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学校に入学しました

 昼下がりのキオワ国王都ジュリーニアは今日も賑わっている。通りにはたくさんの屋台が出ており芳ばしい匂いが漂い喧騒が飛び交い、店の種類は様々で高級店舗から庶民的な値段の店がありどの店も人で賑わいを見せ、少し通りから外れれば小規模な店が並んでいる。


「おぉ~!ここが王都か父さん!うまそうな匂いがするな!」


「そう毎日食い物に金を使うなよ。俺が付き添うのは今日だけなんだからな。」


「わかってるって!」


 旅装をした二人の男が通りを歩いている。一人は屋台で売っている食べ物を片っ端から食べ、もう一人はその様子を不安そうに見ている。

 二人が都心に向かって歩いていると


「誰かーー!そこの泥棒を止めてくれーー!」


  声のした方を見ると何かの袋を抱えた若い男が人をはね飛ばして走っていた。通りを歩いていた者達は殴られないように慌てて道の脇によけている。

 その様子を見ていた二人のうち食べ物をモグモグと頬張っていた黒髪の若者はゴクンと咀嚼していた食べ物を飲み込むともう一人の茶髪の男に話しかける。


「父さん。あれって止めた方がいいよね?」


「止めた方がいいが目立つぞ。」


「余計にいいじゃん!これから俺ここでお世話になるんだし。」


「そうだな……。怪我をするなよ。」


「ははっ。俺が怪我するわけないの父さんが一番わかってるだろっ?」


「過信はだめだがな。」


「じゃあここで待ってて!」


 黒髪の若者はその黒い片目をぱちっと茶髪の男にウインクをすると袋を抱えた若い男に近づいていく。先ほどまで人の海のようだった通りの真ん中を若い男が必死の形相で走っている正面に黒髪の若者はゆっくりと歩いていく。


「おいテメェ退けよぉぉぉぉぉぉ!邪魔だろうがこの野郎ぉぉぉ!!!」


  若い男は黒髪の若者を殴ろうとした瞬間彼の視界はひっくり返る。ぐるんと目の前の景色が回ったと思うと背中からドサッと硬い石畳に落ちた。

目が回ってしばらく動けない彼は両腕を取り押さえられ駆けつけてきた街の自警団の男達に引き渡された。

  若い男を自警団に引き渡す頃になってやっと品を盗まれた店主がはぁはぁと荒い息を吐きながら駆けつけた。店主は息を整えて


「ありがとうございましたっ。その男には他の店の者達も困っておりまして。取り押さえてくださり感謝します。」


  黒髪の若者に対して礼を言う。黒髪の若者はにかっと笑うと


「いいってことよ!商品が帰ってきてよかったな!」


 そう言い茶髪の男のところへ向かう。


「父さんお待たせ。あっ!あの果実すげぇ!ねばねばした液垂れてる!食べてもいい?」


「サラル。あれは食用じゃない。諦めろ。」


 この二人は成長して12歳になったサラルとサラルを王都のマリン学園に入れるために王都までついてきたマルシであった。


*********************************



  ん~!最高!この街うまい食べ物で溢れてる!もっと早くに来ればよかったなぁ。途中、男を取り押さえるというアクシデントがあったものの俺は上機嫌で歩いている。

  異世界(こっち)にきてから12年!自分の一人称は俺に変わりました!黒髪黒目って日本人の特徴そのままだけどねっ!

