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結論

 壁が全て崩れ去り、床一面がグラグラと揺れるなか、王座がものすごい勢いで吹き飛んだかと思うと、肌寒くなるような威圧感を放つ男が肩をいからせて俺を睨んでくる。

 上半身は裸で程よい筋肉を維持しており、完成された肉体という感じだ。きらきらと輝く髪は何色と言えばいいのか。まるで星が輝いているような髪で、ワルトの上をいく美形だ。神々しい。そう、神々しいって言葉が一番しっくりくる。


 そんな人がなんで俺を睨んでいるのかは分からない。俺、なんかした?


「お前、よくも我が息子を……」


 俺が今しがた気絶させた第一王子の父親はこんな神々しい男じゃなかったはずだから、ますます理解ができない。キオワの国王は肩よりも少し長い金髪でワルトみたいな碧い目だった。この男は銀と白の混ざったような色の腰まである長髪で目は薄い桃色。どう考えたってキオワの第一王子の親じゃねえ。


 は?と俺がフリーズしているとそいつは手を前にブンッとふる。わけも分からず突っ立っていると物凄い突風と火、水の混ざった意味不明な魔法が襲いかかってくる。

 慌てて防御魔法を展開する上着を使って魔法の波を防いだが、それでも勢いは消されずに一転また一転と転がるハメになる。


 比較的元気な俺でさえ踏みとどまれなかった衝撃にワルトやコブノーはひとたまりもなかった。そこら中に飛び散った瓦礫などにぶつかりながら吹き飛ばされる。二人のぶんまでカバーが回らなかった!!


 男の攻撃の影響か、ガラガラと城の天井や壁が崩壊していく。広範囲に影響を及ぼし過ぎだと思うんだが。


「ああ、これは一旦避難しましょう。レオンさん達はそちらのドアから逃げてください。」

「フォルカ殿はどうするのだ?」

「ここで城の修復作業とあちらの方に落ち着いて貰わないとなりませんから説得します。

 心配はいりません。貴方のお兄さんのお陰でだいぶこの作業にも慣れましたから。」


 淡々とけっこう城が崩れてきてる中でそんなことを言ってるシャイトンの王。レオン王子に案内役までつける落ち着きっぷりだ。


「ワルト!コブノー!なあ桜樹、早く助けに行けよ!」


 あいかわらずすみっこで見ていたザンが桜樹にしがみついて叫んでいる。よっぽど怖かったのか、足がガクブルだ。俺も手のひとふりでここまで人間を吹き飛ばす目には会ったことはない。


「む、良いがお前は行かんのか?」


 『オレが助けるゼ!』といったことをいつもなら吠えているザンだ。近ごろのザンは知恵がついてきたのだろうか、判断ができるようになってきた、ように感じる。


「だってオレじゃ、足手まといになるだけなんだろ!?それぐらいはオレもわかってる!!」


 まあ、あの威力で手のひとふりだもんな。ザンがお馬鹿なままでも分かるな。


「ほうほう!ハハハッ、相分かった!!おいカイルとやら。お主はもう動けるのか?」


 桜樹は着物の袖を翻し、くるりと騎士が群がっているカイルを見た。カイルは治療が終わったのか、腹に血痕を残しながらも上半身を上げて桜樹の顔を見る。

 いつもきりりと真面目な顔の赤い眉は少しハの字になっている。俺が昔イタズラをした際に見せていた怒った顔。眉を寄せる癖は抜けていないらしい。

 かっこいい白い騎士服もズタボロだ。相手がシャイトン国の中でも有数の猛者なら手傷を負わせただけでも手柄だろう。騎士としては王を守れなかった点で失格なのかもしれないが。


「は。全快とはいきませんが、護身程度なら。」

「ならばお主の主と部下を連れてこの城を出ろ。ついでにこの青髪の子供を連れて行ってくれはせんか?」


 よろしいですが、と言うカイルだったが、何故俺を見る?意味がわからなかったので首を傾げてみせれば、リンガル達騎士がなぜかざざざっと後ろに下がってカイルを護る体勢に入る。


「もちろんだ龍族の皇子。ついでに我が国と公益を結ばないか?」


 俺が一歩前に進めば騎士達はカイルを背に一歩下がる。右に左に上にジャンプをすれば必死になって動きを真似てくる。


 いくらカイルが手負いだからといって、お前達よりは強いと思うぜ?


