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最終階層

 目の前には中心に太陽とそこから差し込む光の装飾がなされた重厚な扉がそびえたっていた。その扉の内側からは激しい剣戟が聞こえる。


 中では三人の人間と一体の異形が戦闘を繰り広げていた。扉の反対側からは絶えず青紫の炎が燃え盛りその奥に悠然とたたずむ一体の異形。その炎からは次々と骸骨が生まれては袈裟懸けに横一文字に縦に切り裂かれ爆裂し凍り付かされ雷撃に砕かれている。だが互いに決定打になるものはなく膠着状態に陥っていた。


 このままでは魔力総量で劣る三人組がいずれ敗北することはほぼ確実だ。焦りから前で戦っていた剣士は勝負を決めにかかろうと周りの骸骨の脇をすり抜けるように駆け出す。異形もまた剣士を迎え撃つべく自身も魔力を練りあげる。後ろの二人は突然走り出した剣士を咎めることはなくフォローすべく疲労の溜まった体に鞭を打って魔法を連続行使する。後衛の二人にしてもこれ以上膠着状態が続くようなら活路を開くための一か八かの賭けすらできなくなることはわかっているのだ。


 しかし次の瞬間異形は剣士に目もくれず魔法に集中している二人に視線を向け魔法を放つ。剣士のフォローに集中していた二人はその攻撃に対応することはかなわず直撃を受けてしまう。とはいえ異形は剣士の乾坤一擲の剣に対応するために魔力の大部分を割いているのであるから行使した魔法が最低級の魔力弾であったことが幸いし後衛の二人は疲労とダメージにより戦闘不能に追い込まれるが今のところ死ぬことはない。


 剣士は自身を飛び越え飛んでいった魔力弾とその後の二人のうめき声に内心舌打ちをしながら未だ突破できていない骸骨どもの壁ごと技を放つか一瞬の葛藤ののち技を放とうとしたその瞬間______。


 目の前の青紫と白の壁が剣士の目の前だけ一瞬で晴れ斬線を確保するように視界が開けた。それによって戦闘に突入してから白骨の壁によって遮られていた異形の偉容が迷宮の主たるその威圧感がいきなり晴れた視界がその思考をまた一瞬遮り致命的な隙となる。


 その隙は異形が仕組んだものだった。剣士の背後の足元から足を貫かれた剣士は衣面に縫いとめられた。剣士の足を貫いたものは拡大され数瞬前まで骸骨の壁があった位置まで広がっていた異形の影が棘状になったものだった。次いで脇に未だ召喚をキャンセルされていない骸骨たちが剣士の体を取り押さえていた。度重なる揺さぶりによって剣士の集中力は切れその刀身にて煌々と輝いていた光は力を失っていった。


 異形の歪むことのないその頭蓋骨に接続された白い下顎骨を歪めあたかも笑みを浮かべているように幻視させ、剣士の敗北を告げるように練り上げた魔法を前方に向かって放った。


 異形の放った魔法は燦々と輝き地上を照らし続ける太陽の光のように真っ白な濁流を発生させた。


 その光に剣士の脳内には走馬灯のように仲間たちの馴れ初めから今までの数々の冒険が走っていた。その光の圧倒的な熱量は自分たちが全力で守りに専念してもとても抗しきれない魔法だ。この異形は最後嘲笑っていたのだ自分たちを。人の最大の武器である数や戦略でさえも勝るものなど最初からなかったのだと。


 浄化の光の濁流はに至近距離にいた剣士は言わずもがな周囲にたむろっていた骸骨をも巻き込み扉の脇に倒れていた二人の魔法使いまでも押し流していった。





 目を開けるとそこはどこか薄暗い空間だった。建物の中のようだ。目の前には小規模な体育館くらいの空間が広がっている。正面には重厚そうな扉があり装飾はあるが最低限で中心に太陽のような球体がありそこから放射状に15度くらいの間隔で6本線が走っている。あたりを見渡してみると燭台のようなものに球状の明かりがぼんやりとともっていた。


 見回してみて違和感があることに気が付く。視線が高いのだ。自身の身長は175cmと言ったところで扉の大きさと空間の広さからして周囲の燭台に目線が近いということはないだろう。気になって目線を下げてみるとまず視界に入ってきたのは段差だった。ついで自身の手と椅子らしきものの肘掛だった。よく考えれば自身の後ろには背もたれらしき硬質な感触が最初からしていたのを今更ながら気が付く。どうやら俺は部屋の隅から放射状に半円に近い形を描く五段ほどの段差の上で座っているらしい。