  マルシさんのこともいつの間にかお父さん呼びになっちった。本人は嫌がってないみたいだからいいんだろう。

  それにしてもマルシさん年取ったはずなのにかっこよさが変わらない。どちらかって言うと増してる。渋い大人の男のエロさが加わってますます男前になっている。

 俺前は女だったから他の女の人が羨ましいね。まったくなんで結婚しないのかが疑問だね。


 しばらく歩いていると通りから大きな広場に出た。ちょうど他の三本の通りと繋がっていて十字路のような感じで広場の中心には噴水があり噴水の真ん中には何かの像が立てられている。


「ここから右の通りに入るとお前がこれから通うことになるマリン学園、まっすぐ行くと王城、左の通りには住宅街に通じている。学生は基本的に全領土から集まるのだからお前と同じ寮に住む者が大多数だろうな。」


「へぇ~父さんよく知ってるね。」


「一応ここの卒業生だからな。」


「そうだったんだ!ねぇ、とうs」


  思わず足を止めてしまった。マルシさんは怪訝そうな顔をして俺を見る。


「どうしたサラル。腹痛か?」


「あれって……何の像?」


「ん?あれはべリアル神の像だ。」


 あの自称神様べリアルっていうのか。てかべリアルって元の世界じゃ悪魔じゃなかったっけ?あっれーおっかしいなー


「……あの神様は何したの?」


「昔巨大な魔物に世界が覆われた時にこの国の王を助けたらしい。去るときには退魔の剣を2本授けてくれたしな。」


 なんかいいことしてるじゃん。ちょっと見直したかも。絶対許さないけど。


「王の前に降臨した時に言った言葉は有名だな。」


「何て言ったんだ?」


「美女を一人よこせ!だそうだ。」


「………………」


 うん。やっぱムカつくわあいつ。俺を殺したの絶対ブスだからだ。死ね。マジで死にやがれ。


「退魔の剣を授けてくれただけでも感謝しないとな。」


「退魔の剣?」


「ああ。唯一魔王を殺すことができる剣さ。確か11年前に前の魔王を召喚された人間が殺したらしい。そいつも今の魔王に殺されてもう死んでしまったがな。今は誰が持っているのかは知らないな。」


 大変だなぁ剣を引っこ抜いた人。てか魔物が存在するんだ。初耳だな。


「もうそろそろ歓迎の式の時間だ。急ぐぞ。」


「ん~!」


 先ほどマルシさんが説明していたマリン学園に通じている右側の通りを歩いていく。

 なんで俺が王都にいるかっていうと1ヶ月ぐらい前に住んでいる家から少し離れた隣町でマリン学園の入学試験を受けた。狭き門~とかいうのが受験生へのフレーズだったけど試験は簡単だった。マルシさんのスパルタ特訓のお陰かな。ハハハ……

  楽々合格した俺は今日からマリン学園の寮に住むことになっている。今まで住んでいた家からじゃ遠すぎるんだよね。帰るのに2日かかるんだよ。できればマルシさんから離れたくなかったんだけど。こればっかりは仕方がない。マルシさんは今日の歓迎の式とかいうやつに出てから家に帰るんだそうだ。俺が何かやらかさないか心配らしい。


 そうこうしているうちにマリン学園の門にたどり着いた。石で作られた校舎は所々苔むしていて校舎が過ごした年月を感じさせる。想像とはちょっと違うけどいい感じだな。


 警備員のおじさんに保護者の方はこちらです。とマルシさんが引っ張っていかれた。ちなみに俺は先生に生徒が並んでいる列に並ばされる。

 おお!この感覚は久しぶりだなぁ。同年代の子供がこんなに揃うのを見るのは異世界(こっち)に来てからは初めてだ。髪や目の色は様々だ。茶や青やら赤とか紫まである。

 しばらくすると前の先生がなにごとか言ってぞろぞろと列が動きだす。

 俺の前に並んでいるのは俺よりも高い背の高さの赤髪の男子だ。1回も後ろを振り向かないからどんな顔なのかはわからない。

 俺の後ろに並んでいるやつもこれまた男子で金色の髪と碧の目のコントラストが非常に綺麗で鼻筋がすっと通って薄い桃色の唇いる顔は12歳だというのに色男の片鱗を見せている。今からそれだけの素質があるってのは怖いことだな。お前何ていう名前なんだ?と一応声をかけてみると


