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何処?

何処?

「カズヤ、御飯出来たよ」

 朝の日差しが舞い降りる中、ユキの透き通った声が響いた。

 あれから、ユキとカズヤが脱獄してから、2人は別の町で生活していた。

 だれも、ユキのことを対魔師と呼ばない町で。

「ああ」

 そこは、ユキにとって幸せな場所だった。

 カズヤと共に生活が出来、そして、女の子としての生活が出来ているから。

「今日はちゃんと焼いたよ」

 掃除、洗濯、料理、それらのことが出来るから。

 牢獄にいたときは何も出来なかった。

 ただ、人々に必要とされるのを待っていた。


「ありがとうございました」

 ユキは花屋でバイトをしている。

 ユキのためにカズヤが見つけてくれたのだ。

「ユキちゃん、ちょっと手伝って」

「はい、サヤカさん」

 そこではサヤカという友達も出来た。

 同じ年頃の、同じ女の子の友達が。

 無駄話をしたり、一緒に買い物に行ったりできる友達が。

 嬉しかった。

 脱獄して、カズヤと一緒に来て良かった。

 ユキは今の自分が大好きだった。


「ねえ、ねえユキちゃんとカズヤさんってどんな関係なの?」

「親友ですけど?」

 午後のティータイム、サヤカはユキと一緒に紅茶を飲んでいる。

「本当にそれだけ?一つ屋根の下に暮らしてるでしょう」

「ええ」

 この前、サヤカはユキの家に遊びに行った。

 そこでカズヤと出会った。

 そして、ユキとカズヤの関係が気になった。

「でも」

「でも?」

「私にとってカズヤはともて大事な人です。

 彼がいないときっと私は生きていけません」

 カズヤと一緒に暮らすのがもはや当たり前だった。

 一緒に御飯を食べたり、一緒に笑ったり。

 牢獄に居たときは一人が当たり前だった。

 そして、今はカズヤと一緒に居るのが当たり前だった。


「カズヤ、遅いな」

 夕食を作り終えたユキはカズヤの帰りを待っていた。

 カズヤも仕事をしている。ユキとは別々の仕事を。

 それでも、いつもはユキと同じぐらいに帰ってくる。

 でも、今日は違った。

 待っても、待っても、帰ってこない。

 一時間、そして、二時間が過ぎた。

「カズヤ、どうしたの」

 もう、我慢出来なかった。

 ユキはカズヤを捜しに出た。


「何処にいるの?」

 心配のあまり外に出たものの、ユキはカズヤの居場所に検討が付かなかった。

 何処で仕事をしてるのかさえも知らなかった。

 ”昔の友人を手伝っている”カズヤは仕事のことをそうとだけ言った。

「何処なの?」

 町中をくまなく捜した。

 何時間捜したのだろうか。

 もう、分からない。

 ただ、必死にカズヤを捜した。

 でも、見つからない。町中何処を捜しても見つからなかった。

「カズヤ、何処」

 その内、ユキは恐くなった。

 また、一人になるのだと思うと恐くなった。

 やっと、普通の女の子らしい生活を手に入れられたのだ。

 恐かった。思えば思うほど恐怖は増しっていった。

 また、あの牢獄、たった八畳の世界に戻る。

 誰にも必要とされていない、対魔師としての生活に戻る。

 嫌だった。この生活を失いたくなかった。

 でも、見つからない。

 カズヤが居なくなると戻るしかない。

 あの、生活に。


 見つからなかった。

 明け方まで捜したけど、カズヤは見つからなかった。

 ユキは部屋に戻ってきた。

 カズヤと共に暮らした部屋に。

 何でカズヤは帰って来なかったのだろうか?

 やっぱり、私はカズヤにも必要とされていなかったのか。

 そんな思いがユキの中に芽生えた。

 ユキは慌ててそれを振り払った。

 そんな事はない。

 強く自分に言い聞かせた。

 もう、疲れた。


 目を覚ましたら、朝日が夕日に代わっていた。

 夢を見た。

 カズヤと共に暮らしている夢を。

 楽しかった。出来ればさめないでほしかった。

 せめて、夢の中だけでもカズヤと一緒に居たかった。

 これからどうしよう?