「すまないが儂に政治の話をしても無駄ぞ、キオワの新たな王となる者よ。政治は父上がご健全な限り、儂が関わることはない。

 では、よろしく頼むぞ。」


 さしだされたレオン王子の手やんわりとだが振り払った桜樹はザンの背中を押してレオン王子一行について行かせる。

 騎士達に囲まれて歩き始めるレオン王子だったが、集団の後ろに混ぜさせてもらっているザンは一生懸命首を後ろに向けて俺と桜樹を見て叫ぶ。


「なあ!どこで合流するんだよ!場所わからなかったらオレ、どこへ行けばいいのかわからねえ!!」

「なに、ウォルとやらはそこの王の元に何が何でも行くだろう。そうすれば何をしなくともまた会えるに違いない。」


 桜樹はテキトーにザンをあしらっている。壁の一部が降りかかってくるのが邪魔なせいか、使っている魔法も荒っぽい。


「ウォルはどーでもいい!サラルだよ!サラル!!」

「え、それは僕でも傷ついちゃうなぁーサラルはザン君にモテモテだねーいーいーなー」


 怪我と魔力不足で動けないので桜樹に浮遊魔法で浮かべられているワルトは体を横にしてまるで空中で寝転んでいるような体勢で俺をチラチラと見てくる。その間ワルトとトゥランに降りかかる壁の破片は、二人と同じく空中に浮かされているコブノーが槍で壊している。


「どうしてお前はサラルにこだわる?強い者ならウォルやコブノーがいるだろう?もちろん儂に頼っても良いのだぞ?」


 わけのわからない男はシャイトンの兵士達が対処をしてくれているので、俺達はこんな風にゆっくりと話すことができるわけだが、正体不明の男はどうしたものか俺を狙っているらしく、着実に吹き飛ばされる兵達がこちらにだんだんと転がってくる。これだけ距離があるのにここまで飛ばすとか、やはり半端な威力ではない。


「オレが孤児院でいた時に見たのがサラルだったんだ!オレがその日見てた中で一番強そうでヤバそうだったからついてきたんだ!オレも強くなって兄弟のために金かせがなきゃダメなんだ!」

「分かった分かった。早く逃げなさい。サラルは引きずってでも共に連れていこう。」


 ザンが桜樹との会話に夢中になりすきたせいでレオン王子達に置いて行かれているのをみかねた桜樹がザンを急かす。

 絶好調の桜樹ともめれば俺は余裕で負けそうだ。引きずっていかれるのは勘弁したい。


 それとな、俺でよかったことだが、普通は凶暴そうで危なそうな人間にはついていったらだめなんだぞ?ザンは知らないのかもしれないが、俺達のすぐそばに奴隷商や内臓を売り払うといった恐ろしい奴らがゴロゴロ転がってんだ。それなのに自分から危険に近づいたらダメだろ。


「絶対だからな!ぜっっっっったいだぞっっ!」


 桜樹との話だけでは納得をしてくれなかったから俺もウンウンと頷いてカイルの部下の騎士にザンを連れていってもらう。


 あと、リンガル達騎士がカイルを守るような素振りを見せたのは何だったのか。わからない。


「はてさて、よかったのサラル。仲間や友人が居らぬと言っていたが、ザンという小童はすっかりお主を慕っているようだぞ。いい加減、儂はともかくこ奴らのことをどう思っているかはっきりさせてはどうだ?」

「え、そんなこと言ってたの!?僕でも地味に傷ついちゃうぞ?」


 俺は人を信じれない。桜樹やザンが信頼に値するというこいつらに、判断する材料として一番身近にいるこいつらに、死んでもらっちゃ困る。だから守るだけだ。


 いつまでもだんまりを決めこむ俺に呆れたのか諦めたのか、桜樹はワルトとコブノーにこれからの経路を話し始める。


「儂がお主らを連れてここから出る。コブノーは(あばら)が何本かいっているようじゃし、ウォルは魔力切れじゃからのう。ここにいても邪魔なだけじゃ。サラルはまあ、用があれば儂を守れ。さっさとザンと合流するぞ。」


 とりあえず、ワルトとコブノーを回収できたので早くレオン王子達に追いつかないと。いちおうジェームズにも声をかけておく。


「ジェームズ、よろしく頼む。」


 毎度のことながら返事はない。もちろん期待してもない。


「桜樹はあの人を知っているみたいだね。あれ誰なの?」

「あの方はだなあ……!!」


 言いかけた桜樹だったが、突然の魔法による風で血みどろになる。俺も全く反応ができなかったが、上着の防御魔法が勝手に展開をしてくれたおかげで桜樹ほどの深手は負わずに済んだ。あの男、いつの間に、こんなに近くまで近づいていたんだ?倒れた桜樹、同じくズタズタになったワルト、コブノー、トゥランを見て体が震える。


「お前、よもや俺から注意を逸し、生きれるとは思うまいな?」


 こいつらは、俺が見続ける相手だ。お前、何してくれてんだ?


