宝物4 赤い宝箱は擬態する
黒々とした煙に包まれた元・宝箱は一瞬蒼い煌めきを発した。その煌めきが収まったと同時に煙が晴れる。
煙の中から出てきたのはギザギザの歯を持ち大きな真ん丸な目を持った奇妙な生物。片目はもちろんワタクシが入ったアマゾナイトシリカのままでございます。
ミキ様本来のお姿は一言で申し上げるとしたら赤い丸。
メロンという食べ物ぐらいの大きさでしょうか。
『ジャジャーン! ミキちゃん参上! やで!』
おぉ、ミキ様の何かよくわからない決め台詞が出ましたね。
本当の姿であるミキ様は小さな腕と手を懸命に伸ばしてポーズをとっておられます。
『ちょ、待ってなんか急に恥ずなってきたんやけど…も、もう擬態してええかな』
何故恥ずかしくなられたのでしょう? 本来のお姿も宝箱に負けず劣らずお美しいのですが…
金の指輪ごときには分からないことなのでしょうね。
赤い球体をしたミミックの本来の姿はまたもや黒い煙に包まれた。
再び煙が晴れたときそこには先ほどのスコラピオンと瓜二つな魔物が存在していた。
ただし右のハサミは赤く染まったようになっており、そこと片目だけがスコラピオンとは異なっている。
『どや!? 完璧やろ!?
ほらキン! 見てや。めっさ速いで!』
確かに宝箱だった時とは比べ物にならないほど速くなられました。しかし少し…
『速くなっておりますがミキ様、脚の動きがぎこちないかと…』
『んー、まぁな。そらしゃあないやん、動いてりゃ慣れるわ』
そう言いながらハサミを使ってみたり尾を振ってみたりいろいろ試していらっしゃるミキ様は実に楽しそうでございます。
さて、移動するための体は確保出来たので、いよいよ…
『いよいよビシエラのダンジョンの外に出んねんな!? 楽しみやわぁー。
なんせ、初めてやもんなぁー!』
そう、今までミキ様はこのビシエラというダンジョンから出たことがないのです。
かくゆうワタクシもミキ様と出会う前の記憶が定かではないのでなんとも言いがたいのですが…
『キンは確か…魔王様の指に嵌まとったのをウチに下さったんやけど、あんま覚えてないんやんな?』
『…はい、その通りで御座いますミキ様。
ワタクシ、その点ではこのダンジョン外のことにはお役に立てないかもしれません』
そこはとても、とても残念な点であるとワタクシ自身そう思うのです。
魔王様がミキ様を産み出すのを拝見させていただいた…それが最初の記憶であるような気がします。
『ええか?キン。
ウチは別にキンに役に立ってもらいたい訳ちゃうねん。
ウチもキンも外の事は知らん。ちゅうことはや、それは楽しみを共有出来るってことや。
一人でも楽しいかもしれへん、けどな、それは自分だけで止まってまうねん。
二人で共有したらもっと、も~っと楽しめる、ウチはそう思うで?
ちゃうか?』
くっ、なんと心に響くお言葉で御座いましょうか…
ワタクシの心は濁っていたのかもしれません。
『大変申し訳ございませんでした。
ミキ様の御心を察することが出来ず…
ワタクシとて外に旅立つということで浮き足だっていたのかもしれません』
『フフッええねんええねん、ウチもちょっち責めるような言い方して悪かったわ。
まぁ、ウチもキンも外の世界が楽しみをやねんから、はよ出てみよか!!』
なんと、ワタクシには勿体ない素晴らしい主で御座いましょう。
そして遂にこの暗く湿ったダンジョンから、新たな光の差し込む世界へと…
新たな世界がミミックと金の指輪を待つ…
その世界の光は二人にある記憶を思い出させる…
それは現世の記憶か、はたまたこの世界ではない記憶か…
次回、宝物5 |遠い日の記憶《Memory of a distant day》




