたようなこの能力、呪いが無いのが不思議なくらいだ……こりゃ神に嫌われてんな?いや悪魔に魅入られたというか……』


おいおい正解、悪魔の仕業だ。こんな場末のヒゲ親父に一発で見抜かれた。ヒッヒーハーハーハー


「…で、俺はどの職業なら…」


独り言を遮るように一言、声をかける。


『…こりゃ無理だ!!!お前は何もするな。多分、何をやっても即死する。』


ハロワに行ったら無職を勧められたでござるの巻。うるせぇ。”何をやっても即死”ってなんだ。


「そ、そうですか…なら俺はどうすれば__」

『知らん。職務の範囲外だ。』


しかも冷たい対応。そこで食い気味にくるな。これはあれか?『こうかんど』も1だからか?そうなのか?そうなんだな。きっと。うん。今の俺の顔を客観的に見たら苦虫を噛み潰した後で苦瓜も噛んだような顔を浮かべているだろう。


『…まぁ、とにかく能力開発するか?『いのち』『せいしん』は100まで1ポイント/10イェン、それ以外の各能力値は10までは1ポイント/100イェンだぞ?』


ステータスを上げるか?と聞かれるが、答えは決まっている。


「いえ、お断りします。ありがとうございました。」


ここは当然だ。上げるのはいつでも出来るしそれ以外の街イベントをこなしてからだろう。元手__イェンが必要なイベントは多岐に渡り存在しているのにその元手を削るのは愚の骨頂だ。


◇◇◆◇◇


そういって<ステ屋>を後にする。衝撃的なステータスだったが、全然問題は無い。むしろやり甲斐が出来たという楽しみな感情だけである。


そして、いくつか計算が狂って来てはいるが無手から稼ぐ手段は幾つも有る。俺はこのゲームの隅から隅まで知り尽くした”カネヤン”__いや”シュセンド=ワイロマン”だ。


そう考えると闘志に炎が__いや、”投資”に炎が入る。


最初はただ、このゲームの中で暮らせればいいと思った。


でも一つ目標を立てることにした。


この理不尽だらけの愛すべきゲーム。


このゲームをやりこみたい。ゲームを遊び尽くしたい。そして全力を出してもなお届かず、ゲームに弄ばれたい。


歪んだ愛情だろう。だが、それが面白い。


そうして俺は、このゲームのあらゆる理不尽を札束でぶん殴ることにした。

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