 相手が俺に敵意を持っていることはよく分かった。相手がとんでもない魔法使いだということも。だが。ここで殺られるわけにはいかない。俺の人生、クソみたいなままで終わりたくねえからな。

 ワルト達はシャイトン王直属の兵士達が運び出してくれている。俺にこいつの敵意が集まっているので魔法の波もなく運びやすいだろう。


 躰のあちこちから血が流れ出て余分な力が抜けていくと同時に、目が、耳が、冴え渡る。感覚が研ぎ澄まされて男の横まで跳び、ここ一番の力を込めて男の頭へと蹴りを入れる。が、腕で塞がれ、逆に足を掴まれそうになったので腕を蹴って脇に逃げる。俺の蹴りをくらった腕は普通なら折れるかもげるかするはずなんだが、男は痛がる素振りも見せない。


 こいつ、魔法だけじゃなく体術もできるのか。


 本気で俺を潰しにかかっているようで、男の使う魔法が最初のものよりも強く、威力のあるものに変化している。


 壁を蹴って男を勢いをつけて蹴る。


「同族か。」


 俺の蹴りを腕一本で防いだ男は、もう片方の手で俺の髪の毛を掴んでそう言った。油断をしているつもりはなかったのに、髪を掴まれていることにゾッとし、体を反転させて男の手から逃れる。


「我が愚息に仕える者が俺の城に入ってくるな!」


 あ゛?俺が誰に仕えてるって?俺は誰にも仕えてなんかいねえ。ふざけるな!


 俺の思いとは裏腹に、男の恫喝に体が動かなくなる。男に対抗することもできず、首を絞められ空中に体を持ち上げられる。息ができずに頭がガンガンと鳴る。その間にシャイトン王が男に話しかけている。息が……!!


「お祖父様!この男はベリアルには仕えない者です!どうかお鎮まり下さい!」

「お前は?」

「俺はラス王の息子であるフォルカです。」

「孫か。ではフォルカ。我が最愛の人はどこにいる?」


 男は俺を床に投げ捨てる。やっと息ができる。死にかけた。


「ここから西のキオワという国の教会で貴方と同じく眠られています。」

「そうか。だがその前にこの子供を消さねばならん。カントァーにこのような扱いをしよって……我慢ならん!」


 ジェームズを丁寧に撫でる男は俺を睨みつける。いつまで経ってもこの男の睨みには対抗できずに体が萎縮する。だが思わず、男が言った「カントァー」という名前に反応をしてしまう。「カントァー」って紅の剣の名前なのか?


「じいさんにはジェームズって聞いたんだが。」

「どうして分かるのです。ベリアルには通常、見目麗しくない貴方では会うことはありません。貴方は白い聖剣の持ち主である勇者と話す際に、ベリアルから語りかけられなかったと言いました。そうだというのにどこで会ったというのです?」


 こいつ、王様とはいえ、失礼なことをはっきりと口にしやがる。確かに俺の容姿は平凡だが。やむを得ず、誰にも話したことのない、地球での話をする。


「俺は昔は女でベリアルに違う世界からこっちの世界に連れてこられた。その時になんか知らんが男の赤ん坊になっちまったからそのままこうして男でいる。

 できれば俺は元の世界に戻って平凡に暮らしたい。こんな物騒な世界で大切な人もいるが、平和な世界に戻りたいんだ。」


 自らの意志で来たわけではない、そういった未練がましい情けない感情を俺は未だに持っているわけで。やはり大した人間ではないと自分でしみじみと思う。


 俺の短い解説を聞いた王様と男は、なんだか少し微妙な顔をしている。


「……それはまた、可哀想に。貴方は被害者だったのですね。」


 一度言葉を切った王様は、壊れて粉々になった壁の破片の複数を一気に浮かして元の位置へと戻していく。魔力の多いワルトでもこれだけの数を一気に浮かし、なおかつ一つ一つを自由に動かすというのは難しいだろう。やはり、魔王と言われるだけはあって保有している魔力は桁外れに多い。


