宝物5 太陽は紅く紅く過去を思い返させる
暗闇に慣れた目にはその明かりは強すぎました。
何十年もの間、この黒く湿ったダンジョンにて生きてきたのです。
魔素で構成されている魔物には寿命という概念はほとんどございません。そのため暇と思う気持ちもそれほど強くは無いのです。
けれどダンジョンの外は見たことも無いものしか無いでしょう。
つまりこれからは常に心を踊らせて生きていくのです。
我が主、ミミックのミキ様はスコラピオンという魔物に《擬態》してこのダンジョン“ビシエラ”から偉大なる一歩を踏み出しました。
『うぐっぅ──』
『ミキ様!? ぐっ──』
黒き雲が黒く黒くなだらかに動き、大地は焦げるように赤茶け、葉の黒い木々が生える。
魔王様の所持品であった時とは異なり景色が一変していました。
しかし、その光景を目におさめられたのは一瞬。
天上に高く浮かぶ太陽が紅く、血飛沫をあげるようにワタクシたちを照らす。
その太陽を目に入れた直後、軋むように痛みが身を貫き意識が吹き飛ぶ。
ワタクシを包むアマゾナイトシリカがその色を反射するように赤く染まる。
◇◇
長年使ってきた道場の床板が悲鳴をあげるように軋む。
『でぇりゃあああぁぁぁ!!』
『──甘い』
長い黒髪を一束に纏め、端整な顔をキツく引き締めながら腹の底から声を出す美少女。
その姿は同じ学校に通うものなら知らない人はいない有名人である。
その美少女に対するは老獪な眼光を持つ初老の男性。
その身のこなしは限り無く無駄を削ぎ落とされた、美しくも力強い動き。
少女の右正拳を受け流しつつ掌底を腹部に添える。
それだけで少女の動きが完全に止まってしまう。
『…う、りぇあ!』
少女は必死に身を捩って男の間合いから離れ、瞬時に反撃に転じる。
放ったのは回転蹴り。
それさえも男にとっては予測された行動。
足先を何でもないかのように左手で柔らかく掴む。そしてまたしても動きを封じられる。
本来なら浮いた軸を払うのだがチャンスを与えるように、そっと手を放す。
『終わりではございませんね?』
『…ええ。まだやるわ』
それからもまた汗を飛び散らせながら少女が男に攻撃を仕掛ける。
しかしどれもこれも払われ受け流される。余裕を持って楽に見えるくらいに、男は涼しい顔をしていた。
『─フム、上達なされましたな』
けれども男は誠意を持って少女に声をかける。しかし、少女にはその声に答える気力を割くことはできない。
この一瞬を待っていたのだ。
自らの残りすべてを一撃に込める。
最も練習し無駄を省いた右正拳を。
『──ハッ!!』
『ぬ!?』
男は咄嗟の回避を行うが、それをするには些か遅かった。
口から洩れた呼気すらも断ち切る一撃。
『ぐっ』
少女の拳はしっかりと男の胸を捉えていた。男の口から押し出された空気が声を出す。
が、既に少女は限界だった。
力強く握られた拳から力が抜け、膝から崩れる。
けれど、少女は足を踏み出して立つ。ここで崩れ落ちてしまっては意味が無いとでも言うかのように。
『よく一撃を入れられましたな、お嬢』
『ウチはやったんやな?』
『はい。流真古武術をよくぞ修得なされました。壱の正拳は完璧でございました』
フフッと嬉しそうに笑みをこぼす少女。
それを見て、男も渋い顔の目尻を下げて嬉しさを表す。
言葉使いからも分かるように男は少女の家族に仕えている。
関西圏に住むその家族は古くから日本を支えてきた由緒ある家庭である。
『それにしても疲れたわ、ウチもう手上がらんで。座ってもええか?』
『はい、それでは水をお持ちいたしましょう』
バタンと全身を放り出して道場に寝そべる少女。言葉で出した 座る など微塵も考えていない。
男は少しため息を付くが注意することはない。
先程まで必死に神経を張り詰めながら組手をしていたのだ。
流真古武術の三段階目、中極意目録を与えるレベルをクリアしたのだから少しぐらいは という親心に近いものを男は抱いていた。
少女は武術に関してはかなりの才能を持っていた。そして努力する才能もあった。
これほどの若さでここまで上り詰めた者は三代目の伝承者以来であろう。
今の伝承者は男だが、過去には女の伝承者もいた。
途中の歴史を書き記したものを消失しているために今が何代目なのか判らないが…
道場に向かって礼をしてから出ていく男。
その時僅かながら少女に打たれた左胸が痛む。
「修行が足りぬか…」
ポツリと呟くが、既に男の体も技量も上り詰めれるところの限界ギリギリまで上り詰めている。
強いて言うのであれば実戦経験が過去の伝承者に比べ浅く、少女の拳が強かっただけの話である。
男が水を汲みに母屋に移動する時にそれは起きた。
───地震
大地が震えるように上下し、鳴動の音が空気を揺らす。
古き建築である道場が轟音を立てて崩れ落ちていく。
『お嬢!!』
男は揺れてまともに立てないような大地を這うように進む。
この家族には返しても返しきれないほどの恩がある。それを少女の死で仇と返すことは断じて許されない。
男の名前は羽金 欽。
少女の名前は赤金 美姫。
血飛沫をあげるように、太陽は紅く紅く浮かんでいた。
◇◇
『うっぐぅ──お嬢…』
『グッ──き、欽?』
再び痛みが体を貫くが、そんなものはどうでもよいのです。
『お嬢!!』
『き…欽なんやな!?』
お嬢と出会えたのですから。
今のは 過去の記憶でしょうか。暖かいような記憶。
『そうか…また欽に出会ったんや……』
『はい、またお嬢に仕えることが出来てワタクシは幸せで御座います』
しかし、あの世界のお嬢もワタクシも死んでしまったのでしょう。
そうでなければこのような魔物と指輪にはなることはないでしょうから。
そして真っ赤な太陽……あれは一体。
この世界のあの太陽、あの世界のその太陽。
その関わりは…
擬態出来るようになった少女と宝石に埋まった金の指輪になった男は新たなる姿と新たなる世界で再会した。
───これは転生した二人が転生した原因を探る物語
気が向いたらチョクチョク書いていきます。
それにしてもさすがに3ヶ月以上更新無しはやり過ぎたかもしれない。
別連載書くのが難し過ぎるんだもん。仕方ない…よね?
連載し始めたからには責任は持つ……と思います。
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