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第10話 銀と魔銀と盗掘勇者

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『なまえ』  :しゅせんど

『ねんれい』 :15さい

『しゅぞく』 :にんげん


『いのち』  :20

『せいしん』 :20

『たいりょく』:3

『じきゅう』 :1

『ちから』  :1+1(どうのつるぎ)

『まもり』  :1+2(かわのながずぼん、かわのまんと)

『かしこさ』 :1

『すばやさ』 :1

『せっとく』 :2

『こうしょう』:2

『こうかんど』:1

『あい』   :1

『しんこう』 :1

『ていこう』 :1


『みぶん』  :じゆうみん

『すきる』  :なし

『そのた』  :なし


『もちもの』 :ぬののふく、ぬののぱんつ、かわのながずぼん、どうのつるぎ、かわのまんと

『おかね』  :340イェン


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


※ちなみに道具袋と金貨袋が無いため、手で持てる分しかアイテムとお金は持ち歩けない。


◇◆◇


[8月22日 夕刻 17:30 ドサ銀山内部 坑道C]


シュセンドとユシアはドサ銀山の隠し部屋を目指し、集会所を出発していた。

鉱夫達が進むのとは違う銀山の坑道はモンスターの不安が大きい。

しかも、本来なら中盤のイベントである”銀龍の復活”と”イッシの独白”の際に訪れる場所だ。まぁ、その際にドサ銀山から多数のモンスターが湧き出すので起こさせたくないイベントでは有る。


シュセンドの不安を反映するように、壁に掛けられた等間隔の松明が怪しく揺らめく。少し銀を含んでいるのか、ゴツゴツとした壁は時折ぎろりと光ることもある。道の中央のトロッコのレールには崩落の後だろうか、レールや枕木のヒビ割れや岩盤が落ち痛んでいる箇所も多い。魔物の襲撃後からはまだほとんど手付かずの坑道らしい。こちらには要救助者はいなかったのだろうか。


『シュセンドは何者?』


「…ユシアさん、何も聞かないはずでは?とにかく、説明は報酬の後ですね!」


急に話しかけられた。想定外だ…顔と声色でおどけてみせて、なるべく明るく対応するがごまかせそうにもない。

その表情からは読めないが、相当に欺瞞ぎまんの種を植え付けてしまったのだろう。


『そういうのは、いい。全てを知ったところで話す相手はシュセンド以外いない。』


寂しい女子だ。いや、半分ジョークだが…


「……そうですか。でも、やっぱりこれが終わった後です。」


すべてを話せば、あるいはお金で、ユシアは”理不尽を札束でぶん殴る”ことに協力してくれるかもしれない。しかし、ユシアにはユシアの事情があるのもゲーム知識から知っているし、イベントの前倒しやぶっ壊しなんて言う事をしている今、なるべく危険に踏み込ませさせたくないというのも事実だ。


また、お金で釣ればいつお金で裏切られるかという不安も大きい。ゲームの中のユシアは十数年前から知っているが、本人とは2,3日前に出会ったばかりなのでまだ信じきれてはいないのだ。実際、会話の大半はお金の事だし。


総じて、本当に半分半分だ。

背中を預けられる協力者が欲しい気持ち。

裏切られると立ち直れないだろうという気持ち。


心を読まれたように、早歩きで隣を進むユシアの金髪セミロングが少し項垂うなだれる。


『…わかった。』


「すいません…ありがとうございます。」


『後で絶対話して』


「……」


それ以降、ユシアからの追求は無かった。騙している訳では無いが、シュセンドの心には罪悪感が強く残った。


◇◆◇


しばらく進んだところ、10畳ぐらいの広間でアルミンが数体うねうねしていた。どうやら、まだ敵の強さは序盤レベルらしい。ここは理不尽じゃなくて良かった。さらに僥倖、シュセンドの二戦目は因縁のリベンジマッチである。最弱モンスターにリベンジとか悲しくなってくるけど!と自虐。


『手前の一匹、行ける?』


「もちろんです!」


ユシアへの罪悪感を振り払うように、強い気持ちで剣を構える。ユシアとの朝練もしたし、革のマントも装備したし、前ほどの不安は無い。ちなみにではあるが初戦が終わった後、瀕死のシュセンドはユシアの治療魔法(光系統の”生の鼓動(ヒールコール)”だろう。見てないから知らないが。)で治療して貰っていた。ゲームのチュートリアル初戦もそんな感じだったし、ぶっちゃけ助けて貰えそう。なので、薬草を持っていないこともそこまで不安は無い。


