異世界トリップ
ごめんなさい。不定期更新です。アスタリスクは基本場面の変わり目です。たぶんない時もあるかも。
辺境のダンジョンで一つの物語が終わりかけている頃人間国最大の国ナ・ヤーディル皇国の大聖堂にて。
空間をどよめきが支配していた。空間そのものが白くそれ以上に清浄でどこかちりちりとした空気が漂っておりそこに詰めた二十人弱からなる白いフードをかぶった人ごみの中に二人の男が中心の魔法陣の円の内部にいる学生服の少年少女四人と対面していた。
一人はシンプルな白いフードに身を包んだ神官達とは違って服装のベースは軍服に近く服に接続されたひもやボタンが金色でマントを左肩だけにかかるようにしている。起伏が多いが華美な印象は受けない一際オーラを放つ切れ目の初老の男であった。
もう一人は先ほどの男とは打って変わり服装は他の神官たちをベースにしてすこし装飾を増やした程度でゆったりとした服装だ。顔はしわが多く好々爺然とした老人である。
学生服の四人組が突然の事態に理解が追い付いてない様子を見た好々爺然とした老人が初老の男に目くばせをすると初老の男が話し出す。
「まず突然お呼びいたしましたこと申し訳ありません。使徒様方。次いで自己紹介をさせていただきます。こちらにおわすは人間国最大の国ナ・ヤーディル皇国が国教シルデニア教の教皇エルナンドス三世私は枢機卿ファルヴァス」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
学生服の四人組が未だ戸惑った様子でいるとすこし肩を前に押し出す枢機卿を手に持つ杖で制すと今度は教皇エルナンドス三世が口を開く。
「言葉は理解できていると思うが。できれば名前を教えてほしいのじゃが。」
その言葉に少し意識を取り戻す四人組。そして最初に言葉を発したのはそのグループのリーダーともいえる少年八柳祐樹。
彼は日本の高校、代来栖高校に通う普通とはいいがたい高校生である。この普通とはいいがたいというのは、こいつは学園一モテるということである。一言でいうとなんだかそんな大したことがないように思えるかもしれないが考えてみてほしいモテるとは単一技能では決してないのだということを。私たちがもし彼のような存在と対等な部分があったとしても私たちではモテることはできないのである。成績優秀・運動万能・さわやかスマイル。八方美人で誰にでも優しく世の女性どもを勘違いという地獄に叩き落とす死神。それが八柳祐樹という少年なのだ。
「言葉は理解できてますが…、お呼びしたということはあなたたちがここに呼び寄せたということでいいんですか?」
「まず名乗れといっ…。」
「よい。彼らも混乱しているのだ。状況を把握させてあげるのが先決だろう。」
業を煮やした枢機卿が学生たちに礼儀をわきまえろという意味の言葉を発しようとしたところで教皇の制止が入る。ついで口を開いたのは四人組のお母さん狩衣綴であった。お母さんというのは高校での愛称で面倒見がよく苦労性なところからきている。
「私たちは第来栖高校の学生で私は狩衣綴、最初にしゃべったのが八柳佑樹、これが荒嶋浩平」
そういって綴に指さされながら雑に紹介されたのは荒嶋浩平。彼は非常に思慮浅い。悪く言えば猪突猛進でさらに悪く言えばバカということになる。それでもなんとはなるほど身体スペックが高く高校にも部活動推薦で入っている。
「よろしくおねがいしゃす。」
礼儀作法はともかく基本的な礼節というものは全国区の部活動であればたいてい仕込まれているものである。
「そしてこっちが東篠梓乃さんよ。」
少々他人行儀に紹介されたのは東篠梓乃。先ほどの三人はもともと小学校からの付き合いでよくつるむ三人だったのだが梓乃は違う。梓乃はある意味佑樹とは真逆の人物と言える。才色兼備運動もそつなくこなし休み時間窓の外を見る姿は深窓の令嬢という言葉がふさわしいくらいに絵になっている美人だ。だが佑樹とは違って周りに人がない。一人すらもいない。これは佑樹とは違い八方美人にはなれなかったということだ。
「そうかでは状況の説明に移ろうかの。」
エルナンドス三世が続ける。
「まずおぬし達は我々に召喚された。細かい方法はいっても仕方ないから省くがの。我々の目的はおぬし達に大陸の脅威魔王の排除をお願いしたいそれは…。」
「ちょっと待って。それって私たちに戦えってこと?いきなり呼び出しておいて私たちに命を賭けろっていうの。」
「綴待つんだ。まだ教皇さんは話し終わっていないようだ。」
さすがにその理不尽さに堪忍袋の緒が切れた綴であったが佑樹の制止によって我を取り戻す。
「すまない。配慮が足りていなかったといえよう。改めて謝罪する。では我々の事情をはなそう。この世界はマルヤリスその中の人類国最大の国ナ・ヤーディル皇国がここである。そして少し前我ら教会は信奉する神より信託があった。その名を魔王。かつてない危機がこの大陸に訪れるだろうとのことだ。これに際して我々は使徒召喚の儀を執り行った。それによっておぬし達はこの世界に召喚されたのじゃ。召喚されたおぬし達の体は召喚の儀によってこの世界の人間が持ち合わせることができない才能がある。概要は以上だ今度はそちらの質問に答えよう。」
「ずいぶん身勝手な理由ね。まず神というのが実在しているかという疑問はこの際考えないとしてもさすがにこの世界の人類じゃあ対抗できないというわけね。でもこの世界の人類が対応できない問題だとしても違う世界の私たちにさせるっていうのはお門違いなんじゃないの。知ってる?私たちまだ成人もしていない子供なのよ。」
