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狩人?

狩人?

「”魔”が滅びた?」

「そうだ」

「でも、確かあの町には対魔師はいなかったはず」

「ああ、それなのに”魔”は滅びた。どうしてだと思う?」

「私たちの知らない対魔師がいると」

「もしくは、俺たちから逃げた対魔師かもしれない」

「逃げた?」

「あの町からすぐ近くの村で三ヶ月前に一人の対魔師が脱走した。もしかしたらそいつかもしれん」

「その対魔師、名前は?」

「ユキだ」


「ねえ、ユキちゃんって昔は何処に住んでたの?」

 仕事の合間にサヤカがユキに尋ねてきた。

「近くにある小さな村だけど、どうして?」

「あ、特に理由はないんだけど、人に聞かれたの?」

「聞かれた?」

「うん。その人、ユキちゃんのこと捜してるみたいだったよ」

 昨日、店にいたサヤカは一人の女性に尋ねられた。

 ユキと言う女を知らないかと?

「そ、その人、私のこと何って言ってた?」

 ユキは一瞬、血の気が引けた。

 もしかしたら、ばれたかもしれない。

 ユキが対魔師であることがサヤカに。

 そう思うと、サヤカの顔をまともに見ることが出来なかった。

「特に、何とも。あ、でも近くの村から来たはずだって、言ってたからユキちゃんに間違いないね」

 とりあえずは一安心だった。

 サヤカにはばれていないみたいだ。

 もっともばれていたら、こんな風に話せていないだろう。

 しかし、ユキを捜している人物は知っているのだろうか?

