プロローグ 死んだ!お金がない!服もない!
イェン=円です。
閲覧ありがとうございます。
死んだ。
俺は死んだ。
とにかく死んだ。
死んだったら死んだのだ。
珍しい病気にかかり、18歳の夏に死んだ。
病気故に引きこもりがちで、ゲームとパソコンと漫画と映画と動画に捧げた人生だった。
我が生涯、一杯の悔いあり!__…なんてね。
病気の話を話して同情して貰うつもりもないしそこは割愛させてもらう。
なんで死んだってわかるかって?その直前に”そろそろだよ”って分かってしまう。死を悟るとか虫の知らせってこういうことなんだろう。とにかく死んだのだ。
あ〜あ、死んだはずなのに一杯考え事出来るなぁ。
ここって地獄なのかなぁ。天国なのかなぁ。
生まれ変わるまで長いのかなぁ。一生…いや死んでるから一生ではないけどこのままなのかなぁ。
どうしよっかなぁ…動いたりできないのかなぁ…
「えぇっと…”カネヤン”さん、”カネヤン”さん。」
おどろいた。なんだろう。
「”カネヤン”さん、少しお話が有りまして…」
話しかけて来てる。誰だろう。もしかして、神様かな?それとも閻魔大王?
「当たらずしも遠からずです、ハイ。」
そうなの?じゃあ誰だろう。っていうか会話出来て__
「ハイ、話せます。良い取引は良いお話から。商売の一歩目です、ハイ。」
そういうと、俺の意識の中にヌッと人が現れた。おかしな話だけどそういうしかない。
目を瞑るとぼうっと白い光が見えるでしょ?それにはっきり色がついてちゃんと見えてるって感じ。
驚いたけども、悪意は感じない。それに、どこかで見たことあるような…
「”カネヤン”さん、私、悪魔なんです。」
プレゼンの最初はサプライズで興味を引くことだとネットで見たことがある。びっくりしたからこのプレゼンは大成功だ。
何せ、その人が悪魔には見えなかった。
顔は、イケメンよりの普通顔。誰に聞いても『70点の顔』って感じ。それに、一見すると若いのか歳なのか年齢不詳だが、人の良さそうな笑顔を浮かべており好感が持てる。
身なりは、綺麗に整えられた民族衣装_アラビア風かな?の上にベストを羽織ってる。でも、茶色いブーツと山高帽はちょっと合ってないなぁ。
あと、道具袋見たいなのを肩に担いでる。前からじゃよく見えない。
総合的に◯ィズニーのアラ◯ンが現代ファッションに目覚めた!見たいな感じだね。
やっぱり悪魔には見えない。ん〜やっぱ見たことあるんだよなぁ…
「ハイ、ハイ、色々とプラスに評価して下さり感謝致します。早速ですが本題に参っても宜しいでしょうか?」
あ、そうか全部伝わっちゃうのか…どうぞ。
「ありがとうございます。それでは…”カネヤン”さんは”マネー・オブ・オールマイティ”ってご存知ですよね?」
お〜知ってる知ってる!あの懐かしいゲームね!1999年にプレスピで発売されたやつ!めちゃくちゃやりこんだんだよアレ!キャッチコピーが『全てをカネで買うRPG!!』だっけ!いやー本当に面白くてね、ただシステムとか隠しステータスとかバグを含めた出来ることが異常に多くて理不尽ゲー扱いされて、『アルティマニア(攻略本)が取説』なんて言われてクソゲー扱いされてもったいなかったんだよ!いや俺も最初は理不尽ゲーだ!ってそう思ったよ、でも我慢してやってるうちにシステム理解したらどハマりしちゃって、解析して攻略サイトとか作って、バグ解析とか裏ワザとかも__
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=Money of Almighty(マネーオブオールマイティ、通称MoA)= とは〜
1999年7月に第三世代ハードPlay Speed(通称プレスピ)にて発売されたゲーム。ジャンルは『全てをカネで買うRPG』メーカーはアクマコーボー
ストーリーや展開など基本的にはお約束通りの一人用RPGであるが、特筆すべき点はそのシステムである。
当時は画期的であったその名も『金食い虫システム《カネクイムシステム》』
装備や呪文の購入はもちろんの事、パーティメンバー・傭兵の勧誘、各種パラメーターの上昇や持ち物袋の増加、モンスターとの戦闘や逃走判定、イベントの解決、街の人の好感度上昇、その他諸々ほとんど全部___がゲーム内通貨:イェンを支払うことで解決出来る。(というかそれ以外はほとんど通用しない。)
さらにさらに、イェンが大量に必要だがイベント限定キャラをパーティに常備したり、街を買い取り発展させたり、モンスターを種族買いし崇められることも出来る。
つまりRPGだけにとどまらず、育成・経営・創造神プレイなど多岐に渡り楽しめるゲームとなる!
