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迷宮逆攻略開始

視界には光ひとつない黒。おそらく日本ではないどこかにやってきて意識が覚醒してから約一時間といったところだろうか。それだけの短い時間で俺は第二の人生の幕を閉じた。


あの時冒険者風の三人組がきて何がなんだかわからぬまま戦闘に入った。それまでの俺の思考は誰かのもののように疑問すら抱かずにその冒険者と交戦しその時感じたのは人という種族に対しての激しい憎悪、怒り。

それは俺が抱いたものではない。俺以外の誰かこの魔法をすんなり扱うことのできる体の持ち主の感情だろうか。


だが、戦闘のさなか俺は笑っていた。心躍っていた。それまでの俺の中から湧いてくる異質な感情ではなく俺自身のうちから湧いてきたものだった。最後の駆け引き、相手を出し抜いたと確信した瞬間の優越感、その後の出し抜かれたときは悔しさもあったがそれをなした彼らのチームワークに賞賛すらしたい気分だった。



「そんな世界でまだ生きたいかい?」


感傷に浸っているとそんな声があたりに響く。周りを見回すがそこに広がるは闇のみ。その時気が付いたのは光源が一切ないこの空間で唯一俺自身の体は知覚することができていた。


「君はここではない世界から来たんじゃないかな。僕もそうだったんだ。」


誰がどこから語り掛けているのかは知らない。だが状況が読み込めない俺はその声を聞き入るように耳を澄ます。


「僕はね勇者だったんだ。この世界に来てからはね。魔王だって倒したんだよ。でもね僕の力は強すぎたし、人の悪意は底知れなかったんだ。」


人が強欲なのはいつの時代もそうだしどこの世界でもそうなのだろう。だが人のエゴや欲といわれるものは醜いが醜いだけが人の欲なんかじゃないと俺は心の中で思うが声の主の言葉を遮ることはしなかった。


俺は日本では無欲だと人から言われていた。だが俺にも欲はあるし俺なりの矜持もあった。しかし俺は他人の欲ってやつが理解はできても共感できなかった。


「僕は魔王を倒した後も人々の助けになるように行動してきたんだ。でもね。この世界にある脅威っていうのは魔物や魔王だけじゃなかったんだよ。人そのものが他人という要素が脅威であり続けるなんて、なんて破たんした世界なんだろうね。人は今まで幾度の脅威にも一致団結することで乗り越えてきたというのに。」


そんな性善説を信じてるからそんなことになるんだよ。自分の後ろ盾や立場が弱すぎるんだ。勇者なんて魔王倒したらお払い箱もいいところだろう。人がたがのついてない力を持つとそれは化け物なんだよ。味方じゃ決してないんだ。


「それは違う。人は醜い。だがだからこそ善であろうともし悪にも落ちるんだ。それはお前が勝手に抱いた幻想だ。」


「…。知ってるよ。君が言いたいこともそういう人間だっていうのも。ここはね僕の魂の中って言った方が分かりやすいかな。君の考えていることはずっと聞こえていたよ。でもねその持論(かんがえ)を言ってしまったら君の矜持に反するんじゃないかな?」


そうだ。俺はどちらにも組しないがどちらにも意見しないことを自分に課してきた。それは言葉に出してしまったらそれは俺の考えを人に押し付けることになってしまうからだ。そのことを俺は良しとしない。


「でもね。君のような人間ならきっと僕よりいい結末になったのかもね。だから、よみがえってみるかい?」


…え?それはどういう…。


俺が思考停止状態でいたのは一瞬であったが次の瞬間俺の視界には洞窟の無骨な壁が写っていた。


「疑問形のくせに答えを聞かずに蘇らせるとか。ま、せっかくもらった人生だ。後悔ないように生きよう。取りあえずここで一生ダンジョンマスターってのも嫌だしな。いっちょダンジョン逆攻略と行こうか。ラスボス攻略済みのダンジョンってのは苦行なだけなんじゃないか?」


(それなら僕の力を配下に分けて封印してあるから外に出るなら道中だし集めていこうか。)


…え?あなた生きてたの?すっかり死んだと思ってたよ。


(人格情報だけ魔力体に刻んであるだけから本体は死んだよ。)


「そうなのか。ちょっとしんみりして損したわ。」


(あはは。そんな空気だったからもうちょっと後で出てこようと思ってたのについ出てきちゃったよ。まぁ能力は僕のが基本になってるし、使い方も体が分かっているとは思うけど一応ナビとしてね。)


「お前の力って…。この死霊支配とかいうおどろおどろしい能力のことか?」


(そうそう。対軍用魔術で少数で動く勇者パーティでは重宝したんだよ?)


