宝物3 スコラピオンは光り物好き
暗く湿っている洞窟のようなダンジョンで奇っ怪な叫びをあげる宝箱がいた。
『だぁー! もう! どこにおんねん! あのハゲぇ!』
あぁミキ様がお怒りなさっている…
あのきもちの悪い部屋を抜けてからスコラピオンという魔物を探して様々な場所を訪れているのですが、いるのはスライムやナメクジのようなチハホッド、浮遊するプリザークだけ。
まぁ別にスコラピオンはハゲではないのですが…
『落ち着いて下さいミキ様。
スコラピオンは穴を掘って生息していたと思うので地面をしっかり見ればいるはずです』
『キン、それもっとはよ言って~な、ウチえらい疲れたで…』
『申し訳御座いませんミキ様。
それはワタクシの不徳の致すところ…』
『ええよええよ、ちょっち愚痴りとうなっただけ。
ほな!ヒントも貰ったし、もうちょい頑張ろか~!』
さすがミキ様、切り換えもお早い。
お慕い甲斐があるというものです。
☆☆
『あー!おった!おったで!』
先程説明してから数分間探してようやく、スコラピオンがダンジョンに掘った穴から這い出てくるのを見つけました。ミキ様は心底嬉しそうに歯を鳴らしていらっしゃいます。
『ひっ!? な? なんぢゃ?』
スコラピオンがこちらを見て、穴にもう一度潜り直し顔だけひょっこり覗かせました。
『なぁ! スコラピオン! ちょい全身見せてくれへん?』
ミキ様はなんの躊躇いもなく主題に入り、何が起こっているのか把握できないスコラピオンは呆然としています。
『あんな~ウチこのダンジョン出よう思ってんねんけどさぁー?
ほら、こんな宝箱のまんまやったら動きずらいやん? やから、アンタ動くの速いからさ、写し取らせてくれへん?』
そんなことを微塵も気にしないミキ様はドンドン捲し立てて説明していきます。
『お、おおぅ。分かった分かった!
いや、本当はわからないんぢゃけど…取り合えず落ち着いてくれ!』
あぁ、我が主が御迷惑をかけて申し訳ない…、ただ少しはお互い落ち着きを取り戻せたようですね。
『……』
『………』
暫しの沈黙が場を包み、堪えきれなくなった我が主が問いかけました。
『…で、どうなん?』
『そんなことを聞かれても…何をしたらいいんぢゃ?』
確かに写し取らせてくれと言われても何をどうすればいいのか…となりますね。
『ここはワタクシが説明致します。宜しいでしょうか、ミキ様?』
『ええでええで、頼んだわキン。ウチそんなん苦手でな~』
『だ、誰ぢゃ!?ど、どこで喋っておるんぢゃ?』
おっと、ワタクシとしたことが…いつも話をさせていただくのはミキ様か、エスタだけなのでどうも忘れてしまいますね。
『あ~ウチの右目にな、金の指輪がおんねんけど…それ♡』
『は?どういう…』
スコラピオンがまたもや呆然と…
やはりミキ様の説明は… こう言葉には出来ないのですが、適当と申しますか…
いや、しかしそれをお助けするのがワタクシの役目で御座りますれば、そもそもワタクシの話で御座いますしね。
『申し訳ありませんスコラピオン。
ワタクシ、ミキ様の右目である宝石にいる金の指輪で、“キン”と呼ばれております。
指輪が話してる云々はワタクシたちにも何故なのか分からないので御了承を』
『え~、あ!? その青い宝石? その中におるんぢゃ? 素晴らしいんぢゃ…』
少しスコラピオンが眼を輝かせているでしょうか、彼らは確かに光るものは好きな方だったような…
『ちょ、ちょっとさわ、触らしてくれんか!? ちょっとでいいんぢゃ!』
おや? 様子が少しおかしくなってしまったようですね?
