ドラゴンと空中散歩
翌朝、サラルは朝食をとりに宿の食堂まで降りていくと「お〜い!こっちこっち!」と朝っぱらからやけにテンションの高い青年に招かれた。サラルが招かれた席にすわりウェイターに注文をし終えるまでの間ウォルはニコニコと笑っていた。
「おはようサラル!」
「ん。」
「コブノー達はまだ寝ているよ。」
「そうなのか。」
朝食が運ばれてくる。味噌汁とご飯に焼き魚というなんとも懐かしいメニューが出てきたのでサラルは少し頬を緩ませた。
日本食と同じものがあることは知っていたもののヨーウィ帝国では食べられなかった。命令以外では行動出来なかったため食べていたものもヨーウィ帝国の名物など口にしたことなどなく、とんでもないものだった。
「おはようございます!サラルのお父さん?」
「そう呼ばれたことはなかったな。新鮮だ。」
ウォルとサラルが座っているテーブルの向かい側に座ったマルシの元にもウェイターが来たので注文をしている。
長テーブルのその部分だけ異様に人々の視線を集めている。巨大ダンジョンが存在するだけあって宿屋に泊まっている客は冒険者などが多い。だから筋肉がムキムキであったり目の険が強かったとしても興味を少し引いたり少し警戒されたりとするだけだ。
だというのにチラチラと長い間見られているのは雰囲気が異常だからである。
「朝からこんなに注目されるのは僕初めてだな。サラルのお父さんは慣れてるの?」
「まあな。ここまでとはいかなくとも人に見られることは覚悟をしていた。だがやはり居心地の悪いことには変わりない。」
ウォルは3人の中で一番早くに食堂に降りていたため残す料理は焼き魚のみとなっている。食堂は異常に混んでいるためにマルシの料理も先程やっと運ばれてきたところだ。
「サラルは……気にしてないみたいだね。」
サラルは久しぶりの日本食に夢中でゆっくりとご飯を噛みしめている。食事をしている間だけはサラルからほわほわとした幸せいっぱいのオーラが出ており、またサラルの食いっぷりは見ているこちら側も感心するもので料理を作ったおばちゃんはサラルの食いっぷりを見て思わず破顔していた。おばちゃんの作った料理をあんなに美味しそうに食べているのを見ているうちにきっと嬉しくなったのだろう。
ウォルが口元をナプキンで拭いマルシが味噌汁を飲んでいると箸を置いたサラルは爪楊枝をくるくると回し始めた。
「昨日父さんと言ってたことだが俺は学園で1年過ごした後、半年とちょっとの間だけ紅の勇者として働いた。それから先はずっとヨーウィ帝国で剣奴等として動かされていた。いろいろあったが今は晴れて自由の身だ。」
「等!?等って何か他にもしてたんだね?僕そんなこと初めて聞いたよ!?他に何してたの!」
「気持ち悪いことを食事の場で話さなくたっていいだろ。」
手短にマルシとウォルにこれまでのことを説明し終えるとウォルに運ばれてきたデザートの桃のようなものを爪楊枝で突き刺して口に放り込む。
「ちょっとそれ僕のなんだけど。それに僕達の旅をそんな簡素な言葉で済ましてしまうなんて。もっといっぱいあったじゃないか。」
やや非難げにそう言ったウォルだったが言われた当人は気にも留めていない様子。
「……」
「だって久しぶりに会えたお父さんなんだよ!いっぱい喋っとかなきゃ!」
「こんな大勢の人間が聞き耳立ててるところで話したくはない。」
朝食を食べ終わったサラルはまた元の殺伐とした気配を出している。
「話してくれようとするのは嬉しいが本人もこう言っているんだから後でゆっくり話してくれたらいい。」
マルシに穏やかな声でなだめられるようにそう言われたウォルはガタンと音を立てて立ち上がった。
「お父さんもそんなこと言って!後で後でって言ってたらおじいちゃんになっちゃうよ!」
ぷんぷん!と言いながら食べ終わった食器を戻しに行ったウォルは待ち構えていた女性達に囲まれているが愛想よく応答している。
「ぷんぷんとかよく言えるな……俺には無理だ。」
同い年だというのにこの性質の差は何なのか。
「あの子とはどういう関係だ?見たところお前の連れではないようだが。」
マルシは不思議だった。サラルとウォルは最後のダンジョン潜りの際に初めて出会ったものだと思っているのでいつの間にこれほど仲が良くなったのかがわからない。
