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日向の匂い

  金髪の人に競り負けそうになった時に銀色の甲冑を被った人達が大勢部屋に入ってきた。

 あっという間に周りの男達は取り押さえられた。私を斬ろうとしていた金髪の人は甲冑を着た人達が入ってくると剣を鞘に戻して甲冑を着た人達と喋っている。

  マルシさんを探したけど甲冑を着た人達がたくさんいすぎてどこにいるのかがわからない。甲冑の人達の間を走っていると人にぶつかってしまい尻餅をつく。謝ろうと顔を見上げると私を殺そうとしていた金髪の人が立っていた。


「っっ!」


「おいおいヨリダ。子供が怖がってるじゃないか。お前子供相手に何やってんだ。」


  先ほど金髪の人と話していたがっしりしたおじさんが呆れたような声で言う。


「ごめんな。立てるか?」


  手をさしだされたので恐る恐る顔を見るとおじさんはニカッと笑って


「おっちゃんは君を殺そうとした傭兵団のやつらじゃねぇよ。ちなみに俺の仕事は騎士でな。君のお父さんに頼まれて君を拐った傭兵団を捕まえに来たんだ。」


 へえ。じゃあ途中で入ってきた甲冑の人達は騎士なんだ。じゃあなんでこの金髪の人は捕縛されないんだろう。


「じ、じゃあ、えっと、そ、その人はなんで捕まらないんですか?」


 思わず声が震えてしまう。さっきまで好きなキャラになりきって踏ん張っていたけど内面ではすっごく怖くて怖くて仕方なかった。すごいピリピリした雰囲気だったから本当はすごく泣きたかった。今はそうでもないけどやっぱり顔を合わせたくない。

 顔をうつむけてそう言った私の質問におじさんはガハハハハ!と声をあげて笑いだした。びっくりした私が顔をあげるとおじさんは目尻の涙を吹きながら


「クッ……いやぁ~悪い悪い。坊主こいつはな、俺と同じ騎士。」


 え?ぽかんと口を開けた私の頭を乱暴に撫でると


「この傭兵団は近頃騒ぎを起こしてたんでなぁ。様子を俺達に知らせるために潜入してたんだよ。」


 そうなんだ。でもさっきは殺そうとしていたよね!?

 そんな私の考えを読みとったかのように金髪の人は気まずそうな声で


「斬るふりをして先輩達がくるまで気絶させようと思っていた。」


 そう言う金髪さんをそろりとみると


「悪かった。許してはくれないか?」


 膝まずいて私の目線と合わせてくる。やっぱり目力強い!強すぎる!仕事だったんだから仕方なかったんだね。


「僕も剣を向けてすみましぇんでした。」


 舌を噛んじゃった。怖いよ。そんなに見つめなくてもいいよ(泣)

 おじさんはにこにこと笑って私を見ると


「それにしても坊主はよくやったな。いくら手加減してたとはいえ俺達がくるまでにヨリダに気絶させられなかったんだからなぁ。やはりあのマルシのヤツの子供ってだけはあるな。」


「たしかにあの身のこなしは君のような年頃の子供はできないだろうな。」


 今日は何回も思うけど本当にマルシさん何やってたんだろう?騎士の人達に褒められて傭兵の人達には恨まれて。私マルシさんの子供じゃないんだけどな。マルシさんの子供って認識されてるよ。


「マルシは何やってたの?」


 やっと聞けた。ここまでくると気になって仕方ないもんね♪


「親父の仕事を知らねぇのか。マルシ……君のお父さんが前にやっていた仕事は傭兵ってやつだよ。名の知られた傭兵でなぁ、凄く強かったんだぞ?4年前にあるダンジョンの護衛の依頼を引き受けてからぷつりと音信不通になってな。死んだんじゃないかって言われていたんだが子育てしてたんだな。

 まああれだ。凄く強くて格好いい剣士だったんだぜ?」


 マルシさんすごい人ダッタンダネ。前に私を拾ったから仕事やめたとか言ってたけどすごい申し訳なくなってくるよ。


「よかったなヨリダ。坊主の誤解を解けて。ところで坊主。さっきはなんでそこらへんを走り回ってたんだ?」


 ハッ!そうだった!マルシさん探してたんだ!


「マルシ探してるんだけど見つからないんだ。」


「マルシ殿を探していたのか。彼ならあそこにおられるぞ。」


「ありがとう!」


 金髪の人がそう教えてくれる。礼を言って二人の騎士に手を振ってからマルシさんのところに走る。走っているうちに泣けてきた。マルシさんが私に気づいて立ち上がるとちょうどマルシさんのところにたどり着いた。

 彼のシャツの端っこをつかんで顔を隠す。泣いてる顔なんて見られたくないもんね!