これは断った方がよいのでしょうか? とはいえ、決定するのはミキ様ですが。
『え、何? ちょいキモいで? なんかイヤやわ…』
ミキ様は純粋に気味悪がっているようですね。
かくゆうワタクシも気持ち悪いと言いますか…
『少し、すこしだけ、スコしだ…ケ~!!』
まるで駄々をこねるかのように言いながらも、サソリの体をしたスコラピオンはとてもミキ様には出せない素早さでこちらに急接近。
そしてミキ様の御身に毒のある尾を突きたてました。
『いっ! うそやん!
そんなに!? うわっこわっ!』
『これはマズイですねミキ様、反撃を!』
さすがに手を出してきた相手に下手に出る必要はありません。ワタクシが動ければよいのですが……
『え、あ! そ、そやな! ん…んべ!!』
多少狼狽え、動揺しても自らが出来ることをすぐに行動できるミキ様は素晴らしいです。
特有の長い舌を伸ばし器用にスコラピオンの腹部を締め付け、目の前に持ってきました。
実に素早い舌技です。スコラピオンの初速よりは確実に速いでしょう。
『ひん? ほのこほなひしひょか?』
『ぐ、ぐぇぉえ』
ワタクシが思っているよりもミキ様の舌の力が強いのでしょう、スコラピオンの体が半分に折れてしまいそうなことになって尻尾も力を失ってしなだれています。
ミキ様は舌を伸ばしているためしっかり喋れないのでしょうが言わんとすることは分かります。
“この子をどうしようか”でしょう。
『そうですね、わざわざ殺す必要は無いでしょう。
今の内に《擬態》の条件を満たしましょう』
『ホッヘー!んー』
《擬態》の能力はかなり使い勝手の良い能力だとワタクシは思います。
ただ擬態元になる物や生物を写し取る条件が少し厳しいのです。
『ホンホン、ここはほうなっへへー』
ミキ様はジロジロとスコラピオンの全身をくまなく見つめます。
ある程度どう動くか、関節が何個あるか等は確実にみないと擬態後上手く動けなくなってしまうのです。
まだ地面に接しているような地上の生物はよいのですが、空を飛ぶなどは幾らか練習しなければなりません。
魔力で空中に浮かぶ魔物も同様に魔力量がある程度必要であり、さらにどう魔力を使うか理解せねばならない。
そうミキ様ご自身は仰っておられました。
今のミキ様が擬態できるのはもちろん宝箱、それにビシエラボスのエスタ、スライム、木箱や棚、壺等の物です。
エスタは魔力で浮かぶ魔物なのでミキ様は擬態しても地を這うことしか出来ませんでした。
いずれ魔力量が増えれば完璧に浮くことが出来るでしょう。
それもミキ様の才能ならばすぐでございましょう。
『ほっひゃ!ほぼへた!』
おや、ミキ様がスコラピオンを覚えられたようですね。
擬態条件を満たされた様子です。
『もうスコラピオンを離してもよいのではないでしょうか。
持ったままでは《擬態》は出来ませんよね?』
『んあ!べー、うん。
あ~喋りづらかったわ~』
スコラピオンは既に気絶しているようですし、擬態するには一度本体、もしくは慣れている宝箱でないと変身出来ないとのことで…
それをお伝えしたところスコラピオンに巻き付けていた舌をクルクルと巻いていき口に戻しました。
『久々やな~擬態すんのも。
せや! ウチの真の姿から擬態しよか? せっかくやし。
あんま、他のもんに擬態しすぎると〝自分〟っちゅーのを見失ってまうからな~』
ふむ、なかなかミキ様にしては真理を突くような発言ですね。確かにその通りで、幾つも体を入れ換えられたら自己が分からなくなるでしょう。それに…ミキ様のご本体は…
『《擬態》解除!!』
擬態の条件には声は必要ないですがこれは言いたくなったんでしょう。久しぶりですしね。
宝箱の中心にある錠がまるで溶けるかのように形が崩れていき、濃く黒い煙が宝箱全体を包み込む。
次の瞬間、煙の中が蒼く煌めきその光がおさまっていく…
赤かった宝箱は形を変え元の姿に戻る…
果たして出てくるのは異形か無形か…
黒い煙が晴れたときその姿は現れる…
次回! 宝物4! |思い出をその胸に…《Memories on that chest》