サラルと別れる前であればサラルがコミュニケーションを上手くとったと納得もいくだろうが、よく喋る快活な以前とは違い無口で人とあまり関わりを持とうとしていないサラルではそう考えるのは少し無理があった。
「後で話すよ。あいつも俺が勇者として旅をしていた頃に関わってたんだ。」
「そうか。」
あまり話したくはない内容なのか?せかさずにゆっくり待とう。マルシにはその時間はたっぷりあるのだから。
*―――――――
ウォルが女性達に囲まれたままどこかへ連れだされたのを見送ったサラルとマルシはそのまま黙々とおかわりなどをして食べ続けていると、「おばちゃん!2人前な〜!」と耳元で大声を出されたサラルは耳を擦りながら顔を上げると寝起きのためか寝癖で白髪がピンピンになっているコブノーの顔があった。
ドカッとサラルの隣に座ったコブノーはテーブルに肘をついて笑顔で話し始める。
「ようマルシ。お前結婚してたんだな!息子と会った時びっくりしたぜ!」
「いや結婚は」
「奥さんを置いてこんなとこにいるなんてひでえやつだな!ところで俺も娘がいるんだ!結婚したわけじゃねぇけどな。トゥランっていうんだ。」
コブノーの後ろに隠れていたトゥランの小さな背をコブノーは手のひらで押してマルシと対面させた。
ぷるぷると震えながらトゥランは前に出されると怯えたようにコブノーの服の裾をキュッと握る。
「……こんにちは。」
「こんにちは。せっかくこんな可愛らしいお嬢さんに会えたところだが、お嬢さんは俺に怯えているようだから俺は部屋に戻ろう。」
「悪いなぁ。たぶんお前の雰囲気にビビってんだわ。」
マルシが宿の自室に戻っていきコブノーとトゥランが席について朝食を頼んだ後にはサラルが味噌汁をすすっている。
「よお。お前こんなに食ったのか?」
サラルが座っている机の周囲には山積みになった茶碗やお椀が並べられている。コブノーが見る限り椀の中には米粒などは一つもなく全て綺麗に完食してある。
「おかわりをした。」
「美味いのか?」
「美味い。」
「黒髪のお兄ちゃんはお肉をいっぱい食べたの?」
それまでは黙って聞いていたトゥランが話しだしたのでサラルとコブノーは合わせていた目線をトゥランに移す。
「肉は食べていない。今日の朝飯は焼き魚と味噌汁、白米だ。」
「急にどうしたんだトゥラン。腹が減って待ちきれなくなったのか?」
可愛いなぁ、こいつ。両脇の下に手を入れて自分の隣に座らせた後、薄い水色の髪をクシャクシャとコブノーに撫で回されつつもトゥランの目はサラルから離れない。
「ううん。お兄ちゃんから動物を捌いた時に出る匂いがしてるから気になっただけ。」
「……血、か?」
「うん。」
こっくりと頷いたトゥランに数秒固まっていたサラルだったが残っていたご飯を一気にかきこむと食器を盆の上に乗せて席を立った。
「海神から預けられた子供なだけあって鼻がいいな。俺の匂いはトゥランにはきついだろうから席を外そう。」
「ちょっと待てよ。俺とトゥランが移動するよ。お前飯食ってる途中だろ。
……あ〜あ、行っちまった。」
サラルは店外に出て行った。散歩でもするのだろうか。数日街に留まれと言われているので街から出て行くことはないだろう。
「サラルは昨日盗賊と戦ったんだよ。その時の血の匂いが残っていたのかもしれんぞ。」
うりうりとトゥランのほっぺたを人差し指で回すとトゥランはふにゃあと顔を和ませる。幼児なだけあってほっぺたの感触はふにふにと柔らかい。
「ううん。そんなんじゃないの。ちょっとついたぐらいの匂いじゃなくてすっごく濃い匂い。体の中からボワって香ってたよ?」
「それは……なんとも言えねぇなぁ。サラルは何やってたんだ?」
そう聞いてコブノーは一度トゥランの頬を撫でる指を止めるが再び回し始める。
あいつにもいろいろ事情ができたのか。前は馬鹿丸出しだったのにな。
コブノーは寝起きの頭でそう考えた。
「さて、朝飯食うか。いただきます。」
「いただきます!」
運ばれてきた朝食を見て手を合わせるとトゥランも同じく手を合わせた。これはコブノーが育った故郷での習慣のようなものでコブノーがしているのを見てトゥランも自然と真似をしている。サラルと旅をし始めた頃に同じ動作をしていたのを見て同郷の若者が勇者になったのか!とぬか喜びしたのは秘密だ。