 ユキが対魔師であることを。


「いたわ。三ヶ月前からここに現れた”ユキ”と言う人物が」

「そうか。接触は?」

「まだ。でも、居場所は分かったから近いうちには」

「野放しなのか?」

「殆どね。一応同居人はいるって話だけど、対魔師と一緒に暮らすなんてどんな物好きかしら」

「暴走する前には仕留めろよ」

「分かってるわ」


「誰かに追われてる?」

「サヤカさんが言ってた。女の人が私を捜してるって。

 ねえ、カズヤ、やっぱりその人は私が対魔師だから捜してるのかな?」

 結局、ユキは対魔師としてしか見られてない。

 みんな、対魔師としてユキしか必要としていないのだ。

 だれも、普通の女の子としてのユキなど求めていないのだ。

「まだ、分からないが。その可能性は高いな」

 きっとあの時、ユキが対魔の力を使ったから、ユキの存在がばれてしまったのだろう。

 脱走してきたのだ。追っ手が来てもおかしくない。

「ねえ、カズヤ、私恐いよ。また、あそこに戻るなんて嫌だよ」

 もう、ここでの生活しか考えられない。

 ここで、カズヤと一緒に暮らしていくしか考えられない。

「大丈夫。護ってやるさ」

 カズヤは優しくユキを抱きしめた。

 暖かかった。確かにカズヤの温もりを感じる事が出来た。

「うん」

 カズヤだけは信じる事が出来た。

 何があってもカズヤだけは私を裏切らないと確信出来た。


 夢を見ていた。

 人々から忌み嫌われいる夢を。みんなから恐れられている夢を。

 対魔の力は一歩間違えば人をも殺す。

 だから、みんな、私を避けた。私を人として見てくれなかった。

 ただ、対魔の道具としてしか見てくれなかった。

 ”魔”が出現すれば、私は必要とされる。けど、”魔”と倒すたびに人々は私の力を恐れていった。

 みんなを殺すことも出来た。私にはそれだけの力はあった。

 でも、それだと何も変わらない。

 また、別の人間が私を見る。人殺しの悪魔として。

 恐かった。私は恐かった。

 みんなが私をそんな目で見るのが。

 私だって、人間だ。でも、だれも、私を人間としては見てくれなかった。

 恐かった。辛かった。

 私は悪魔でもないし、人殺しでもない。

 なのに、みんな私をそんな風にしか見なかった。

 恐かった。哀しかった。


「また、あの夢」

 昔の夢、私が人として認められていなかった時の夢。

 そんな夢をみた後だから恐くて眠れなかった。

「どうしよう」

 ユキは一瞬迷ったが、迷いはその一瞬だけだった。

 布団から抜け出し、カズヤの元に向かった。

 カズヤは最初から私を人として見てくれた。

 一度も私のことを悪魔だの、人殺しなどとは言わなかった。

 その上、私を女の子だとも言ってくれた。

 嬉しかった。そんな風に言ってくれて嬉しかった。

 カズヤだけは絶対に私を”悪魔”だの”人殺し”だのとは言わない。

 絶対に、言わない。


「カズヤ?」

「そう、ユキちゃんはカズヤさんと付き合ってるの」

 サヤカは女と話していた。

 その女性はサヤカよりも年上で所謂、大人の女性だった。

「カズヤさんも優しくていい人なの。料理だって美味しいし後ね・・・・あ、おい!ユキちゃん!」

 ユキの姿を見つけたサヤカは手を振った。

「サヤカさん。おはようございます」

「おはよう、ユキちゃん。で、こちらがシズさん。この前言ってた、ユキちゃんを捜してた人だよ」

 サヤカに紹介されるとシズはユキに軽く頭を下げた。

 ユキはこんな女性知らなかった。

「やっと、見つけましたよ。ユキさん」

 シズはそう言って小さく笑った。


 あれからシズは仕事が終わるころにもう一度来ると言って立ち去った。

 ユキは出来ることなら、シズが戻ってくる前に逃げ出したかったが仕事場がばれたのだ、今日は逃げれても明日も逃げれるとは限らない。

 そう覚悟したユキはカズヤに事を知らせて、待った。

 まだ、シズから追っている理由を聞いていない。

 だから、もしかしたら。

 そんな思いがあったのだが、事態はユキが予想した以上のことが起きようとしていた。


「シズ?」

「うん。そう名乗ってたよ」

 仕事ももうすぐ終わる。ユキとサヤカは閉店の準備をしていた。

 そして、シズと名乗る女性より先にカズヤが来てくれたことでユキは少しは安心出来た。

 カズヤがきっと私を護ってくれる。

「間違えないのか?」

「うん。カズヤ知ってるの?」

「俺の知ってるシズなら、その女性は”対魔師狩り”だ」

 対魔師狩り、その名の通り、対魔師を狩る、つまり殺す者だ。

 その強大な対魔の力をもつ対魔師を殺す。

 それによって、強大な対魔の力が人を殺すのを防ごうとする者たちだ。

 一度、対魔の力が暴走したら誰にも止められない。

 対魔師が力尽きるその時まで、対魔の力は暴走し、”魔”を、そして、人を食い尽くす。

 それを未然に防ぐために対魔師を殺すのだ。

「うそ。私、狩られてしまうの」

