宝物1 金の指輪はミミックに仕える
貴方はミミックというモンスターを知っているだろうか?
ミミックとは生物学においては『擬態』という意味である。
多くのRPGで様々な姿で見られるモンスターだ。基本的には“宝箱”のイメージがあるだろう。
そんな“ミミック”という名前のモンスターのお話…
☆☆
『ハァーこのダンジョンヒマやなぁー、ちょっち魔王城でも行こかなぁー。
最近魔王様に会ってないねんなー、ほんまどないしょ。
ウチの超絶舌技で魔王様魅了できる思うねんけどなぁー?』
赤く染まった豪華な装飾の宝箱は魔物だけの人間には聴こえない特殊な声を出してそう独りごちる。
いや、独り言ではないのかもしれません。
ここは始まりの町と呼ばれる“ビェローツァ”、その近くのダンジョン“ビシエラ”。
おっと失礼。
ワタクシ、このミミック様の中の財宝である“金の指輪”でございます。
と、まぁ堅苦しい挨拶はこのくらいにして…
『ねぇ、きいてんの?』
おや、やはりワタクシに話しかけられておいででしたか。ふむ。
『いえいえ、しっかり聞いておりますよ?魔王様にお会いしたいというのでしょう?』
『そう、そやねん。ウチを作って貰った時から会ってないからなぁー。
でもなぁ、魔王城ってめっちゃ遠いらしいやん。エスタが言っとったわ』
エスタとはこのビシエラのダンジョンボスです。
ダンジョンボスというのはいわゆる魔王軍の貴族のようなものでしょうか。
ビシエラは現在の魔王様が魔王になってから初めてモンスターを配置した由緒あるダンジョンです。
しかし、このダンジョンは魔物的にも人間的にも僻地にあるダンジョンのため弱いのです。
一応エスタはダンジョンボスであるので魔王城に行ったことがある、と。
エスタがダンジョンを留守にしている間はこのミミックが代理ボスをしておりました。なにげにこのミミック様強いのです。
『しゃべり方は変なミミック様ですが…』
『え? なんて?
てか、かわいないから“ミ姫”って呼んでってゆうてるやん、あんたのことはキンって呼んだるから』
ふぅ、本当に変な魔物です。そうそうこんなにも自己を持っているモンスターも珍しいのですが…それこそダンジョンボスレベルでないと。
まぁ、かくゆうワタクシも一般の指輪とは異なるでしょうが…
『キン、ウチどないしたらええ思う?ビシエラ出て魔王城行こか?』
珍しく真剣味を帯びた声でワタクシに問いかけていらっしゃる、一応といえどミキ様は我が主で御座りますれば答えないわけにまいりますまい。
『ワタクシはミキ様に従うだけですので…しかし、ワタクシが愚考しますに、このダンジョンはミキ様には小さすぎるかと…
ミキ様につきましてはどうお考えで?』
ビシエラにはごくまれに冒険者がやって来るのですが…なにせ、最初のダンジョンであるためやって来る冒険者も弱い方ばかりなのです。
そもそも、魔物は濃い魔素溜りや魔王様によって分け与えられた魔素によって産み出されます。魔物はその魔素によってレベルやステータスが決まってしまいます。
成長いわゆるレベルアップをするためにはほぼ唯一の方法しかありません。
そう、“殺すこと”でございます。
人間は魔物を、魔物は人間を。
そうすることによってレベルアップするのです。
しかし何故か獣などの畜生を殺してもレベルは上がらない。
おそらくレベルアップには魔素が関係しているのでしょう。強ければ強いほど魔素量が多いということでございます。
ですので、このダンジョンはレベルアップには適さない。
魔王城に行く道にはさぞ多くの強者がいることでしょう。
ミキ様には酷な道かもしれませんが、ミキ様本人は楽しんで進まれる。
そんな予感がワタクシにはあるのです。
しかし決定するのはミキ様自身。
『ん~、ウチは…やっぱ魔王様に会いに行きたいかな。
第一、外ってめっちゃ楽しそうやん!?』
やはり。この小さなダンジョンでも楽しそうに過ごしたのですから。
──ならばワタクシはただその御意向に従いましょう──
金で出来た小さな指輪は音に出さずそう思った。我が主にはしっかり伝わっているだろうから。
──もっと大きな世界、強大な敵、出会う魔物、その一つ一つを楽しもか、楽しまんと損やしな!──
新たな世界に想いを馳せる赤い宝箱は嬉しそうに歯をガジガジ鳴らした。