トゥランは目の前に置かれた朝食のうち、焼き魚を見て目を輝かせた。
**―――――――
「いらっしゃいませ。当店には何の御用で?」
キツめの口調で女性の店員から問い詰められたサラルは静かな口調で応答する。
「服を買いにきたんだが。ここは呉服屋だろ。」
「そうですが貴方のような方が来るような場ではないかと思いますが?」
普通女性店員の客に対するこの対応は眉をひそめられるものだが、今回の対応については女性店員の上司である他の店員達も口を出すどころか逆に男性客に暴れられないかと心配して冷や冷やしている店員もいる。
「それはどういうことだ?」
「どうと言われましても、貴方のそのボロを纏っているような格好では到底当店で服をご購入できるとは思えなかったためでございます!」
サラルに面と向かってこうも言えるのは素晴らしい。サラルの発する背筋が冷たくなる気配にも動じずにここまで言えるのだから。
女性店員の足が若干震えているのは仕方がないだろう。
この間にも他の店員が店から出て行ったのを見ると護衛兵の詰所にでも行ったのだろう。要するに女性店員は兵士達が来るまでの間の時間稼ぎの役割でもしているというわけだ。
客に向かってボロを着ていると言うのはどうかと思うが実際サラルはボロと呼ばれても仕方のない格好をしているし、大抵このような格好をしている者は浮浪者など柄の悪い者なので新人である彼女の対応は咄嗟に出たものなのだろう。彼女達店員の考える乱暴者であれば最初から暴れていただろうが。
「仕方がないだろ。昨日着ていた服が最後のまともな服だったが知人に返してしまったからな。」
仕方ないか。とぼそっと言いながらズボンのポケットの中をごそごそと触ると茶色く変色した汚い袋を横にふった。
「あと、あんたが心配している金銭面のことだがこれだけある。これでもまだ文句を言うのか?」
「こ、これは……!!」
袋の中を覗いた女性店員は驚いた顔をするとサラルに深々と頭を下げた。話す声が少し震えている。
無理もない。サラルが提示した袋の中には一般人では持つことのない金額の金貨がぎっしりとつまっていた。
「失礼しました。」
「こんな格好をしている俺も悪い。気にしないからあんたの仕事に戻ってくれ。」
頭を下げる女性店員に軽く会釈を返すとサラルは店に展示されている着物を眺める。
サラルが呉服屋に来たのには理由があった。深刻なことに彼には手持ちの衣類が今着ている真っ黒なズボンとヨレヨレで薄っぺらい前の開いた上着しかない。前まではあと2着持っていたがそのうちの1着は破れて着れない状態になり、もう1着はこの間女体化する原因になった遊郭で脱ぎっぱなしになっていた。
昨晩コブノーに借りていた服もコブノーとトゥランが宿の食堂に降りてきた時点で畳んだ状態で返してある。もちろん洗濯済みでだ。
なんで呉服屋?服なら普通の安い店に行けばいいじゃん。とウォルにどやされそうだがサラルは単に着物を着てみたかっただけだ。女物の着物は着たことはあっても男物の着物は着たことがなかった。そうはいっても女物の着物もTシャツやワンピースが当たり前なあちらではほとんど着たことはなかったが。
ひと通り店内の着物の元となる生地を丁寧な店員の説明つきで見終わるとサラルは3枚の布を手に取った。
「これを購入したい。」
「わかりました。すみませんが寸法などを測らなければなりませんのでこちらに来て頂いてもよろしいですか?」
着物を作るのに必要な作業をすすめ店から出たのは昼過ぎ頃。2週間後に取りに来てください、と言われたのでけっこう本格的な店だったようだ。着物を仕立てるのに2週間というのは着物を仕立てる期間にしては短いようなのでまだマシなのか?そこのところは判断ができない。
女性店員にボロと言われた服装でいるままにはいかないのでとりあえず店で売れ残ってしまった既製の着物を買って着てみる。どうやって着ればいいのかわからなかったので店員のお兄さんに教えてもらいながら着る。