シュセンドの二戦目__決着は一瞬だった。コッソリと近寄り、勇ましく両手で銅の剣をアルミンに振り下ろすと、そのアルミ色の体は二つに分かれて溶けるように石の転がる地面に吸い込まれていった。当たれば倒せるレベルだったらしい。剣を退かすと、その下には淡く輝く1イェンが落ちていたのが見えた。アルミンは体内で石から核を作る性質があり、その核が1イェンだ。通貨として、すぐに使えるだろう。(超攻略本(アルティマニア)説明(フレーバー)テキストに書いてあった)


調子に乗って二匹目を倒そうとあたりを見回したところで背中の中心に一撃を貰った。アルミンの突進だったらしく、肺を押され苦しくなり、息を大きく吐き出す。ユシアとの早朝練のおかげか、革のマントのおかげか、倒れずに済んだシュセンドがはちゃめちゃに振るった剣に手応えが有り背中側のアルミンをほふったようだった。こちらも1イェンを落としたらしく、ちゃりんと音がした。

ユシアは横目でこちらを見ていただけで、何も言わず、残ったアルミンを掃討していた。


ドタバタとした初勝利である。小さくガッツポーズをしたところを見られていたのか、ユシアの口元が綻んでいた気がした。

背中がまだ痛む。ダメージを受けたようだが数値が分からない。今回の報酬でシステムウィンドウとスキルが買いたいな、と思った。


[▲2イェンをてにいれた]

[⁇⁇のダメージ]


◇◆◇


[8月22日 夕刻 18:30 ドサ銀山内部 坑道C]


奥に進み、分岐路を幾つか進んだところで行き止まりが見えて来る。

ここはそんなに長い坑道で無く、分岐を増やして銀の鉱脈の流れを見るだけの坑道だ。行き止まりは基本的には鉱脈が見つからず打ち捨てられた場所や、硬い岩盤の多い場所なので鉱夫は寄り付かない。鉱夫は自分の掘り当てた鉱脈は自由に出来るので、より可能性の高い場所を掘り進める生き物だからだ。


そんなところに足しげく通うのは若い鉱夫のイッシぐらいのもので、”岩盤掘りのイッシ”と呼ばれている____こんな立派な隠し部屋があるのも誰も知らずにね。


シュセンドはあっさりと行き止まりの壁を壊す事が出来た。”MoAマネーオブオールマイティ”の中では、イベントが始まらないと調べても[なにもみつからない]のにね。何だかおかしいね。


壁、と言っても実際はハリボテだ。どこからかくすねてきたのだろうか薄い板材と枕木を組み上げ板壁にして、その正面に石を砕いた粉で色付け、隙間を本物の石で埋めてある。遠目には只の岩盤にぶち当たって出来た行き止まりだ。良くバレなかったかと思うが、他人の広げた坑道や鉱脈に手を付けない鉱夫達のルールのおかげかも知れないし、ゲームの諸事情かもしれない。


壁の先にはイッシの隠し部屋だ。銅の剣を何度か壁に打ち付けると穴が空いていた。そして、そこから漏れていた光は松明の光を反射した銀塊である。イッシは魔法で銀や鉄を精錬する事が出来、その力は他の鉱夫全員に隠している。この部屋もその能力の応用で作ったのだろうか、壁も只の岩壁とは違い少しつるりとしていて怪しく輝く。


そして___引越し用トラックの荷台のような細長い部屋の一番奥に、シュセンドの背丈より大きい山になって大量の銀が積み上げられていた。どうやら、半分は鉱石のままだが、半分はインゴットまで精製されているようだ。”MoAマネーオブオールマイティ”の世界では銀は相場が50イェン/1グラムで取引されている。およそではあるが現実での額と同等である。これだけの山なら数100キログラムはありそうだ。何処から運んで来たのやら。そう言えば…と思い銀の山の上を見上げる。人一人通れそうな穴が有り、その穴は別の坑道に続いている。別の坑道からこの穴に銀を投げ込めば山の上に落ちてくるという設定だったかな、うん。


さらによく調べると、インゴットは様々なサイズがあるが、100グラム、1キログラム、10キログラムと刻印が打ち、きちんと並べてある。イッシはマメな男のようだが、今回の事態を引き起こすのを見た限り頭が良いとは言えないのかもしれない。これだけの銀を隠しているのも含めて”ある意味大物”だ。


