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悪霊か鬼か

 桜色のドラゴンがサラルについてくることになったけどその後が面白かった。


 ぞろぞろ武装したドラゴンどもが来たかと思ったら慌ててニセ王を治療し始めたりどこかに連絡をしていたり。執事とか侍女さん達は大変だ。


「そういえば名を聞いていなかったな。お前、何というんだ?」

「サラル。」

「そうか!俺は(わん) 桜樹という。これからよろしく頼むぞ!」


 ハッハッハッ!!と大口を開けて笑った桜樹はさっぱりとしている。先ほどまではサラルと同様に血塗れだったが風呂に入り綺麗になっている。風呂に入った後の彼の髪の毛は土埃などで汚れていたせいか風呂に入る前に比べて艶やかな桜色になっている。光の当たり具合によっては橙色や赤にも見える美しい髪だ。


「桜樹様。伊邪那岐様と連絡がつきました。」

「これからのことをきちんと話しただろうな?」

「勿論でございます。」


 父親にも連絡済みらしい。意気込んでいるのか手回しがいい。イザナキって有名なイザナキ・イザナミ夫婦の旦那の方だ。日本と同名の名前は初めて聞く。


「さ、地上に戻ろう!父様が来てくれるらしいからもう安心だ!」

「父親に会わなくてもいいのか?滅多にここにいないんだろ。」

「我ら竜族は寿命が長いのが取り柄の1つだから心配する必要はないぞ!ハーッハッハッハッ!!」


 テンション高いのどうにかなんないのか。頭が痛くなってくる。


「さあゆかん!地上へ!!」

「「「いってらっしゃいませ。」」」


 ドラゴンにならずに人型のまま空中に躍り出た桜樹は浮遊魔法をかけて行きと比べるとかなりゆっくりと帰っていく。少し前までの冷遇とは180度違った丁寧なお辞儀で侍女さん達が見送ってくれる。


 暇なので改めてさっきまでいた城を下から見る。山頂にある城から下山するためなのか舗装されてある道が一本続いている。道は高い壁に挟まれていていかにも頑丈そうだ。しばらく下にいくと雲の下に出る。するとそこにはかなり大きめの城門のようなものがあって誰かが警護をしていた。


「お前はとても幸運なのだぞ。通常であれば竜族の翼で雲を抜けるかあの山道を延々と登り続けるかしなければならんのだ。それをこのように楽々と移動出来るのだからありがたく思え!ハーッハッハッハッ!!」


 山をよく見ると道の外にはかなり強めの魔獣がうろついている。道はくねっていて登りにくそうだが魔獣が道を囲む壁をこえることはできないようで道の部分にだけ魔獣がいない。


「お前の友人達にも悪いことをしたので速く帰らねば!!友人をいきなり連れ去った俺様も気分がとてもよかったのだ。許してくれ。」

「お前の家庭の事情に巻き込まれたこと以外は何とも思っていない。」


「そう言ってくれるとありがたい!ではお前の友の待つ地に向かおうか!!」


 そう言った桜樹は薄紅色のドラゴンに変幻するとサラルを背に乗せて空を駆ける。


「……速いな。」

「だろう!我らは空で最強の種族だからな!当たり前だ!」


 調子にのって飛ぶスピードを上げた桜樹は行きよりも早く地上の出発地点に到着した。


 真夜中だというのにウォル、コブノー、マルシが空を見上げて立っておりサラルが桜樹の背中から降りると駆け寄ってくる。


「大丈夫か!?どこも怪我をしてはいないのか!?」

「大丈夫だ父さん。ドラゴンに食われかけたが仕返したからな。」


 良かった。と肩を下ろすマルシはほっとした顔だ。


「なんかマルシが喋ってんだけど。お前って本当は無口じゃねぇのか?」

「そんなことはない。息子が可愛いだけだ。」

「サラルは可愛いって言われる歳でもないし可愛くないでしょ。」


 そう言いながらもサラルにいいお父さんだね。とぼやくウォルはちょっと羨ましそうだ。


「お前と9年ぶりの再会を果たした訳だが、これからお前はどうするんだ?もしかしてコブノーのような冒険者になっているなどと言うんじゃないだろうな?危険な職業は止めろ。今すぐに止めろ。俺の貯めてある金で生きていけるのだから平穏に暮らそう。」


 サラルに必死にそう言うマルシを見たコブノーは自分の中にあったマルシ像が音を立てて崩壊していくのを感じていた。なんか。イメージと違う。違いすぎる。


「俺は何もしていない。モ・サドーレで稼いだ金があるからあと5年は派手な使い方をしない限り食っていける。」

「なんだと!何故あの野蛮な場所にいたんだ!冒険者の方が断然ましだ!」


 怒るマルシ。コブノーとウォルはすでに知っていることなので反応はしない。


「俺だって行きたくて行ったわけじゃない。父さんは知らないだろうけど、俺は紅の勇者にもなった。」

「!?」

「巻き込まれたくもない王宮の事情に利用されて俺はあの糞だまりにぶち込められた。そこから出た。それだけだ。」


 無表情で語るサラルの声は生気がない。その空気に呑まれて一同は黙りこんでしまったが空気を読まない矢がどこからともなく飛んできた。狙いはウォルだったようでウォルの足元に突き刺さっている。