「よろしく。僕の名前はワルト=ギュテア。君の名前は?」


「俺?俺はサラル。ワルトこれからよろしくな!」


「うん。でも今日の行事は嫌だね…。」


「なんでだ?ただの歓迎の式だけだろ?」


「サラルは知らない?僕は兄がここの学生だから知っているんだけどここの新入生男子は男子の先輩達に歓迎の式の後に一人ずつ指令を言い渡されるんだ。その指令を成功できなかったら講堂に行くまでの通路の柱にパンツ1枚にされて朝の朝礼までくくりつけられる。講堂に行くまでの道は一本しかないから女子の学生にも見られるんだ。もちろん参加しなかった学生は有無を言わさずにくくりつけられる。恥ずかしいよね。」


「なんだそれ。先輩の嫌がらせかよ。兄貴の年だけで今年はないんじゃないか?」


「いいや。50年間続いている伝統なんだって。なんでも50年前の先輩が新入生にいたずらをされてその仕返しにやったのが始まりでその仕返しをされた後輩も次の年に入ってきた新入生に同じようにしてからだんだんそういう習慣になったらしいよ。」


「どんな伝統だよ……」


 悪しき伝統だな。つーか何させられるんだよ!その内容によるな。先輩達も新入生一人一人にミッションを用意するとかどんな暇人だ。


 講堂に入った俺達新入生は先輩達や保護者達の拍手で迎え入れられ、そのまま立ちっぱなしで学園長のクソ長い話と6年生首席の男の先輩からの激励の話を聞かされる。

 どうでもいい話だったけど周りの女の子達がうっとりとした顔で首席の先輩を見ていた。たしかにイケメンだけどね?性格はどうかわかんねぇじゃん?

 首席の先輩の話が終わると式は終了となり他の学生は保護者のところに散らばっていく。

 マルシさんどこかな~と見回すと奥様方に囲まれていた。おいおい奥さん。あんた達結婚してるっしょ。浮気はイカンよ。ほら、マルシさんも困った顔してるよ?あ、マルシさんと目が合った。マルシさんは奥様方に


「失礼。」


 と目礼をしてから俺の方に歩いてきた。


「父さんって大変だな。俺は関係ないけど。」


 マルシさんは珍しくぐったりとした顔をしている。


「同窓生達と挨拶をしていた。お前はここで上手くやっていけそうか?」


「うん。さっき話しかけたやついいやつだった。俺に新入生への伝統のことを話してくれたんだぜ?」


「まだやっているのか。サラル、あれは絶対に失敗するなよ。恥をかくだけだからな。」


「ああ。ほどほどに頑張るよ。」


「俺は家に帰る。何かあれば手紙で知らせるんだぞ。」


「父さんも道中気をつけて。」


 マルシさんに手を振っているとちらっと一度こちらを振り返ったマルシさんは軽く手を振りかえしてくれた。

 事故らなきゃいいんだけど。

 マルシさんの姿が見えなくなるまでマルシさんの後ろ姿を見送っていると


「あの人がサラル君のお父上なの?」


「ああ。俺の自慢の父さんだ!」


「仲がいいんだね。」


「なんでそう思うんだ?」


「さっきサラル君とサラル君のお父上の会話をしている様子を見ていたら簡単に想像がつくよ。」


「そんなもんなのか?」


「うん。いいな。僕なんて大した期待もされていないからお父様もお母様も式にご出席して下さらなかったよ。」


おいおい。仮にもここは王都の名門校マリン学園だぞ?ここに受かっていても期待されないってどういうことだ。


「お前の母さんも父さんも用事で忙しいだけなんじゃねぇの?子供の入学式に来たがらない親なんていないだろ。」


 ワルトは少し遠くの方を眺めながら話し始めた。


「お父様は事情があって来れないんだけどね。僕には優秀な兄上がいてお母様はそんな兄に夢中なんだ。それに僕は……」


「僕は?」


 ワルトは黙りこんでしまった。彼にとって嫌なことを聞いてしまったみたいだ。悪いことをした。


「ごめんなワルト。初対面の俺に無理して言わなくてもいいんだぜ?誰だって聞かれたくないことはあるもんさ。」


 俺にとっての自称神様べリアルみたいにね。


「俺に話したくなったら言ってくれればいいんだしな。」


「そう言ってもらえて嬉しいよ。」


 先ほどまで曇っていた顔がパアアっと晴れる。眩しい!眩しいよその爽やか笑顔はっ!ほら、あの女の子なんかその顔見て失神してるよ。笑顔だけで人を失神させるとかどんだけ威力あるんだよ。俺みたいな凡人にはマネできんわ。