お会計を済ませて通りをぶらついていると真正面から風の塊がうねりながらサラルにぶつかってくるのを余裕で躱したが正体のわからないそれの後ろに子供がぶら下がっているのを見てギョッとする。
サラルの心配を他所に青い髪の少年はギャンギャンと喚いている。
「おいっ!なんでオレがこんな目にあわなきゃだめなんだよ!……え?起きた時にオレが目の前にいたから?ふざけんな!」
それはさておき。住民達が大騒ぎをしている。
「ドラゴンだ!なんでこんな街中にドラゴンが!!」
「逃げろ!そこどけ!」etc……
クラーケンの時と同じような反応をするもんだな。サラルはそう思ったが話す相手がいないので無言で目の前の状況を判断する。
「誰かなんとかしろ!!おいお前、昨日盗賊を引っ捕らえたうちの一人じゃねぇか!さっさと退治しろよ!」
「……」
何をどう思ったのかは知らんがチョイ太めのいかにも成金という風の中年オヤジがサラルに詰め寄ってきた。
ドラゴンを仕留めるとかめんどいだけじゃん。と考えているサラルにとって何故かだんだんと顔を近づけて話し続ける中年オヤジは邪魔だった。口臭が特に酷い。ハッカ飴のような匂いをさらにドギツくした匂いを唾が飛んでくる間近で嗅がされるものだからサラルからすればたまったものではなかった。
「何とか言わんか!口がねぇのか、口が!!」
「うるせぇから黙ってろ。考えてんだ。あと色々臭いからどっか行ってくんない?」
「なんだとおおお!!」とさらに詰め寄ってくるのをことごとく無視をしてドラゴンに近づくと中年オヤジは自然にサラルから離れていった。
「サラル!見てないで助けろよ!腕が疲れてドラゴンの尻尾を離しそうだ!」
「離せばいいじゃねぇか。」
「離したら逃げちゃうだろ!!」
「ほお?今のお前がドラゴンを捕まえていると?」
「そうだ!!」
「お前を背負って元気よく飛んでいるのにか?」
「う、うるさい!!」
「お前がそこにいたら邪魔でドラゴンに攻撃できねぇ。剣で斬られたいんなら別に構わないけど。」
「わかったよ!飛び降りるからキャッチしろ!」
サラルが何も言わないうちにドラゴンの背から飛び降りたザンをかなり距離があったと思うが見事に受け止めたサラルはザンを地面に落とした。
「お前さ、見栄張んの辞めたら?死ぬぞ?」
「うるさい!!仕方ないだろ!急に看病してた男の熱が下がったかと思ったらドラゴンになったんだ!」
「ダンジョンにいたドラゴンと考えれば自然だがアレは鱗が黒だったろ。」
目の前で元気よく飛び回り民家をぶち壊しているドラゴンの鱗は桜の花びらのような薄いピンク色だ。
ドラゴンの暴れ回る様子を感心したように眺めていると騒ぎを聞きつけたのかマルシ、コブノー、トゥラン、ウォルが駆けつけてきた。他のダンジョンを一緒に攻略したメンバーも来ようとしたようだが彼らは彼らで街に突如発生したゴブリンの群れの対処に回ったらしい。コブノーによると「終わったらそっちに行くから待っとけよ!」とのこと。
ひと通り暴れ回り満足したのか動きを止めたドラゴンはサラル達を見るとそのでかい顔をサラルの前まで蠢かせた。
「お前だな!俺様の楔を解いたのは!」
サラルの内心はいきなりそんなわけのわからんことを言われても。楔とは何ぞや?といった風だ。
何も言わないサラルに焦れたのかドラゴンは勝手に話し続ける。
「俺様の首に玉があっただろ?お前がその剣で壊したんだろ?そうだろ?」
サラルの腰には紅の剣があり、それをドラゴンが顎で必死にクイックイッとジェスチャーしているので先程からドラゴンの言っている『お前』というのはサラルのことなのだろう。
「そうだな。」
「じゃあ俺様と勝負だ!復活したのだし楽しまねば!」
「知らねぇよ。勝手にやっとけ。第一その巨体と俺とじゃ勝負にならんだろ。」
サラルは面倒なのかダラっとしている。あくびをしているのがいい証拠だ。
「ではこれでよかろう!」
どうやって鳴らしたのかは知らないがドラゴンの前脚をパチンと鳴らすとドラゴンの姿は瞬く間に人間の姿に変わった。ドラゴンの鱗と同じ桜色の頭髪を腰まで垂らした容姿だ。
「あっ!お前ダンジョンでオレが重い目にあいながら宿まで運んだヤツじゃん!」
「あの節はありがとうガキンチョ。」
「オレはガキンチョじゃねぇしっっっっ!」