 意識が覚醒してから早30秒ほどが経っていたが今更になってこんな状況に陥っているのかが俺には分かっていなかった。しかし俺の理性が発する警鐘はなぜか瞬きをする間に霧散していった。その事実にまた疑問に思いながら自身には何か使命のような何か頭の中の芯に打ち込まれていて自身のアイデンティティがしっかりあるような安心感があった。


「俺はこの場を守護していればそれでいいのだ。」


 頭の中で考えても決して言葉になることのなかったその一言は口に出すとすらすらと出てきた。そこで初めて頭の中心に打ち込まれている芯の正体が何なのか認識することになった。


「そうか俺はここを守護するために存在しているのか。」


その言葉は自身の記憶からすると突拍子のない理不尽な使命であったがそれは魂の中にすとんと落ついていた。


 俺はかつて、日本の大学生だった。とある理系大学の二年生で見た目は普通。モテたためしはない。頭もそんなにいい方ではなく趣味はweb小説やライトノベル、ハードカバーとアニメ、マンガと活字だけでなく所謂ジャパニメーション系のエンターテイメントを総じて制覇しているようないたって健全な青年だった。そのころからの記憶からすれば薄暗い洞窟か何かに拉致監禁されている現状に不平不満を高々と叫んでもいいはずなのだが不思議とここが自室のような安息感があるからか感情の閾値が上がることはなかった。


 しかしその疑問を本気で問題視していたならば今置かれている状況にいくつかの推測ぐらいは立っていただろう。数々見てきたものに“こういう展開”は腐るほどあったのだから。


 それからいくばくかの時が流れただろうか。体感ではそれほど経っていないように思う。扉からズズズと長年開かれなかったことをうかがわせるように隙間にたまった土埃と摩擦の大きい石の擦過音が部屋全体に響く。


 その扉の向こうからは中世の鎧のようなものをまとったものといかにも魔法使い然としたローブを着込む女性達が六人一組となって入ってきた。鎧を着ているのは三人それぞれ盾と両刃の直剣、身の丈ほどの戦斧、所謂スピアと呼ばれる短槍を握っていた。そしてローブを着込んでいる女性が三人だ。女性は各々違った意匠のローブをまとっているが基本的な装備構成は一緒である。


 その姿を確認すると俺の中にどうしようもなくどす黒い何かが湧き上がってきた。因縁の相手でも見つけたかのような復讐の炎が。なぜ見たこともないおそらく人だろう者たちに向けてこのような感情が発生するのかという疑問は湧き上がる劇場に押し流されていった。


 彼らはすぐさま陣形を整えると魔法使い然とした女性はすぐさま魔法の詠唱を開始する。そしてその女性の纏う光が六人全員にいきわたったころ鎧を着た前衛とみられる三人が俺の懐めがけ飛び込んできた。だが俺は息をするように自然と彼らの突進を拒絶していた。彼らが人間の脚力を超越した突進力で迫っていようとも約10mほどの距離を走破するまでに俺の魔法は完成している。


「出でよ僕ども。」


 俺の周りには闇色の炎が立ち込めてその中からは骸骨の僕が計七体這い出てきていた。炎の中から這い出てきた骸骨の伸びた腕が前衛の剣士のと鍔ぜりあい、斧と槍使いも同様に勢いが乗る直前であった攻撃は骸骨の骨を断ち切れないでいた。出ばなをくじかれた形になる相手のパーティはとりあえず目の前の障害を排除しようと俺から視線を移し骸骨どもに駈け出そうとしたところだった。その時俺は彼らには目を向けてはいなかった。俺は後ろの魔法使いと目があう。


「ミーシャ!」


 そう名前を叫ぶ女性特有の甲高い声が部屋にこだますると同時に何かが倒れる音もした。俺と目があった女性はミーシャというのか。俺の使った魔法は名づけるならばマインドクラッシュと言ったところか。体を流れる魔力を事象に変換せずに相手にぶつけ詠唱中の魔法を吹き飛ばしたり魔力の量によってはあいての意識を刈り取ることもできる。戦闘が始まってすでに二つ魔法を使っているが違和感や不自然な感じを受けることはなかった。この体はこの魔法の行使に関して長年の慣れがうかがえた。


少し前までひどい激情に駆られてノイズのような頭痛すらしていた頭は戦闘が始まると同時に嘘のようにクリアになっていた。周囲の情報がよくわかり相手の行動やその人物が宿す感情までも手に取るようにわかる。そして自身のうちを流れる膨大なエネルギーと行使できる魔法が手に取るように把握できていた。


一人倒れた女性は強化の魔術を使う魔法使いだったようで前衛組の纏う光が消えると途端に鎧の攻撃手は動きが鈍り徐々に青紫の炎から生み出され続ける骸骨どもに押され始めていた。