  バタバタと女の子達が倒れていく中、にこにことしていたワルトだったが急に笑顔がさっきの暗い顔つきに変わる。どうしたんだ急に。俺何もしてないよな?

 俺がアワアワと目を泳がせていると聞いたことのある声が俺の背後から響いた。


「こんなところにいたんだなワルト。」


「……兄上。」


 振替ってみるとさっきの歓迎の式でスピーチをしていた6年生首席の先輩が立っていた。先輩の回りには女子生徒がたくさん群がっていて俗に言う取り巻きやらハーレム?か?

 ワルト、首席の先輩が兄貴だったんだ。たしかに優秀だわな。首席だもの。でもこの人なら弟とか可愛がりそうなのにな。そんなに暗い顔しなくたっていいだろうに。劣等感ってやつなのかね。


「お前のような出来損ないはすぐにこの学園を立ち去ることになるだろうな。せいぜい足掻けばよいわ。」


 すいません。首席になったぐらいだから人格も出来てると思ってました。悪くて俺様キャラかなぐらいにしか考えてませんでした。

人を見かけや肩書きで判断してはいけない!絶対!


「激励のお言葉感謝いたします。」


 えええええええええええっ!どっからそうなるの!さっきのけなしてしかなかったじゃん!どこに激励の要素があったわけ?え?もしかして俺だけしかそう聞こえてないの?俺耳おかしくなったのかな。


「ウィー様はなんてお優しいのでしょう!常々おっしゃっていた愚かな弟君にも励ましのお言葉をおっしゃるなんて!流石我がキオワ国第一王子であり退魔の剣を抜かれた御方ですわ!」


「ありがとうオネバ。そこの君もそれとは付き合わない方がいいぞ。」


 自分の弟のことをそれって言うのはどうかと思いますがね首席野郎。お前の性格ねじ曲がっていることは確かだからお前がおかしいんだよ。馬鹿にするのもほどほどにしやがれ!

 落ち着くんだ。首席相手に喧嘩を売ったら元も子もねぇ。ああっ。無理だ!ムカついて仕方ねぇ!そうだ!久しぶりだけど俺の好きなセイルさんを演じるか。TVであれだけ見たお陰か12年経っても鮮明に覚えてるしな!

 さあ、セイルさんならこんな時何て言うだろう。


「ワルト、この学園に留まるのなら我の目に止まらぬように過ごすのだぞ。汚物は目に入れたくないものだからな。」


 ワルトは顔をうつむけて小さく


「はい。」


 と返事をする。はいって言わなくたっていいじゃないか。


「なんだって?声が小さくて聞こえないのだが。」


「いいえって言ったんですよ先輩。」


「なんだって?」


 首席野郎の目がワルトから俺に移り変わり鋭い目付きで睨み付けられる。


「ですからいいえと彼は言ったのですよ。」


「ほう。そのように我は聞こえなかったのだが。」


「そうなのですか?声が小さくて聞こえないとおっしゃっていたようですが。」


「…………」


 首席野郎の顔がどんどん強張っていく。今まで楽しく弟を虐めてたのに俺に横槍をさされたからだろう。俺は正論を言ってるだけだから女の子達の前じゃ怒れないしね。っていうかさっきから首席野郎がここにいるだけでたくさんの保護者とか先生、生徒達に見られてるんだよね。視線が集まること集まること。