さて、シュセンドとユシアはどうしたかと言うと、銀の山が目に入った瞬間、どちらからともなく、「おぉ…」と声を出し驚いた。ユシアは『今、銀の相場は…』なんて自分のものになった感覚で計算している。シュセンドはたしなめることも無く、銀の山を漁り始めた。想定の通りなら良いものがここには有るはずなのだ。


見た目には全て同じ銀の鉱石を少しずつかき分け、り分けお目当ての品を探す。すると、一目では只の精錬前の銀鉱石としか見えない鉱石を光にかざし___一言。


「見つけた___魔銀ミスリル


ユシアもそれを聞いて、インゴットを掻き集める手を止める。こらこら、そんなに道具袋に入らないでしょ。


『…分かるの?』


「ほら、見てください。こっちの銀鉱石は松明の光でも鈍く光るだけ。魔銀ミスリルは……光の中に虹の虹彩こうさいが見えませんか?」


『…分かるわけが無い。銀鉱石すら初めて見た。シュセンドは何で分かるの?』


言われて見れば当然だ。シュセンドは超攻略本アルティマニアで細かい設定や図解で全て知っているのであって、魔銀はかなり貴重だ。ましてや魔銀鉱石を見たことなんて熟練の鍛冶屋か鉱夫ぐらいのものであろう。シュセンドは魔銀の作り方やゲーム内での入手場所を事細かに覚えている為、貴重だと言う意識が相当薄いようだ。手の平の上の拳よりも小さい魔銀ミスリル鉱石は銀のおよそ5倍の値で売れる。もうけ。


「……普通の冒険者は知ってるもんですよ??」


『真昼間に裸でコゼニ村の中心に現れる冒険者は、”ふつうのぼうけんしゃ”なの?』


なぜそれを。イノッチ母さん、バラすのは勘弁しとくれ…


「とにかく、これも合わせて後で話します。」


『長い話になりそう。時給100イェンで。』


嫌味も言われた。


「と、とにかく、ここの銀インゴットと魔銀ミスリル鉱石を持てるだけ持って帰りましょう。」


『いいの?』


「ええ、ここのはイベン…じゃなかった、ある事件で全て無くなってしまいますし、僕がいなかったら見つかって無いはず。置いといてもイッシさんの私腹が肥えるだけ。手に持てる分ならドサ銀山には微々たる損失だろうし、貰っちゃいましょ。それに、世の中には人の家のタンスから宝を奪う勇者もいるし!」


『そんな勇者、見た事無い。』


俺もゲームの中だけしか知らない。ここもゲームの中だしいいだろう。謎理論で自分を納得させる。


「さて、ここの場所をインディンジ◯ーンズに説明して…」なんて独り言を喋りつつ、魔銀ミスリル鉱石を漁る。しばらく漁ると、銀鉱石の山から3つ見つけたが1つはユシアにあげる事にした。報酬の先払いと言うか口止め料代わりだ。


「ユシアさん、銀インゴットは道具袋の中に隠して持っていて貰えませんか?」


『山分けで無くて6:4でいいなら』


「それぐらいなら当然ですよ。道具袋を持ってない僕が悪いんで」


道具袋に銀インゴットを詰めて貰い、魔銀ミスリル鉱石はシュセンドのポケットに2つ、残り一つはユシアの道具袋に納まった。銀インゴットは後で揉めないよう、分け易い10キログラム(10,000グラム、およそ500,000イェンで売却可)を持ち帰る事にした。道具袋はレアアルミンの皮で出来ており、伸縮し破れ辛い。が、これ以上は敗れる不安があるし、戦闘の支障になってしまう。これでもかなり稼げるし序盤では億万長者レベルだ。ようやく、札束が見れそうだ。


俺もこのお金で良い道具袋と硬貨袋を買おう。そう思い立ち上がると魔銀ミスリル鉱石と小銭が同居したポケットが、そうしようと言う主張のようにうるさくちゃりちゃりと音を立てた。


[▲ミスリルこうせきを2つてにいれた]


さて、救助班のインディンさん達も気になる。盗賊まがいの行為はここまでにして、急ぎ集会所に帰ろう。


◇◆◇


[8月22日 夜刻 21:00 ドサ銀山 集会所]