「およそ勇者が扱っていい魔術じゃないような…。」


(それはともかく試し打ちしてみようか。外に出ればすぐに魔物が出る領域だよ。)


「いきなり実践かよ。まぁこの力は文字通り身にしみて理解しているからな。」


愁の体は志限の体を再構成したものであるからこそその能力、勇者の能力を体が覚えている。


しかしその力がどういうものかとい言う知識はあれどその力を十全に引き出すための経験は大方人格形成のために志限に持っていかれたため熟練度に関してはそこまで高くはない。だが世界を脅かす脅威すらも打ち倒す力のポテンシャルはそれでもなお高い。





「にしても中も外もあんまり変わんないな。土の壁ばかりで。」


(あんまり住みやすくしても怪しまれちゃうからね。)


「他にもこんなダンジョンみたいなのはあるのか?」


(じゃないと偽装にならないしね。)


洞窟の中は思ったよりも明るくところどころに淡く光る水晶のような透き通った結晶が頭をのぞかせ最低限の明かりは存在した。


それでも真夜中の月明かりのごときそのあかりは頼りなくむき出しの岩肌の凹凸にはところどころ人ひとり簡単に隠れられそうなほどの暗がりが存在し油断は決してできない。


その危険極まりない状況の中でそうした余裕が生まれているのは愁の体に刻みこまれている魔法の一つ「徘徊する屍(ナイトボーン)」が周囲を哨しているからである。


「ここではどんな魔物が出るんだ?」


(この階層ではアサシネイトスコーピオンが出るよ。その魔物はスニークのスキルを持っていて真っ黒い甲殻を持ってるんだ。スニークスキルと尾の針で急所を突くまさに暗殺者なサソリだよ。たぶんナイトボーンじゃあ見つけられないよ?)


「それは心配ない。今は倒すことが目的じゃないからな。」


その余裕な態度に不思議に思っている志限の耳に何かが崩れる音が響く。その音に意識の先の愁がしてやったりと顔が歪むのを志限は感じた。


「サソリはそっちか。まだ会敵はしなさそうだな。」


また新たにナイトボーンを生み出し数メートル前を歩かせつつ目の前にある三つの分かれ道のうちの一つに視線を向ける。この音はナイトボーンが倒され骨が地面に落ちた音だ。固い地面は骨の落ちる音を響かせ、洞窟状の地形がその音を遠くまで運ぶ。こうして簡易的なレーダーが完成していた。


さらに志限の道案内により正しいルートを進んでいるので進行方向や交差路などの奇襲出来そうな場所を重点的に哨戒させているのだから基本的に不意打ちということがなく、通常の迷宮攻略とは比べ物にならないほどの逆攻略速度であった。


そうしていると目の前を歩かせていたナイトボーンの挙動が変わる。立ち止まり、何かに備えるように身構える。それは戦闘態勢に移行した兆候であった。


そのことで愁はアサシネイトスコーピオンが来たことを知り愁も戦闘態勢をとる。使う魔法を知識の中から選び出す。手を突き出し発動待機して相手が出てくるのを待つ。手を突き出す必要はないがそうした方が狙いがつけやすいのである。


そうこうしているうちに骸骨の尖兵の核が黒い槍の一突きで破壊され崩れ落ちる。その槍は一瞬で本体のもとへ帰還を果たすが既に目標を捉えた愁はその場所へと炎弾を放つ。


放たれた炎弾は洞窟の暗闇に影を落とす紫の火焔。愁が放った魔法は志限の死霊支配その能力ではなくその力が属する闇属性の中級魔法「腐食する炎(ラストフレイム)」である。


その炎弾はもどる漆黒の槍の軌道をなぞるように一直線にサソリのもとへと向かって着弾する。着弾した炎弾は爆発し強い閃光が岩陰の向こうから刺すがその光は一瞬で終わることはなく継続して燃え続ける。


腐食する炎(ラストフレイム)」はその名の通り相手を急速に酸化させる魔法でその炎は腐食するものがなくなるまでの間燃え続けるのである。五秒ほど燃えた跡には何も残っていなかった。



「この魔法は強いがオーバーキル気味だな。」


(それは普通生物相手に使うものではないんだよ。無機物の固いものを崩すのに使う魔法なんだ。)


「なるほど。つまり対戦車用の劣化ウラン弾を使うようなものか。」


対物兵器を生物に向けるとどうなるかアンチマテリアルライフルやC4爆弾なんかを人に使うようなものだと思ってくれればいいだろうか。そもそもの強度からして違うのだからオーバーキルなのは当然だろう。


こうして進路上に出てきたアサシネイトスコーピオンを倒しつついくつかの魔法を試していると目の前に最初の部屋の扉と同じようにシンプルで重厚な扉がそびえたっていた。


愁はその奥から突風のような重圧(プレッシャー)を感じていた。


道中に志限から聞いた話では配下全員が悪魔と呼ばれる種族でその悪魔というのはこの世界の三強に名を連ねる種族だそうだ。その中でも魔王すら倒す志限の配下だ生半可なものではないだろう。


「じゃあ扉をあけるぞ。」


その扉を開いた先には頭に王冠を頂く七つ首の化け物がいた――――。


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