 しばらくするとマルシさんがゆっくりと頭を撫でてくれる。すると今日の殺されそうになった記憶が浮かんできたせいで余計に涙が止まらなくなり声も抑えられなくなった。


「うっぇぇぇぇぇぇん!!!」


 こんな感じにギャン泣きしているとフワッと抱っこをされる。マルシさんの日向みたいないい匂いが鼻の中に広がる。そのまま背中を何度も撫でられてほっとする。実の親でもないけど私の中でこの人は今一番心を赦せる人だ。背中を撫でられ続けて私は日向の匂いに包まれながら眠りに落ちた。


*********************************


 泣いていたサラルを抱き上げてあやしているとサラルは安心したのか眠ってしまった。その寝顔を眺めていると


「へぇ~マルシもそんな顔できるんだ。やっぱり子供っていうのは特別なんだね。」


 ヘラヘラと笑っているこの騎士は一応この騎士達の隊長のヌテバだ。4年ぶりに会ったがまったく変わっていない。


「ほう?俺がどんな顔をしていたって言うんだ?いつもと同じだろうが。」


「同じじゃないね。だってさっきその子の寝顔見てる時、凄く優しい顔してたよ?いつもしかめっ面とかにやって凶暴な感じに笑う君がね。やっぱり親になると人って変わるんだね。」


 そんなことを言われてもよくわからねぇんだがな。


「あのさ、マルシ。今マルシってどこに住んでるの?」


 何故そんなことを聞くんだ?依頼はもう引き受けないぞ?そう言おうと口を開こうとすると


「あっ、別に場所とか言わなくていいや。ちょっとその子が育っている環境が気になっただけだよ。」


「急にどうした。サラルは俺と二人で森で住んでいるが?」


「へぇ~じゃあその子の回りには同い年ぐらいの子供は一人もいないんだね。」


 それがどうした?と首を傾げる俺を見てヌテバは呆れたようにため息をつくと


「まあいいけどさ。でももし今回みたいにこんな遠くまで連れ去られたら僕達騎士も上手く助けられないかもしれないよ?」


「俺に王都で暮らせということか?」


「そっちのほうが助かる確率が上がるって話だよ。別に王都じゃなくたっていい。自警団とかそういう人達と繋がりを持っておいた方がいいでしょ。君いろんなことやってたしねぇ。今回はどうして僕達を呼んだんだっけ?近くの村の人達に助けてもらおうと思ったけど誰も助けてくれなかったからたまたま視察中の僕達と会ったからでしょ?そりゃあ村の人達も見ず知らずの男の子供をあの傭兵団から助けようとかしないよね。そうでしょ?まあ今回は気になっていた傭兵団を捕まえられたから満足だけどね。」


 癪にさわるが何も言い返せない。ヌテバは黙りこんだ俺の肩を軽く叩くと捕縛した傭兵達を連れていく。他の騎士達も歩きだす中で俺も家に帰るために馬の方へ歩き始めた。


****************************


 目を覚ますとお尻の下が上下に揺れている。温かいそれは激しく上下に揺れていて長い間乗っているのかお尻が強ばっていた。足の下の草がすごい速さで流れていく。目の前には大きくて日向の匂いのする背中。マルシさんだ。どうも私はこの揺れる物体から落ちないようにマルシさんの背中にくくりつけられてるみたいだ。

 ぽんぽんと大きな背中を叩くとくるっとこちらを向いたマルシさんと目が合った。


「起きたか。」


 だんだんと揺れる物体の速度が落ちていく。やがてぴたっとその物体が止まるとマルシさんは私を抱いてその物体から降りた。

 揺れる物体の正体は茶色い大きな馬でした。馬ってあんなに速く走るんだね!


 夜から朝に変わる時間のせいで空は薄い青と太陽の茜色が混ざった朝焼けに染まっている。広がる草はさらさらと風に揺れている。

 近くの丸太に座ると水筒を渡された。隣にマルシさんが座って何か考えている顔をしている。水を飲んで喉が潤される。綺麗だなーと変わっていく空を眺めていると


「サラルは街に興味はあるか?」


 マルシさんは前を向いたままそんなことを聞いてきた。唐突だなぁ。考えたこともなかったけど街ねぇ。


「街ってどんなところなの?」


「様々なものが溢れているところだな。建物や食べ物、森と一番違うのは人が大勢いるところかな。」


「ふ~ん。そうなんだ。じゃあ興味ないかな。」


 そう言うとマルシさんは驚いた顔をしていた。そんな顔しなくてもいいのにね。


「何故そう思うんだ?」


「だってマルシさんと二人でいたら楽しいもん!だから街に行くのは後でもいいんだ!」


 そう言ってにかっと笑いかけるとマルシさんはそうか、と呟いて苦笑していた。マルシさんイケメンだから街なんかに行ったらモテるだろうな。今のところそんなに街には興味ないしね。

 そんな休憩を挟んで家に帰るために馬に乗っている途中なぜか将来の仕事の話になった。


「お前は何になりたいんだ?」


「何って?」


「お前が今日見た傭兵や騎士とかだな。」


「じゃあ体を動かす仕事は?」


「さっきも言ったように騎士や傭兵、荷運びなどたくさんあるぞ。」


「傭兵は嫌だなぁ。」


 はっきり言って今回の事件で傭兵の人達にあんまりいい印象がない。怖かったし。


「街の学舎に行って勉強をするのも1つの手だな。」


「学舎って何するとこなの?」


「自分の能力を伸ばし、友を作る場所だ。」


 へぇ~学校みたいなところかな?学校あるんだ!


「12歳から入れる。特別秀でた点があるかある程度賢くなければ入れない。サラルは学舎に興味があるのか?」


「うん。行ってみたいな!」


 脳筋は回避しなければ。学校行ったらいろんなこと学ぶだろうしね。


「そうか。じゃあ今日からもっと教えることを増やさないとな。」


「えぇ~!」


 自分でキツいこと増やした気がする。


 朝日が空に昇り、マルシさんと私を優しく照らしていた。













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