坑道の帰りの道は何も現れず、平和だった。平和すぎる。確かゲームの中では3歩歩く度にエンカウントしてた気がするけど。

集会所は明かりが点いていたが、誰がいるのかは覗いていないので分からない。それより、ユシアと話してインゴットと魔銀ミスリル鉱石を一度、砦の外に目印を付け埋める事とした。なるべく隠し通した方がいいだろう。怪我人達が眠る広場の外をこそこそと通り抜けたが、寝入っている人が多いのか穴の空いた砦の壁から出るときも誰にも見つかってないと思う。


魔銀ミスリルをパクったことには少し良心が痛むのだが、薬草も毒消しも渡したし出来る事はもう無い。まさか、無給でユシアに生の鼓動(ヒールコール)を怪我人に使いまくってくれとも言えないし。


砦から少し離れた木の下へインゴットと鉱石を埋める。そこまで時間はかからなかった。折れた矢が周辺に落ちていたので、それを数本地面に刺し目印とした。


そして、集会所へととって返す。集会所の方向に歩いて行くと、先ほどの静けさと打って変わってガヤガヤと数十人が集会所前に詰め掛けているのが見えてきた。どうやら、救助班のインディンさん達も帰って来たらしい。


数人の鉱夫や事務の女性が「担架たんかはまだか!」「薬草の予備を早く!」「なんでこんな事に……」と口々に言いながら集会所の扉へ駆け込んで行く。シュセンドとユシアは早足でその囲みを抜け、中に入ろうとするが、詰め掛けた人が邪魔で身動きが取れなくなってしまった。


そこで、誰かが一際大きく声を張り上げた!


「シュセンドさんにユシアさんだったか!中に入ってくんねぇか!おい、みんな!特に野次馬は少し道開けろ!見せもんじゃねぇんだ!」


声の上がった先を見ると、救助に向かった鉱夫の…ガラッパだったか、煤けたタンクトップとヘルメットの気の良さそうな細目のおっさんが怒りをむき出しにしていた。


「あ、ありがとうございます」


人の良さそうな顔から怒りへの豹変を目にして、タジタジになりつつもその大きい背中について行く。いつの間にか扉前はすっきりとしており、何も出来ない人は輪を広げそこを遠巻きに眺めるだけだった。


集会所の中に入ると、6人の男が長椅子に担架ごと投げ出され、それを看病する人や薬が慌ただしく行き交い言葉を交わす。その寝ている内の1人にガラッパが話しかけると、上体を起こしこちらを見る。顔に真新しいタオルが掛けられていた為、そのタオルが落ちるまでは分からなかった顔があらわになる。


__一瞬、顔が分からなかった___よく見ればその人は紛れもなくインディンだった。顔は血と泥にまみれ、赤黒くなっていた為に顔が分からなくなっていたのだ__


カラカラに乾ききって張り付いているのか、唇の上下が重そうに動きどうにか言葉を発する。



「情報は正確だった。恩に着る。ロック、ガンジ、イッシは無事だ。だが……救助隊の中から4人死んだ。」



乾いた唇からは無機質で無慈悲な”情報”が溢れた。



【収支】

[もちもの]

ぬののふく、ぬののぱんつ、かわのながずぼん、どうのつるぎ、かわのまんと

→ぬののふく、ぬののぱんつ、かわのながずぼん、どうのつるぎ、かわのまんと、ミスリルこうせき(2ヶ)


ちょこっと世界観解説④ 鋼材と用途と価格


銅    5イェン/1グラム

主な用途は武具、硬貨。


鉄   10イェン/1グラム  

主な用途は武具。


銀   50イェン/1グラム

主な用途は武具、魔物の食料、魔物の触媒や魔力触媒。


魔銀ミスリル  250イェン/1グラム

主な用途は武具、魔力触媒、魔法具の核。


金   500イェン/1グラム

主な用途は装飾品、魔力触媒、合金。(銀の上位互換)

柔らかい為、武具には向かない。


魔金ヒヒイロカネ 時価、人間世界では出回った事はほとんど無し。

主な用途は最高級の装飾品、武具、魔力触媒。


※合金は様々ありますが、現実と同様に存在すると考えて下さい。硬貨の合金や製造方法は、基本的に誰も知りません。

※アルミはボーキサイトが存在しますが、柔らかくて武具にならない為、あまり採掘も研究も進んでいないです。基本は流通も開拓もされていません。

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