梓乃は先ほど激高しかけた綴と同じことを完全に言葉にした。そもそも戦争などとは無縁の日本の学生が戦えるかという問題もある。だがそれ以前に人として当然の権利を主張するのは当たり前である。ここではいそうですかと二つ返事で答えてしまっては足元を見られてしまうという打算もあった。この打算はもしかしたら元の世界に帰ることができないかもしれないという懸念だった。この懸念を素直に聞くのは話の流れ的にも四人の心の準備的にもできなかった。
「その通りだな。私らは最後の希望として古くに魔王を倒したといわれている勇者を召喚した儀式を掘り出し今回のことに当たった。今回このようなことになったのは私たちの思慮が欠けていたが故だ。だが私たちはあなた方が思っている以上に危機感を持って今回の事態に臨んでおるということをわかってほしい。」
「この魔王というのは決まった周期はないが歴史上大きな被害を人類または周辺種族に与えておる災害のようなものじゃ。それはもはやこの世界の常識となるほどに。今まででも幾度かの魔王を退けておるが今回はそれまでの比ではないことが分かっておる。我々が人類が生き残るために出費を出し渋ることがなくても足りないのじゃ。どうか一日考えてみてはくれないだろうか。もっと時間が必要というならば用意しよう。またこの国の城に宿泊してもらい衣食住は約束しよう。それは魔王討伐を引き受けてくれなくともじゃ。何はともあれ今は混乱しておるじゃろう。」
枢機卿が事情を話し、教皇がまとめた。話を切り上げるように言ったのはこれ以上の議論は転移してきたばかりの学生組には重すぎる話だと判断したようだ。
「分かりました。一日くださいそれ以上時間がかかる場合にもその旨は後日お話しします。最後に一つ魔王討伐を受けなくても王城に滞在できるというのは帰る方法はないということでしょうか。」
これまで学生組が常に片隅で懸念していたことを佑樹が問う。その情報は魔王討伐をするしないにかかわらず必要な情報であったが誰も聞こうとしなかったし、教会側もあえて突っ込むようなことはしなかった。ただ最後の教皇の言葉によって帰れるという可能性はほぼ潰えたといっていいだろう。
「すまぬ。おぬしの言う通りわしらではおぬし達を元の世界に返す方法はない。使徒召喚の儀自体文献が散逸しており魔方陣と儀式内容のみで理論はわからず使っておる代物じゃ。だからおぬし達を還す方法をわしらは持ち合わせてはいない。だからこそせめてもの謝罪の気持ちと思ってくれれば幸いじゃ。」
「そうですか。ありがとうございます。では明日。」
そういって佑樹は頭を下げ教皇の指示によって王城に案内されていく。それに続く三人組。しばらく虚空を見つめていた梓乃も歩き出し教会の大聖堂は剣呑な雰囲気から解放されところどころから長い息を吐く音が聞こえた。
*
「みんなはどう思う。」
各人にはそれぞれの部屋が割り当てられそこへ通された後一時間ほど経った頃に各部屋に佑樹が訪ねてきて“これからのこと”について話したいと皆を集めた。
「魔王を倒すかどうかってことね。」
「ああ。だがそれだけが問題じゃない。魔王を倒すとして倒した後、魔王を倒さないとしてこれからどうするかだ。」
「魔王を倒したその後の人生と魔王を倒さないとしてその脅威には巻き込まれるという問題ね。」
佑樹の問いに綴が答えさらに具体的な問題を梓乃が言葉に出す。そう、問題は魔王という問題のその後なのだ。
ここは彼らにとって現実であり小説のように魔王を倒しましたはい、大縁談。終了です。というわけにはいかないのである。この選択は座して死を待つか戦って死ぬかという選択に違いはない。重い空気が部屋に充満する。
各人誰も本当の死について考えたことのない日本の学生なのである。
異世界にきて教皇や枢機卿と話しているときは混乱が先に立っていたが改めて自身の置かれた状況を見てみると確かに理不尽な拉致だったとしてもここは異世界、世界を脅かす脅威、それを打ち破る才能という物語の主人公のような思春期の人間にとって夢のような環境なのである。
そのまま時は過ぎもうすぐ話し合いが始まって二時間半といったところ。そんな夢と未知の狭間で揺れているとこの重い空気を破るように浩平が話し始める。
「結局さ。どっちにしろ魔王と戦わなきゃなんねーんじゃねーの?だったら俺らに与えられた才能ってやつで本当に倒せるんなら倒しちまえばいいじゃん。」
そんな風にこともなげに言った浩平の一言で佑樹がハッとする。
「事はそんなに…いや、そうだな。みんな。俺は魔王討伐に参加しようと思う。俺たちは確かに理不尽に連れてこられたかもしれない。与えられた才能ってのがどんなものなのかも明日以降にならなきゃ俺たちにはわからない。でも、俺たちは必要とされているんだ。そして帰ることができないならどっちみちこの世界で生きるしかなんだ。だったら自分の身は自分で守れるほど強くなろう。みんなどうだろう。」
佑樹がそういうと綴はまぁそうなるだろうなといった感じの表情でされど否定するでもなく視線を幼馴染に向けるだけだった。
そんな佑樹たち三人をどこか冷めた目で見ているのは梓乃だった。
「そもそも敵は本当に魔王なのかしら…。」
そう呟いた梓乃の声は誰の耳にも届くことはなかった。
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