宝物2 腐肉喰いは闇に蠢く
暗くじっとりとした空気が肌につくであろう石作りのダンジョンの一角の部屋、あるひとつの宝箱。
時おり細かく動くのを除けば何の変哲もない赤い豪華な宝箱、しかしそれは…
大きく開いたギザギザの歯、ダランと出る大きな舌、そして宝石のように輝く硬質な目。
そう、これは宝箱ではなくミミックというモンスターだった。
☆☆
『て言うかどうやって魔王城まで行こか?ウチ足無いで』
先程までウキウキしていらしたミキ様は急に困った様子で我に返られた。
けれどもミキ様は自らの固有能力を忘れていらっしゃられる。
『ミキ様には《擬態》という能力があるではありませんか』
『え? ちょっと待ってや、《擬態》あるのはわかるけどそれでどないすんの?』
ワタクシが把握するに魔物には幾つかの固有能力を持っています。
ミキ様はミミックなので先程申しましたように《擬態》の能力を活用できます。
ミキ様曰く色々と制限があるのようなのですが…
そう言えば魔王様は多数の能力を所持していると…魔王様の種族はミキ様と同じ物質系。カラクリ人形という魔物の最終進化先であったと思います。
ビシエラのダンジョンボスのエスタが言うには、魔王様は昔ひとつの能力を配下に見せたらしいのですが…
その能力が《把握》というなんとも大雑把な能力名ですが、それはそれは恐ろしい能力だと。
まぁ魔王様の能力は一介の指輪にはさっぱり判らないことでしょうから今はミキ様のことです。
宝箱では移動しにくいなら…
『《擬態》で人間や魔物の姿を写しとればいいのです』
『んー? あー!? そうやそうやん、それでええやん!
でもなぁ、ウチ的にこの姿がいっちゃんシックリくんねんけどなぁ、まぁしゃあないか』
確かにワタクシとミキ様が出会ってからミキ様はずっとこの宝箱の姿でしたが…
行動すると決意されたのですから少しは変化に身を置かなければいけないでしょう。
『あっ!?ちょ、キン?でも、写し取れるような人型とか飛行タイプの魔物はこのダンジョン居らんで?』
確かにミキ様の言う通りそのような魔物はこのビシエラには居りません。ダンジョンボスのエスタは触手タイプのひとつ目の魔物ですから意味はないですね。
けれど何も人型や飛行タイプの魔物である必要はありませんね。
『ミキ様、今はある程度移動さえ出来ればどのような魔物でもいいのです。ビシエラの外にはより移動に優れた者もいるでしょうし』
『ほーか、ほーか。ならスコラピオンやな?』
さすがミキ様です、すぐにスコラピオンを思い付くとは。
スコラピオンは大きな虫の魔物でこのダンジョンではエスタの次に動きの速い魔物でしょう。
『スコラピオンの居るとこは~、あ~あっこ通らなアカンのか…あっこくっさいねんよなぁ』
ミキ様が仰っているのは、意地汚い“腐肉喰い”共のことでしょう。
奴等は強さはさほどでもないのですが…集団でグジュグジュと蠢いて行動するので、いくらミキ様は同じ魔物といえど気持ち悪いのでしょう。
『まあ、襲ってこないはずですから目を背ければよろしいでしょう』
『それもそやねんけど…、あーやだやだ』
愚痴を呟きながらも大きな赤の宝箱は魔王城への一歩を踏み出した。
☆☆
『うっげぇ~、くっさぁ~』
ミキ様が必死に体を振り跳び跳び、辿り着いたのはダンジョンの中でも特に暗い場所。
地面はデコボコになっており、所々黒い水溜まりが出来ています。
言っておりませんでしたが、ワタクシはミキ様の右目であるアマゾナイトシリカという宝石の中に魔王様によって埋め込まれたので、外の様子を確認できるのです。
ただミキ様自身でない部分になるので《擬態》の影響下に置かれないため宝石のままになってしまうのです。
例えば人間に擬態したとしましょう。
ワタクシが入っているアマゾナイトシリカは眼球として配置され、おそらく左目は人間のものになると思います。
『キンも見いひん方がエエでめっちゃグロイから…』
確かにこのカサカサ、グチュグチュという音だけでも気味が悪い…
どこの暗がりでもこの“腐肉喰い”共はいるらしいので最悪な魔物でございます。
これがもし強ければ、よりひどいでしょうが…
『もう少しでこの部屋を出られますからあと少しの我慢ですよ、ミキ様』
『うん、頑張るわウチ』
その後もワタクシが水溜まりの位置を言いながら避けて跳び跳びようやくあの場所を通りきりました。
『ハァ、疲れたわ、もう嫌やでアイツら』
『もう彼処は通ることはないのですから。さぁ先に進みましょう』
『そうやな!気ぃ取り直して行こか!』
気持ちを切り替えた大きな赤い宝箱は燃え盛る松明をチラリと見て『あれさっきの部屋持っていっとったら良かったんちゃうん?』と思いながらも先に進みます。




