2回目の人生終わりそうなので好きなことやってやります。
背後で剣を抜く音が聞こえたので後ろを振り向くと金髪の若い男が剣を抜いたところだった。もちろん隠す素振りもなしにそんなことをするのでマルシさんの目にも映っているワケで。
「おいお前!サラルに手ェだすんじゃねぇぞ!!」
「それはもちろんお前の返答次第だ。お前が金をよこすならこの子供は返してやろう。」
「俺が何やったって言うんだ?俺は何もルールは破ってねぇはずだ。」
マルシさんあれだけ恨まれてるのに自覚がないですと!?
「ああ。お前は一度だって俺達のルールを破ったことはなかった。だがな。お前が俺達のチームを突然抜けたせいで本来手にはいるはずだった金が得られなかったうえにお前が一人でかっさらいやがった。それの報復だ。」
うわぁ。おじさん目ぎらぎらしてる。なんでそんなにお金に食いつくかなぁ。お金はあったほうがいいけどさ。
ほら、マルシさんもちょっと呆れた顔してる。
「ここのチームのルールにはいつ抜けてもいいと書いてあった。だから俺がいつ抜けようがよかったはずだ。それにあのダンジョンのことはここのチームでない他の連中にもお前達は言いふらしていたじゃねぇか。俺は護衛をしただけでダンジョン攻略の金はびた一文もらってない。もらったのは報酬金だけだ。お前達はそこをきちんと理解できてねぇぞ。
勝手に勘違いをして怒るのは個人の自由だが俺にそれを押しつけるんじゃねぇよ。あんたのただの逆恨みじゃねえか。」
マルシさんマジカッケエ!おじさん正論叩きつけられて何も言えないみたい。ざまあっ!おじさんの目がなんか怖いけどっ!うわっこっち見た!
「それがお前の返答なのだな?」
「返答もなにも事実を言っただけだ。」
「そうか。おいお前。殺れ。」
おじさんは私の後ろにいる金髪の人を指さしてその人にそう命令を下した。
「なっ!」
マルシさんさっきの挑発になってたの絶対気づいてないでしょ。マルシさんのお陰でおじさん怒っちゃったじゃん。
剣を抜いた金髪の人を見て声をあげたマルシさんだったけど周りのむさ苦しい男達に押さえつけられている。やっぱり無理だったか……。
死ぬのはもう嫌だしあんな苦しい思いももうしたくないので繰り出されてきた剣をよける。異世界にきてからマルシさんに鍛えられたせいか体の動きはとてもいい。ついでに聴覚、視力、嗅覚とけっこうよくなっている。若いっていいな。と思う。前も17歳だったけど体は脂肪で包まれてたから今の体はとても新鮮だ。
避けてばっかりいたせいか、他の男に押さえつけられる。剣をふるっていた金髪の人はちょっと遠くにいる。私逃げまくったんだね。
私を押さえつけている男はがっしりと私をホールドしていて4歳児の力じゃ到底敵わない差だった。
金髪の人がゆっくりと近づいてくる。その表情は死神かと思えるほど冷ややかなものだ。
他の男達は円形に私達3人を囲んでにやけている。
マルシさんは私を助けようと私の方に顔を向けてむさ苦しい男達の腕をほどこうとしてくれてるけど無理だ。
私はなぜかこんな時に前の世界で唯一好きだった演劇のことを思い出していた。
あれは中学最後の記念とかなんとかで毎年恒例の劇をやらされた。
私は劇の役を決める時、取り仕切っていた学級委員の話をよく聞いていなくて適当に相づちをうっていたら悪役の男の役になっていた。
私女だよ!?と反論したが『逆に面白くていいんじゃない?』と言われてしまい後に引けなくなってしまった。
仕方なしに演じた悪役の男は意外にも好評で『私が考えていた通りのキャラだったよ!あんな風に演じてくれてありがとう!』脚本を書いた女の子は泣きながらそう言ってくれた。喜んでくれたのはよかったけどあの時はちょっと引いたのを覚えている。
高校に入学してからはそのこともあって演劇部に脚本を書いた女の子に誘われて一緒に入った。
私の演技はなかなかの好評で先輩に可愛がられた。