 死、その言葉がユキの頭をよぎった。

 死にたくなんてない。カズヤと一緒に生きていたい。

「いや、多分狩られはしないだろう。対魔師狩りは暴走する予兆のない者を狩ったりはしない」

 対魔師は人から忌み嫌われ、恐れられてはいるが、人に取って必要な者なのだ。

 ”魔”に対抗するために。

 だから、対魔師狩りもむやみやたらに狩りをして、対魔師を殺しはしない。

 危険な対魔師だけを狩るのだ。

「だったら、どうして来たの?」

「おそらく、暴走したために逃げ出したのだと思ったのだろう」

 対魔師が自分の意志で脱走したなど夢にも思ってないだろう。

「それなら、事情を話せば・・・」

「それはどうかな。シズね・・・・・・・」

「お〜〜い、電気消すよ」

 ユキとカズヤの話はここで終わった。

 サヤカが電気を消して、戸締まりを確認したらユキの今日の仕事は終わりだ。

「それじゃ、お疲れ」

「お疲れさま」

 サヤカに別れの挨拶を済ませたユキはカズヤと共に人気のない裏通りに出た。

 辺りは夕焼けのせいで真っ赤に見えた。

「待ってましたよ、ユキさん」

 裏通りに出るとそこには、シズがいた。

「いろいろと聞きたいことがありますので一緒に食事でもどうです」

 シズが何気なく接して来るのでユキは恐かった。

 今までは避けられるのが恐かったけど、シズのこういった何気ない接し方も恐かった。

「大丈夫です。取って食べる訳ではないので。ご安心して」

 従うしかない。ユキは恐怖のあまりそう思った。

 そして、ユキが差し伸べられたシズの手を掴もうとしたとき、

「そういう脅し方は卑怯だ」

 ユキはカズヤの声で金縛りがとけた。

 やっぱり、カズヤは私を護ってくれる。

 そう思った。

「カズヤ、やっぱり、あなただったのね」

 カズヤを見たシズはどこか諦めにも似た声で言った。

 シズはもしやと案じていたことが的中したことを知った。

 サヤカと言う少女からその名前を聞いた時から嫌な胸騒ぎがあった。

 でも、シズは必死にそれを否定した。そんなことは起こりうるはずがないから。

「久しぶりだね。シズ姉さん」

 カズヤは覚悟を決めた。

 ユキに、自分の過去が知られてしまうことを。

 そして、その後どんなことが起ころうと自分はユキを護ると。

「カズヤ、あなたどういうつもりよ!」

 シズはいきなりカズヤに叫んだ。

 こんな現実は信じたくなかった。

「この子は対魔師なのよ。分かってるんでしょう」

「ああ、分かってる」

「だったらどうして、彼女と付き合ってるのよ」

「そ、それは」

 ユキが好きだから、そう言ってもシズは信じないだろう。

 仮に、信じたとしてもカズヤの気持ちなど少しも理解出来ないだろう。

「カズヤ、あなた過去の事忘れたの?」

 それを聞いてカズヤは何も言えなくなった。

 忘れていた。過去の自分を忘れようとしていた。

 それはユキには知られたくないことだから。

「対魔師は、人を殺すのよ。それはあなたが一番知っていることでしょう」

 対魔師は”魔”を殺すだけではない。

 人をも殺す。そう、あの力は人を殺す力でもあるのだ。

「それなのに、何であなたはこの子と一緒に笑ってられるのよ」

 シズは怒っている。シズは悲しんでいる。カズヤにはそれがよく分かった。

 小さい時から一緒に暮らしてきた姉弟だから、シズの気持ちはよく分かった。

「姉さん、俺は・・・・・」

 自分の気持ちをシズに伝えたかった。

 自分の想いを。

 でもそれは出来なかった。それを言うとシズを裏切ることになるから。

「あなただって、対魔師が憎いんでしょう!」

 そう、確かに対魔師が憎いと感じた時もあった。

 人のために”魔”を殺しながらも、結局は自分の手で人を殺した対魔師に殺意を感じた時もあった。

 でも、今は違う。

「昔はそう思ってた。でも、今は憎いとは思わない」

 カズヤがそう言った瞬間、カズヤは自分の頬に哀しみを感じた。痛みとして。

 何が起きたのはすぐ分かった。

 シズは今まで見たことのない、哀しい眼差しでカズヤを見た。

「何言ってるのよ!対魔師は、対魔師は私たちの両親を殺したじゃないの!!」

 10年前、対魔師が”魔”を殺そうとしたときにその対魔師は暴走してしまった。

 ”魔”をも殺す力は暴走した。

 そして、全てを破壊した。

 多くの命を、多くの人の未来を奪ったのだ。

「カ、カズヤ、それ、本当?」

 それまで黙ってカズヤとシズを見ていたユキが口を開いた。

 その顔は見るに見かねた顔だった。

 カズヤに否定してほしがっている顔だった。

 でも、カズヤは否定することが出来なかった。両親が対魔師に殺されたの事実だから。

「ああ、本当だ」

 それを聞いたユキは逃げ出した。

 急いで、カズヤの前から逃げ出した。


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