ぎゃあぎゃあと煩い二人(一匹と一人?)だったがドラゴンがザンの頭をガシっと掴むと晴れやかな笑顔を浮かべる。
「お前が俺様と勝負しなければこのガキンチョの頭蓋骨を粉々にしよう!さあ!勝負をするか?」
「……」
「悩むなよ!そこは即決だろ!」
ザンは先程までとは打って変わって半泣きだ。
「……わかった。やろう。」
「おお!よかったなガキンチョ!俺様に頭を潰されずに済んだぞ!」
「うっせー!うわぁぁぁあああ!!」
ダダダと走ってきてサラルの腰に抱きついたのはサラルも驚いたようでザンの顔をガン見している。
「ヤれよ!負けるな!」
「言われなくても勝つっつーの。」
サラルが紅の剣を抜くと同時にドラゴンもどこからともかく剣を取り出す。
「あれって前にウォルがやってたやつか?」
「そうだね。異空間だ。ドラゴンなんだからあれぐらいやって当然だよね。」
半壊した呉服屋の長椅子に座るウォルはつまらなさそうにザンの腕を引っ張り隣に座らせる。
「何すんだよ!」
「どう見てもそこに立ってたら邪魔でしょ。」
ドラゴンとサラルはジリジリと剣を構えたまま睨み合っていたが先にドラゴンが動いた。
元があの巨体だからか華奢にも見える細腕からは考えられない一撃がサラルを襲う。
「……鬼みたいだな。力が強い。」
「へぇ?鬼知ってんだお前。そりゃそうだなァ!親戚だからナ!」
何に興奮しているのか攻撃が早くなっていく。サラルは逐一それらを受けずに流しながら避けている。
「剣術でいえば俺様よりも下のガキンチョ共は弱ぇえしジジババは強すぎる。あと俺様の相手になんのが人間とかなんだけどどいつもこいつも弱すぎて弱すぎて。あんの馬鹿に閉じ込められて頭ン中をグチャグチャにされるまでは退屈すぎだった!
久しぶりに地上に出れてキッカケを作ったのがお前だってわかったから興味が湧いたけどお前も弱すぎだろ!」
暴言を吐ききるとサラルに対しこれまで以上の力を込めて剣を振るうのかドラゴンの腕にビキビキと血管が走る。力任せに振り切られた剣はしかしサラルをかすってさえいなかった。
「!?」
剣が勢いのあまり地面にのめり込んだそれを引き抜こうと躍起になっているドラゴンの頭上に影が射す。
サラルの蹴りがドラゴンの首に当たりドラゴンは剣の横に頭から地面にのめり込んだ。
ガポンと頭を引きぬき剣は諦めたのか素手でサラルにかかっていくドラゴンは力強い動きを見せる。
「フン!俺様に体術で敵うと思うな!」
剣を振っていたのと同じ豪腕でサラルの頬をドラゴンの手のひらがかするとそれだけでサラルは民家に吹き飛んでいく。どっこらしょ。と崩れ落ちてきた材木を払い立ち上がったサラルに追い打ちをかけるようにドラゴンは蹴る。反射的に蹴りを脚で受けたサラルは顔を僅かに歪めた。
「俺様の蹴りを受けて人間が足を折らなかったのは初めてだ!面白い!」
腕と腕。脚と脚で攻撃し合う両者は拮抗している。どちらかといえばサラルが若干力負けをしている。
暇そうに観戦しているウォルはトゥランの髪をいじりだす。
「あんなのサラルの戦い方じゃないよねコブノー?」
「そうだなぁ。なんてったっってあいつは身軽な動きが得意だったなぁ。」
サラルは受けていた攻撃を横に全て流すと宙返りをしてドラゴンの背後に降り立つ。サラルの動きに反応したドラゴンの股の間をくぐったサラルはドラゴンの片足を掴みドラゴンの体を持ち上げ地面に転ばせる。慌てて立ち上がろうとしたドラゴンの長い髪の毛を踏みつけると紅の剣をドラゴンの喉元に突きつけた。
「負けを認めるか?」
「は?俺様が負けるわけがなかろう!おお!やめろ!死んでしまうではないか!」
サラルが更に深く剣を喉元に突きつけたのでドラゴンの喉元には薄っすらと血が滲んでいる。
「わかった!俺様の負けだ!」
「満足したかドラゴン。もうさっさと家に帰れば?」
「そうだな!父上に会わねば!」
さっさと帰れとドラゴンを放すサラルの手をガシっと自ら掴んだドラゴンはドラゴンの巨体に変化したかと思うとサラルを口に咥えて大空に羽ばたいた。
「サラル!?ちょっと待って!」
驚いて魔法を使ってウォル達も追いかけてきたがドラゴンの翼の速度に敵うはずもなく。
ウォル達の姿はみるみるうちに豆粒ほどになってしまった。
 




