亡霊の唄―4―
かなり短いですがキリがよいためあげさせてもらいます。
翌日から楽師の青年は昨日街道で騒いでいた者達を探しだした。連れの少女が言った通りにかなり長い間あの場にいたというのであれば喧嘩の中心人物であった二人を探すのが手っ取り早いと考えたためだ。
また、青年は喧嘩の中心人物の一人であった少年が青年の捜す人物を追いかけている少年に違いないと考えていた。あの少年も相当なトラブルメーカーなのだからきっと件の少年だろうと。
探しだすのに手こずるかもしれないとふんでいた青年だったがあっさりと少年の居場所は判明した。
なんと昨晩揉めていた初老の男性のいる宿にいたのだ。正確にいえば初老の男性が所属するパーティに混ざっていた。
この際にいうパーティとはこの街一帯に広がるダンジョンを攻略するために集まってきた集団の一つである。
それにしてもこのパーティのメンバーはなかなかの面々で槍の冒険者の知り合いがほとんどだった。
ダンジョン内で先頭を歩く戦場でいえば斥候のような役割をうけおっているのは鼻と耳が非常によい人狼族のベティと山猫族のケイシィ。ダンジョン攻略をする他のパーティから勧誘をしつこいほどにされるほど頼りになる二人だ。ベティもケイシィもおっとりと穏やかな人柄でベティなどは人狼族の中でも部族内のヒエラルキーで差別が強い家族に嫌気が差し家を抜け出してきた口だ。
「パパには勘当だ〜って言われちゃったけどまあなんとかなるよね~」
「なんとかならなかったらうちにおいでよ〜木の上は気持ちいいよ~」
「え〜楽しみ〜」
自由というかのほほんとしているというか。こういう女性達である。
守りと攻めを固めるのは3人の男達。アッシュヘアーの一見クールそうでまったくクールではないメクトは槍の冒険者の酒飲み仲間だそうだ。おなじく酒飲み仲間であるタンラは同じ槍使いとしても付き合いのある人物だとか。残りの一人は鉄の仮面のようなものを顔の上半分にかけてつけている上に名前を名乗ろうとしなかったがパーティのメンバーにはよく思われているようで仮面の!と親しまれている。
昨日少年と揉めていた男性は体術をする者であれば誰もが知っている者で。楽師の青年に槍の冒険者が紹介しているのを聞いていた少年は青くなっていた。
またこのパーティのメンバーに飛び入り参加をしているのが昨日の少年と少年に頭を下げさせた人物。前髪が鬱蒼としている男の髪は派手な金髪だったので楽師の青年の探し人とは違うと判断した。
「もしかして君は○○街で壁を壊した子かい?」
槍の冒険者にパーティのメンバーを紹介してもらった流れで楽師の青年は少年に声をかける。
「そうだけど?オレ、今人探してるから邪魔しないでくれる?」
不機嫌な声だった。目に険が立っており、触れがたい雰囲気の少年だ。
「親御さんでも探してんのか?」
「違う。黒髪の目がギラギラしてた男。今はもうギラギラなんてしてないからわかんないけど。」
お前の方が目ぇギラギラしてんじゃねえのかと槍の冒険者が考えたのは普通だろう。
「もしかしてサラルとはぐれちゃったの!?」
楽師の青年が悲鳴に近い声で叫ぶと少年はああ、と頷く。鉄の仮面をつけた男はぴくりと反応した。
「なんであんたオレが探してるヤツの名前知ってんだ?」
「僕達もサラルを探してるからさ!せっかくここまで来たのにまた見失うなんて!」
「たぶんあいつはこの街から出てない。昨日の晩、ずっと街の出入口を張ってたけどいなかったから。だからオレはあんたを疑ってんだよ。」
ビシッと少年が指さしたのは仮面の男。顔を隠しているしたしかに怪しい。
「こいつは昨日このパーティに入ったんだよな?」
「そうだけど〜マrグフうっ!」
「話しちゃだめでしょ〜ベティ〜」
何故か口元を抑えられたベティだったが「は〜い」とすんなり黙ってしまった。
女性陣のやりとりが不思議に思いながらも少年は仮面の男に宣言する。
「ぜってーにこの数日で仮面をとってやる!」
「ま、ガキンチョのお話はこれぐらいにしてさっさと攻略やっちまおう!」
このパーティはダンジョンが発見された当初からダンジョン内をさまよっているパーティで昨日最深部に近い地点までいったのだそうだ。
「お前らすげぇな!こんな大規模なもん攻略しようとしてるなんてな!でもこれでこのダンジョンは最後なんだろ?お宝を5人で山分けできるっていうのに本当に俺達が入ってもいいのか?こんだけ大規模だとお宝ザックザクだろ。」
「い〜んだよ。実は昨日死にかけたんだわ。最深部だぜ、イエェ〜!って騒いでたら奥にいたモンスターに殺られかけちまってさ!奥の扉までいけると思ったんだけど仮面ののお陰でやっとこさ地上までいけたって感じ。」
「メクトも腕が落ちたんじゃねぇか?昔はあんだけ強かったのになぁ。」
槍の冒険者がメクトを残念そうに見る。
「メクトの腕がどうこうは置いておいて昨日はかなりやばかった。俺の槍が折れるかと思ったぜ。しかも扉の向こうからも獣の唸り声がしていたから大物がいるに違いない。」
「俺の弓の腕は落ちてないから!ちょっとぐらいは庇ってくれてもいいんじゃねぇのタンラぁ!」
「ついたぞ。」
仮面の男がボソリと呟く。目の前にはポッカリと大きく口を開けた洞窟が広がっていた。