そんな私には好きなキャラが一人いる。そのキャラは騎士の男の人だった。強くて家族思いで普段は静かだけど時折激しい感情をみせる。まあよくあるキャラなんだけど小さかった私はたまたまつけたTVでやっていたそのアニメを見てTVの画面に食いつくように見ていた。
その上録画をしてお母さんが呆れるほど見たのでそのキャラの性格やら特徴は頭の中にインプットされている。
人生最後に演じたい役はと聞かれたら即あのキャラをあげる。
……もう人生終わりそうだけど。金髪の人けっこう近づいてきてるし。
2回目の人生4歳で終わるとか虚しすぎる。どうせ死ぬんだからあのキャラを演じてみようかな。あの人強い設定だったし。
スウッと息を吸い込んで瞼を閉じる。あの男になりきろう。
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マルシは焦っていた。可愛いサラルが男に捕まって剣を持っている男に今にも斬られそうだったからだ。
その前まではよかった。青白い顔をしながらも男から逃げきっていたのだから。
それが今はどうだ。顔をうつむけてぐったりとしている。
金髪野郎がサラルの前で彼を切り殺そうともったいぶって立ち止まった。
ああ。もうだめだ。
サラルはうつむけていた顔をゆっくりとあげた。その顔は先ほどまでとは違い冷静な顔つきになっている。
ん?どうしたんだ?俺はいつもとは違う雰囲気に違和感を感じた瞬間、捕まっていたサラルは頭を後ろに勢いよくそらした。彼の頭はちょうど彼を捕まえている男の顎にガツンと当たり、油断をしていたその男は突然の痛みにサラルを拘束している腕の力が一瞬抜けてしまう。
その力が抜けた一瞬にサラルはその男の腕の中からスルリと逃れた。
サラルに逃げられた男は少し焦った様子で再びサラルを捕まえようと腕を伸ばす。金髪野郎に向き合っているサラルの背中にもう少しで手が届くというとき、サラルはくるりと男の方を向くとタッと駆け寄った。
何やってんだサラル。そっちにいくなんざ自分から捕まりにいくようなもんじゃねぇか。
そんな俺の考えを裏切るようにサラルは彼に伸ばされた腕をかいくぐると男の腰にある剣を引き抜いた。
男は剣を抜かれたことにぎょっとしたらしく慌てて取り返そうとするがサラルに剣頭で顎を殴られ後ろによろめいた。サラルは男がよろめいたところをすかさず首の一点を突く。そこは前に俺が護身術の1つとして教えたツボだった。なんだかんだいっても教えておいてよかった。実際には使うような状況になってほしくなかったが。
サラルはツボを刺激されて気絶をした男を一瞥すると金髪野郎を見つめる。金髪野郎はフンと鼻で笑うとサラルに攻撃を開始する。剣がカンカンと打ち付け合う。俺サラルにあそこまで教えてなかったんだけどな。どこで覚えたんだ?
打ち付け合っていてもやはり力では敵わないサラルは少しづつ劣勢になっている。ついにつばぜり合いになった。サラルは苦しそうに体を縮ませている。金髪野郎が押しきってついにサラルを斬ろうとした時だった。
「モウル傭兵団、人拐いの罪で拘束する!剣をおろして大人しく投降せよ!」
やっとついた騎士のやつらが狭い部屋になだれこんでくる。
「遅い。もっと早く来れなかったのか。」
俺を押さえていた男を縄で縛っている騎士に問う。するとそいつはにこっと笑って
「夜中に呼び出されたからね。他の人達を集めるのに時間がかかったんだよ。」
その言葉を聞きながら他の騎士に抱かれているサラルを見つける。サラルは騎士の腕から降りると俺に向かって駆け寄ってきた。
そのまま俺の服の裾に顔をうずめてひっくひっくと泣き出した。
今日はまったく4歳とは思えない行動を見せつけられたがやはり怖かったようだ。
「よく頑張ったな。」
そう声をかけて頭を優しく撫でてやるとますます声を大きくして泣くサラルだった。
4歳児にこんなこと出来ませんよね。