__はずだったのだが。
このシステム、致命的な問題点を抱えていた。
そう、『本当に全てをカネで買うことが出来てしまうRPG』となっていたのだ。
そのせいで理不尽が多く、全てのバランスやストーリーがぶち壊しなのである。
具体例を挙げると
・死んだはずの重要NPCの死を買い取ると平然と復活しストーリーに関わってきたり、一生進まなくなる。
・国王や王女、国そのものを買い取れるが、国家反逆罪で金を搾り取られた挙句死ぬ。
・そもそも、ラスボスが買い取れる。それどころかエンディングですら買える。
そして一番致命的なのは
・セーブにもコンティニューにもイェンがかかり、回数毎に天文学的に増額される。
つまり、最終的にはゲームのセーブ及び再スタートが不可になる…というものだった。
そんな”マネーオブオールマイティ”に世間が下した評価は『時代を先取りし過ぎたクソゲー』であり、近年バカゲーあるいはネタゲーとして実況動画などで見直されるまでは埋もれていたのであった。。。
一部の狂信的なファンを除いて…
〜”カネヤン”の脳内情報 kanepedia〜より
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と熱く語った所で自称悪魔が話し掛けてくる。若干引いてる見たいだけど笑顔は崩れていない。
「あ、あの…”カネヤン”さま…興奮なさらずに。」
…あ、ご、ごめん。ゲームの話題になると熱くなっちゃって…ってかその喋り方とか服装とかって…MoAの助っ人商人ロンダリンじゃん!!そっくりじゃん!!!
「お気づきになられましたか、さすが”カネヤン”さま。”MoA”を隅々まで知られているお方!」
そりゃ縛りプレイも最強厨もやり尽くしたしね!しかし、うわぁー本人そのものじゃん!完成度高ッ!え、それ服とかどこで…
と、また熱く語りそうになった所で悪魔もといロンダリンが語りかけてくる。
「実はあのゲーム…私が作ったんです!そして、死んでしまった”カネヤン”さんには”MoA”の中に魂が転生する権利を差し上げたいと考えております。」
あんたがあのゲームの製作者!あの”悪魔的な”プログラムはそういうこと…いや、納得した。納得しました!
んで…げ、ゲームの世界で暮らせるってこと!?行く!行かせて下さい!ロンダリンさま!
「す、少し落ち着いて下さい。取引と言ったじゃないですかっ。」
あまりの”カネヤン”の剣幕にタジタジのロンダリン。
そ、そうか…んで、何をしたらMoAの世界で暮らせるんだよ!
「簡単です。条件を三つ。」
早く教えてくれ!