「あの人は貴方を新しい勇者にしようとこの世界へ召喚しようとしたのでしょうが、貴方はその提案を拒否をしませんでしたか?」

「提案というより無理矢理だったが。拒否した。」

「その後に何かされませんでしたか?」

「首を締められた。」

「ではお前は一度死んでいる。ここにいるのは転生をしたからだ。」


 それまでは口を挟んではこなかった男が転生などという面白いことを言ってくる。


「だがあいつは魔王を殺せば元の体に戻すと」

「そんな口約束を彼が守るわけがないでしょう。貴方は俺を殺すつもりだったのですか?」

「いや。それはない。」


 口約束、と言われて何故か納得してしまった自分に気づく。所詮、俺にとってはその程度のものだったんだと。ついさっき、この二人に言った言葉はただの建前で。結果、わかったことは怠け者ということ。


「これでこの者が敵ではないということが分かっていただけましたか?」

「分かったが、ベリアルとは誰のことだ?」


 自分の子供の名前を忘れているのか。


「……貴方の第一子の名のはずですが。」

「ベリアルではない。アルフクムだ。もしやルアイドフも剣になっているのか!?」

「ええ。あちらに突き刺さっておられました。こちらでございます。」


 壁の修理もすっかり終わり、男に剣を差し出す王様。


「くっ、憎たらしい餓鬼だ。我が愛しの人を救い出した暁には厳罰を下してやろう。」

「ベリアルはあんたの息子だろ?」

「あれは愛しの人の親に取られていった子供だ。もはや我が子ではない。」


 かなり辛辣だ。だからベリアルはマザコンになったのだろうか。


「さて孫よ。早く我が愛しの人の元に案内しろ!」

「少しお待ちを。そこの勇者とお祖父様が吹き飛ばした負傷者達の治療が必要ですので。」

「そのようなことに時間を取るのか?時が惜しくはないのか!!」


 とかなんとか言いながらも桜樹や俺を含めた負傷者の怪我を一気に治し、ケロッとしている。魔力が膨大すぎるだろ。あと、俺がずいぶんと前に無くした性器が生えてきている。おかしくないか?治癒しすぎだろう。


「これはまた。初代魔王と呼ばれるだけはあって魔力が膨大ですね。ここまで高度な治癒魔法を見たことがありません。」

「これぐらいできずにどうする。」


 後に聞けば、何万年と生きている男、初代魔王からすれば、十年や百年はほんの一瞬のことであり、元に戻せるらしい。意味がわからないと言えば、切ってやろうか?と言われたので拒否をする。痛いのはごめんだ。



 その後、ワルト達と合流した俺達はキオワ国へと戻り王妃とその一派の不正、悪行を全国民に晒しクーデターを起こした。結果、ワルトの父親である王様は引退をするという名目で玉座を降り、かねてからの話通り、レオン王子が新たな王として即位した。ワルトはその補佐として宰相となったが、時たまふらりといなくなるので部下達を困らせている。

 ワルトの兄であるウィーは、母親の一族の没落と他国での振る舞いのせいでキオワ国の最北端にある、田舎に飛ばされ、監視をされたままの生活を送っている。

 ウィーの母親とその一派は処刑され、また、関与のあった騎士、官僚も降格、あるいは辞職するという形になった。


 クーデターの際、ワルトにあれやこれやと手伝わされた俺は、今や『先導の勇者』などと呼ばれている。人の心なんてものは、この程度のものなのだ。と以前との扱いの差に辟易する。


 俺を殺したベリアルは、俺がこの世界に転生していたことを知らず、初代魔王と共にベリアルに会った時には驚かれた。初代魔王はその妻である教会のような場所で眠っていた女とベリアルを抑えこみ、彼の首根っこを掴んで自国へと帰っていった。


 勇者の剣については、初代魔王にもどうしようもないことになってしまっているらしく、


「息子はお前と共にいたいそうだ。」


 と言われ、紅の剣は手元に戻ってくることになった。が、依然として話をすることはできないので毎日話しかけている。


 神様はいるのかもしれない。だが、俺はそういった存在をあてにはせず、己の意志で立っていこう。これが、転生した俺の出した結論だ。

ありがとうございました。

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