 俺は好機とみて仕掛けた。己の影を伸ばし前衛の剣士の足を奪うべくその大腿部に棘を伸ばしたとき、不自然にその棘が剣士の大腿部に刺さる前に中空で動きを止めた。


 その不可思議な状況に俺は動揺した。その一瞬の隙を前衛の三人は最初から分かっていたかのように骸骨の壁を砕いて今までと比べ物にならないくらいの速度で進んできている。


 斧使いが地面に斧をたたきつけ衝撃と礫によって眼前の最後の骸骨の障壁を打ち破っていた。その体には先ほどミーシャと呼ばれた少女が使っていた強化の魔法の光が兜の隙間から覗く刺し貫く眼光と相まって威圧となって俺の体を突き抜けていた。


 骸骨の障壁を一点とはいえ突破した前衛三人は俺に直接攻撃するために間髪入れずに追撃を敢行する。しかし斧使いは先ほどの大技のせいで死に体だ。なので必然その後ろに控えていた槍使いと剣士が飛び込んでくる。槍使いが数瞬剣士よりも早くその穂先に爆裂の魔法を乗せ突きを繰り出してくる。それを迎え撃つのはあらかじめ俺の周囲に展開されている対物対魔法障壁だ。一瞬の拮抗ののち槍に纏った爆裂の魔法によって対魔法障壁が吹き散らされる。


 対物対魔法と言っても、一つの障壁でそれをなしているわけではない。これは力場魔法によって物理をそしてその障壁に魔力の嵐をまとわせることによって相手の魔法を吹き散らすというものだ。一点集中の爆裂魔法の威力にはさすがに面防御では抗しきれず破壊されてしまったが、未だに物理障壁は生きている。


 自身の爆裂魔法の爆風の反作用によって部屋の半分ほどにまで吹き飛んでいく槍使いをしり目に満を持してラストアタックを任された剣士が眩いほどの光をほとばしらせた剣を振りかぶっていた。


 一方俺は槍使いが障壁に攻撃を加えた音で我に返り迫る剣士の威圧感に慌てて自身の最大術式を展開する。


 それでも茫然自失に陥っていたタイムラグは決定的な遅延で術式が展開しきったころには相手の剣は振り切っていた。魔法によって強化された斬撃はほぼ抵抗させずに対物理障壁を切り裂いていた。


 斬撃はその輪郭を視認することすら叶わず俺の体を抜け後ろへ通り過ぎていく。


 だがほんの少し。一瞬のこった意識で完成していた術式を放つ。技を放った剣士は飛ばした斬撃と一瞬にも満たない障壁との拮抗によって重力加速度が打ち消され中空にはりつけにされていたためその術式をよけることはできなかった。


 俺は直撃を確信しあざ笑うかのように笑みを浮かべる。


 だが俺の表情は棘の時と同じく驚愕に染まる。先ほど放ったすべての色を内包した白光は剣士を飲み込む直前剣士の目の前で光が円形に現れた。衝突する光と光。


鏡撃盾(ミラーシールド)


 跳ね返された純白の光が未だに照射されている光を打ち消す無限ループ。


 数秒続いたループも終わり剣士の前に未だ残る鏡面はあらゆるものを跳ね返す。目の前にある光景さえも。


 そこに映るのは当然俺の姿だ。


 後ろに背もたれが嫌に長いともすれば玉座のような椅子が写り、それよりも手前には異形が立っていた。それが俺なのだと頭ではすんなり納得している自分がいたが違和感はそこで制限を超えた。


 この状況。薄暗く窓もない地下空間。 少人数で統一性のない装備。魔法。およそ現代日本や周辺諸国で使われているような武装ではない。さらにこの俺の異形。どう見ても生前読みふけっていた異世界(ファンタジー)じゃないか。


 そして魔法の鏡には奥に続く階段のようなものは写っていない。長い背もたれの豪華そうな椅子の後ろにはこの空間を仕切っている壁だけがある。


 つまり、おそらくここはダンジョン。そして俺はラスボス___。


 そこまで思考した俺の目の前には再び剣に光を宿す剣士が体を右肩を前にした半身で剣を両手で持ち左半身側に引き寄せあとは技を放つ構えでいる。


 次の瞬間には俺の目が白い光に焼かれていた。剣士の放った斬撃に乗せられた魔力が俺の体を吹き飛ばしていく___。


 

一話完。さて、主人公が熟練冒険者に殺されてしまいましたので次回からは異世界トリップしたはいいけど銃とか畑作とか現代日本のチート知識がすでに既出していて無双出来ない「異世界トリップしたけどチート何て無かった。」をお送りいたします。こう御期待ください。

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