「なんぞ?人が会話をしている最中だというのに。不躾な者がおるみたいだな!この俺が直々に成敗してくれる!」


 いきりったって袍の袖をたくし上げた桜樹だったが、それを制止したのは標的になったウォル自身だった。


「これは僕と彼女の問題さ。ドラゴン君は見ていてくれないかな?」

「俺様の名は桜樹ぞ!ドラゴン君とは失礼な!貴様の名は何という?」

「僕の名前はウォル。本名は名乗ると厄介なことが多いから桜樹君が信頼できると思った時に言うよ。」


 ウォルは空を見上げて目を細める。マルシがこの時友人の顔に似ていると思ったが口には出さなかった。


「こそこそ隠れてないで出てきたらどうだい。言っておくけれど、君には失望しかしていないから。僕の顔をこんな風にしてくれたことは君にも同じことを仕返したからどうとも思っていないよ。」


 矢がまたウォルの足元に刺さる。


「はっきり言って、君は僕の脅威じゃない。君程度の魔法では僕に勝てないし、医術も君に負ける気はしない。

 どうせ母さんの犬ならば母さんに報告しておいてくれ。僕がその気になれば貴方の国を滅ぼしますよ。とね。」


 ウォルが言い終わるとフードをかぶった小柄な人物がウォル達の前に現れた。


「何が同等だ!私の顔の傷の方がよっぽど酷い!」


 バッとフードを自ら取った顔には酷い火傷の跡がある。


「僕だって同じですよ。この間ぶりですね、ミンユさん。」

「この傷をどうしてくれる!消えないのよ!?」

「だからそれは僕も同じですって。貴方と違って僕は目が片方見えないんですよ。」


 逆上したミンユが手のひらから大きな火の玉を何個も作り出して放出する。民家があるのに危ないことをする。


「お前が生きていなければよかったのに!あの時ちゃんと息の根を止めたか確認するべきだった!」

「そうだね。それにしてもそんなもの効かないな。弱すぎる。」


 ウォルが右手を一振りすると火の玉は消える。焦ったミンユが魔法を連発するがウォルはことごとくそれらを消していく。


「死んだかと思っていたら生きているなんてお前は私に取り憑く悪霊かっ!」

「僕は生きてるから悪霊じゃないね。どちらかというと悪さをする君を地下に連れて行く鬼みたいなものだと思ってくれていい。月よ。力を貸したまえ。彼の者に光精の罰を与えよ。」


 ミンユを見据えてウォルが呪を唱えるとミンユの背後には光で出来た輪が出現する。ぎょっとした表情をしてそれを解こうとするミンユだったが。


「真実を話せ。唱!」


 ミンユの顔が引き攣る中で彼女の口が不自然に動く。


「私はテア殿下の配下の者。」

「知っている。今はどのような命でここにいる?」

「サラルの動向を探る、ためだ!お前が生きていたとは思っていなかったから消さなければならないと考えた。」


 ウォルがミンユに自白させている後方で他の4人は黙って見ている。


「のう。あれはかなり高度な魔術ではないのかの?光魔法と闇魔法を絶妙な具合で混ぜているよう。」


 あのようなものは初めて見るのう。感心感心。じっと見る桜樹にマルシが説明を加える。


「そうだ。……だがあれは拷問時に使われる特殊なもので知っている者は限られるはずなんだが。」

「父さん、ウォルがあの魔法を知ってるのはウォルは子供の頃に殺されかけるはめにたくさん会っているからだろう。」


 複雑な家庭なんだな。ミンユに次々と自白させるウォルを見てマルシは眉をひそめる。やはりこの魔法は見ていて気持ちのいいものではない。


「魔法についちゃ、ほとんど知らねぇがこの6年間あいつがずっと魔法の勉強をしてたのは知ってるぜ。」


 コブノーが呟いた言葉にそうだろうな。とマルシが応える。並の魔力ではこんな風に魔法を大判振る舞いはできまい。それをこうも扱いこなしているのはそれだけの知識と経験がものをいう。


「まあこんなところでいいかな。さっさと母さんに報告しといてね。」


 そう言うとウォルはぐったりとしたミンユの体を宙に浮かせて指を横に振る。するとミンユは彼女の意思とは関係なくかなりの速度をつけて東へと飛ばされていった。


「捕まえなくてよかったのか?俺達がいるからあの女一人ぐらい大したことなかったぜ?」

「いいんだよ。聞きたいことは聞けたしね。あの人が母さんにどう報告してくれるか、楽しみだよ。」


 笑ったウォルからは毒が溢れ出していてぞっとしたコブノーと桜樹だったがマルシとサラルはけろっとしている。


「ミンユが権力者の手先になっていることは知らなかった。だがまあそんなことはどうでもいい。お前のこの6年間のことを話してくれ。」


 コブノーやウォルも知らないサラルの4年間が言葉となって紡がれた。

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