「ウィー様がお話ししているのに何口出ししてるのよ!黙りなさい!この庶民風情が!」


「お言葉ですがここの学園内では身分差など関係はないのでしょう?パンフレットにそう書いておりましたが。」


 まあ実際は身分差での違いは必然的に出るだろうけど。でもこういうときは利用しないとね。


「(パンフレットって何?)うっ、五月蝿い!ウィー様!この下人非常に礼儀を知らないようですわ。懲らしめてやりましょう!」


「オネバ、新入生なのだから許してやろうじゃないか。これからきっちり教えてやればいいのだから。これで失礼するよ。」


「あっ、お待ちになって!」


 そう言って俺の前から立ち去っていく首席野郎と取り巻きの女達。これだけ大勢の人がいる前で首席がこれ以上の失態は見せつけたらあいつにとって終わりだろうしな。俺の中じゃクソ神の次に気に入らないけどな。

 あ~あ。マルシさんにほどほどにするって言ったのに入学早々やっちゃったな。憧れのセイルさんになりきるまでに俺の神経がもたなかった。素で言っちまったよ。首席に喧嘩を売るとは。やばいな俺のスクールライフ。


「ごめんねサラル君。僕のせいで兄上に目をつけられてしまった。」


 ワルト君よぉ、そんなにしょんぼりしなくてもいいんだぜ?例えるのならあれだ。尻尾と耳を垂らした子犬だな。


「いいんだよ。俺が好きにやったことなんだから。あんなこと言われたら怒っていいんだぞ?

それとさっきお前の兄貴の回りにいた女が言ってたけどお前の兄貴が王子ってことはお前も王子ってことだよな?」


「そうだね。僕はこの国の第二王子さ。僕が王子って知らなかったの?」


「ああ。知らなかった。お前ってそんなに有名なのか?」


「みんな僕の姓を聞いた時点で王族だと気づくし、僕のお母様は有名な人だから。」


「ギュテアって王族の姓だったのか。俺今までずっと森で暮らしてたから情報には疎いんだよ。」


「森で暮らしてたんだ!森の暮らしって不便じゃないの?」


「たしかに不便だな。でも父さんと一緒に暮らしてたから対してそう感じなかったぞ。」


「お母上は?」


「俺は小さい頃から父さんと二人で暮らしてきたんだ。母さんっていう存在は俺の近くにはいなかったかな。」


 たぶんあの黒髪の綺麗な青い目をした女の人が俺の母親なんだろう。あの人どうなったんだろうな。


「そうなんだ……。僕も母上の顔を覚えていないんだ。」


 ん?俺は母親の顔覚えてるぞ?ちょっと誤解されてる気がするな。それにこいつさっき『お母様は兄上に夢中なんだ。』って言ってたよな?俺が赤ん坊の頃の記憶持ってるなんて口が裂けても言えないけどな。


「お前さっきの話でお母様って言ってたじゃねぇか。」


「僕の母上は騎士の一人と恋仲になって駆け落ちしたんだ。さっき言っていたお母様は兄上の母上のことなんだ。元々僕の母上は側室でお母様は正室なんだ。だから駆け落ちした側室っていう話でとても有名なんだよ。」


「で、お前はあの兄貴の母親に必要以上に虐められたのか。」


「そう……なのかな。今までずっと他の子達には冷遇されたし兄上の影響で周りに人が集まったことがないんだ。だから君が話しかけてくれた時凄く嬉しかったんだ。」


 兄貴怖っ!親の権力を使ってる気がする。ワルトずっとボッチだったのか。可哀想になぁ。でもちょっとこいつの性格が優しすぎるのも問題だな。あ、いいこと思いついた。


「ねぇサラル君。その……友達になってくれないかな?」


「俺はもう友達だと思っていたんだけど?」


「ほ、本当!?」


 どれだけ嬉しいんだよ。ずっとボッチだったらこうなるのか?飛び跳ねるな。落ち着け。ドウドウ。


「なあワルト。お前俺様キャラになれ。」


「お、俺様キャラ?」


「ああ!優しいお前はいいけどさ、なんか優しすぎて見てられねぇよ!」


「サラル君、俺様キャラってなんだい?」


 あ~キャラとか言われてもわかんないか。


「自己中心的な人物?今のお前と足して割ったらちょうどいいんじゃないか?」


「?」


 顔がキョトンとしてますぞ第二王子。持ってきた本の中に俺様キャラいたっけかな?ないないないない……あった!