「一つ目。『ぜいきん(税金)』を私に収めて頂きます。それは一ヶ月前の収入の二割、端数切り捨てです。ゲームのシステム通りなのでおなじみですね。最初の三ヶ月は大変なので不要としますが」
あぁ、あのしちめんどくさい『ぜいきん』システムか。最初はいつもの理不尽でプレーヤーに負担かけるだけかと思ったけど、あれのおかげで以外と節約が身につくからいいシステムだったな〜。国やギルドに所属して無くても勝手に引かれるからおかしくね?とは思ってたけど。
「システム愛も感じられますね。さすが”カネヤン”さま。
二つ目。ゲームの設定ですが、”貧民”モードの上を行く”大貧民”モードでのスタートとなります。さらにイベント関連は全て新規、バグに関してはほとんどが取り除かれています。この結果、フリーズ等が発生する事は無くなりました。なので今までは買えなかった無茶なものを買っていただいて構いませんよ。」
望むところじゃん!”大貧民”モードは初めて聞くけど…まぁゲームシステムを知り尽くしていれば解決ですよ!イベントは新規の方が楽しめるし…バグは…マイナスの方が多かったからな。
んで、国とかの地雷物件が買えるようになると。
「三つ目。もっとも大事な事ですが、コンティニュー不可時に魂の天国行きの権利を頂きます。」
……え?それはちょっと…なんかいやだな…やっぱ考え直そうかな…チラッチラッ
「あ〜そうですよね…やはり良いです。三つ目は撤廃します。そのかわり、コンティニュー不可となり天国に行った場合、あなたの記憶とアバターは返して頂きます。魂は天国に行きます。」
……なるほど、ロンダリンのいつものやり方ね。困難な要求をちらつかせて簡単な要求を飲ませる。いいよ、ゲーム内の性格通りで気に入ったし、その通りで。
「では、その様に。ゲーム内のロンダリンは、私の生き写しでございます。」
そうなんだ。そんな気はしてたけど。
「ではこちらの契約書にサインを。とは言え、悪魔の契約書は信じられないでしょう。どんな裏があるかわかりませんからね。そこで真の名前である”カネヤン”でサインするのでは無く、”ゲーム内の名前”を決めて頂きサインして頂く、というのでいかかでしょうか?」
ロンダリンの姿で羊皮紙?みたいな皮に書かれた契約書を手際よく掲げてくる。
読んだけどさ…それって効果あるの?偽名じゃん。結局踏み倒されるんじゃ…
「さすが”カネヤン”さま。その可能性もありますが…そうですね…悪魔が宣誓とはおかしいですが、この姿と”助っ人商人ロンダリン”の名にかけて契約の遵守を誓いましょう」
そういうと、ロンダリンは羊皮紙を丸めて両手で持ち、胸の前に掲げ自分の心臓に杭をさすような動作と真剣な顔をした。おそらく、『悪魔の誓い』のようなものだろう。キリスト教の十字を切るみたいなもんだ。
…MoAのシステムには何度も煮え湯を飲まされてきたけど、ロンダリンはいつもプレーヤーの味方だったからね。あなたを信じます。そんで、天国なんて見た事ない場所より勝手知ったる『MoA』の世界に行くよ。こちらこそ、お願いします。
そういうと契約書が赤く光った__ような気がした。
「承知しました。”ゲーム内の名前”はいかがしますか?」
決まってます。シュセンド=ワイロマン。
さらに契約書が赤く光った__ような気がした。
「”シュセンド=ワイロマン” ゲームでのデフォルトネームですね。素晴らしい選択かと思います。」
そしてロンダリンと真剣な顔でしばらく見つめ合い(目がないけど)__お互いニコリと笑った。(口もない)
「取引の契約、誠に感謝致します。有意義な転生となりますように。」
あぁ、ありがとうございます。そういえば、何で”MoA”を作ったんですか?
「……理由は色々ありますが…”ゲームが好きだから”が一番です。しかし、出来は散々でしたけどね。」
そんなことはないです。”MoA”は転生前の自分の人生でした。
「ありがとうございます。そのありがたい言葉に商人として一つサービスを。百万イェン溜まった時、私は一度だけあなたのもとを訪れます。」
こちらこそありがとうございます。またすぐに会いましょう。
「しばしお別れですね。それではスタート地点のコゼニ村へお送りします。」
目の前に立つ人のいい悪魔_いや、助っ人商人ロンダリンにまだ伝えたいことはあったが、それはまたの機会になりそうだ。
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コゼニ村。
”MoA”旅のスタート地点であり、全てのものが五百イェン以内で買える。四十〜五十軒の家が並び立つだけの小さな宿場村である。
時刻は12時ちょうど。時を知らせる鐘をならすものが、中央の高台からあくび混じりに大通りの宿屋前を見渡すと__一人の◯ーミネーター座りの変態が降臨していた。
15歳の男性、シュセンド=ワイロマンの伝説の幕開けであった。
「お金がない!いや服もない!」