「おはよう」

 目の前にいた。

 カズヤがいた。

「昨日は悪かったな。その様子だとずっと捜していたみたいだし」

「カズヤ?」

 ユキは目の前のことを信じられなかった。

「仕事が長引いてな。隣町まで行ってた」

「良かった」

 良かった。カズヤは私を見捨てていない。

 分かった。私にとってカズヤがいかに大事なのかが。

 そして、はっきりと自分の思いも自覚できた。

「え?何か言った?」

「ううん。何も。

 それより、お帰り、カズヤ」


 後、聞いたらカズヤは探偵の仕事を手伝っているらしい。

 ユキもカズヤに頼んで何度が手伝いに行った。

 楽しかった。カズヤと一緒に仕事をしているのが。

 サヤカと一緒にするのとは比べものにならない位に。

 そんな日々はユキの想いを少しずつ、だが確実に抑えきれぬものにしていった。

 女の子としての大事な想いを。


 今日は花屋のバイトが休みだったため、ユキはカズヤの手伝いをした。

 しかし、今日の仕事で”魔”が出てきた。

 対魔師であるユキは”魔”を殺した。

 自分の使命であるから、”魔”を殺した。

 同時に、思い出した。

 対魔師としてしか人々に見られていなかったあの日々を。

 人々に忌み嫌われ、恐れられた日々を。

「ユキ、大丈夫か?」

 カズヤにしてもユキの気持ちは分かった。

「ちょっと、大丈夫じゃない」

 今は、女の子として暮らせている。

 だけど、本当にこれで良いのか?

 恐くなった。そして、その恐怖はすぐには消えそうもなかった。

「少し、休んでから帰るか」

 ユキにカズヤの優しさがしみてきた。

 カズヤは私を女の子として見てくれている。

 だから、こんなにも気遣ってくれる。

 改めて、ユキにとってカズヤがいかに掛け替えのないものなのかが分かった。

 それは、もう親友以上に掛け替えのないものだった。

「あなたが好きなの」

 もう、この想いを抑えることは出来なかった。

 もう、耐えられなかった。

「え?俺のことを・・・・・・」

「そう、私はあなたのことが好きなの」

 ユキはカズヤから目を逸らさずにいる。

 あの時、あの時からだ。ユキがカズヤを意識しだしたのは。

「あの時、カズヤは私に言ったよね。私は対魔師で”魔”を倒すのが使命なんだけどそれだけじゃないって、女の子だって言ってくれたよ。私ね、すっごく嬉しかったの。今まで私は対魔師としか見られたことがなかったからすっごく嬉しかったよ」

 幸せそうだった。ただの女の子だった。ユキは普通の少女だった。

「あのことか」

「そう。私を女の子としてみてくれるのはあなただけだった。初めて私を女の子って言ってくれた」

 それまでユキはずっと避けられてきた。いや、人々から嫌われ来た。

 対魔の力は一歩間違えば人も殺す。それ故にユキに近づくもの好きなどいなかった。

「カズヤ、あなたはどうなの?私のこと好き?

 それともやっぱり・・・・・・・・・・恐い?」

 聞かなかった方が良かったかもしれない。

 聞かないで友達のままでいれば良かったかもしれない。

 でも、我慢できなかった。

 このまま、カズヤとの関係を親友で終わらせるのは嫌だった。

「お願い、教えて」

 ユキは待った。ただ、ひたすらにカズヤの答えを待った。

 重い沈黙が流れた。

 もはや、2人とも時間の感覚などなくなっていた。

「お、俺は・・・・・・・」

 走馬燈、カズヤは沈黙の中で昔の自分を思いだしていた。

 孤独だった自分を。

 ただ、使命だと思い、それを果たしてきた自分を。

「俺も、寂しかった。ユキと同じで寂しかった」

「カズヤ?」

「だから、俺もきっとユキと一緒なんだ。ユキは俺のこと恐いか?」

 ユキは首を横に振った。

 そんなことは一度もなかった。むしろ、その逆だった。

「だったら、俺も一緒だ。俺はお前を恐いとも思わないし。お前が好きだと思っている」

 ユキは初めて泣いた。

 初めて苦しみや辛さではなく、嬉しさから涙が出てきた。

「ありがとう、ありがとう、カズヤ」

 それ以上、ユキは言うことが出来なかった。

 それ以上は涙のせいで言葉が出なかった。

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