「この本を読んでみてくれ。主人公の好きなバリスって男みたいな人物のことを俺様キャラって言うんだ。まずはそいつの真似をしてみればいいんじゃないか?」


「うん。わかった。暇な時に読んでみるよ。でもこの本って恋愛小説だよね?」


「ああ。面白いからな。男は恋愛小説を読んだらいけないのか?」


恋愛モノは元の世界にいた頃から好きだったから近くの街に行った時にマルシさんに買ってもらった。もちろん魔導書やファンタジーとかの他の本も買ってもらったよ?


「俺様キャラ(?)頑張ってみるよ。」


 少し戸惑った顔をしていたけど最終的にはそう言ってくれた。やっぱ優しいねワルト。


「おい。お前達。いつまでそこにいるつもりだ。今日はもう寮に戻る時間だぞ。」


 先生に注意された。


「すみません。寮ってどこにあるんです?」


「新入生か。あそこを左に曲がると男子寮の入り口が見えてくるだろう。明日から時間には気をつけるんだぞ。」


「ありがとうございま~す!」


 先生にお辞儀をしてから寮に向かう。すると寮の入り口と思われるところに4~5人先輩達がたむろしていて俺達を見つけるとにやにやと笑って近づいてきた。なんだ?さっきの首席野郎のしたっぱか?

 警戒して先輩達を見ているとバシバシと背中を叩かれ頭を撫で回されボサボサにされた。あ?喧嘩売られてるのか?


「そう怖い顔すんな。いや~しっかしあのウィーに口答えするとはなぁ。見ていて冷や冷やしたぜ。そっちのお前も初日から絡まれて災難だったな。」


 ワルトもわしゃわしゃと頭を撫でられている。


「ここにはあいつは来ないから大丈夫だ。ウィーのやつは城に帰るからな。ところで寮の部屋割りは見てないだろ?早く用意をしないと今夜の行事に送れるからな。ついてこい!」


 どうやら歓迎されてるみたいだ。さっき首席野郎に口答えしたからっぽいな。


「そう言えばワルトは城に帰らないのか?」


「僕はお母様がいるから城にはあまりいたくないんだ。」


「なるほど、ね。」


 寮の中は螺旋状になっていて先輩達の説明によると建物は7階まであり、上に行くほど上級生の階になるそうだ。

 ちなみに今いる1階は玄関みたいなもので学生が住んでいるのは2階からだそうだ。


「お前達の名前は何て言うんだ?」


「サラル。」「ワルト=ギュテアです。」


「ギュテアだと!?王族かよ!」


「あんまり気にしないでください。それに兄上とは仲はよくないです。」


 お、ワルト君はっきり言うねぇ。


「そう言われても困るんだがな。」


ポリポリと頭を掻きながら俺達の名前を探してくれる先輩。そう言いながらも先輩王族に対して無礼だよね。


「お、あったあった。お前らは3人部屋の同室だな。よかったな。」


「僕達のために探してくれてありがとうございます!!」


 ワルトが深々とお辞儀をすると先輩は慌ててワルトの顔をあげさせ、


「王族がこんな風にお辞儀しちゃだめだろ!それに困っている後輩を助けるのは先輩として当たり前のことだと俺は思ってるからな!俺は6学年のチュライだ。上の階にいるから気楽に遊びにきな。」


「ありがとうございます!チュライ先輩!」


 またもやお辞儀をするワルトを苦笑する先輩達。 俺も目礼をしてから部屋に走っていくワルトを追いかけた。


「あのワルトってやつはウィーのやつとは違っていいやつだ。可愛がってやろうな。」


 その晩、他の寮の先輩連中にチュライ先輩達はそう話すのだった。

















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